第8話 見かけた人は誰もなく
シローが逃げて1週間。あれからえっちゃんは元気がない。
店長は半ば、探すのを諦めたようだった。ちくしょう、俺達の仲間を見捨てる気かよ。
「アム、えっちゃん元気ないね」
チッチの目が潤んでいる。……のはもとからか。コイツはチワワで異常に目がデカいんだった。
「……はぁ……」
えっちゃんのため息を聞かない日はない。
「もう1週間経つね。シロー、どこにいるんだろうね。ちゃんとご飯食べてるかな」
えっちゃんが俺達のご飯を用意しながら、悲しそうに言う。
外はこの1週間で急に寒くなり、冬がすぐそこまで来ているようだった。
外に繋がる自動ドアが開く度に、ヒューッと冷たい風が店に入る。
「もうこんなに寒くなったのにね。雨の日とか、どうしてるかな。風邪ひいてないかな」
えっちゃんはお客さんと世間話をする際、いつもシローのことを話した。
「ここにいた白い芝犬、逃げちゃったんです。見かけたら教えてくださいね」
みんなに言っていたが、シローを見かけたという人は誰もいなかった。
「あ、ペンちゃん爪伸びてる。切ろっか」
コーギーのペンちゃんがえっちゃんに抱えられて爪を切られている。
シローはえっちゃんの温もりだけじゃ足りなかったのかよ……。こんなに優しいのに、それだけじゃ足りずに家族を求めて逃げたっていうのかよ……!
閉店時間が近くなったら寝床のケージに入れられて、人がいなくなったらみんなでお喋りして、少しずつ声が消えていって、外が明るくなって、少しざわついて、えっちゃんが来て、ご飯を食べて、お客さんが来て、夜が来て……。
そんな毎日は、同じようでちょっとずつ違う。
俺はすごく可愛い可愛いって言われる日もあれば、全然言われない日もある。
──俺はどんな家族に買われるんだろう。
シロー、外の世界は自由か?
それとももうどこかに拾われてぬくぬくと生活してるのか?
*
元気のないえっちゃんを見て過ごす1週間は、いつもの1週間よりも長く感じたけれど、いつの間にかシローがいなくなって2週間が経っていた。
今日は一段と寒い日だ。シローのことがやっぱり気になる。
夜、隣にシローがいないと夜更かし組の話し相手がいなくて淋しいよ、やっぱり。
「みんな、おはよう!」
──ワンワンワン!
──クゥ〜ン。
──ヒーン、ヒーン!
えっちゃんが寒そうに入ってきた朝。髪の毛に雪がついていた。
「今日は寒いねー! みんなは毛皮があるからいいね!」
そう言っていつものように朝のルーティンを済ませていくえっちゃん。俺を抱えた手はとても冷たかった。
「今日は雪が降ってるんだよー。シロー大丈夫かな。屋根のあるところを見つけていればいいけど……」
えっちゃんは今日も、お客さんにシローの目撃情報がないかと聞いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます