判決、異界流し。
ポク塚
第一界 プロローグ
こんなんおかしい。絶対におかしい。
こんなことがあっていいはずがない。今までずっと律儀に頑張ってきた、僕に限って。
「判決、被告人を<異界>流しとする」
つめたく、暗く、そして無駄に広い宮廷裁判所内に冷たい声がこだまする。
あのヒゲジジイは僕よりはるかに高いところから、バカにするように見下してきている。
これまで数々の、国にとっての邪魔者が消されてきたこの場所。
裁判所とは言っても即座に刑を執行する場合があるから、床には血がこびりついているのが見られた。
最低に嫌悪感が込みあがってくる。まさか僕がこっち側に回るなんて夢にも考えてもいなかったのだ。
ざわざわ、ざわざわ。くすくす。
なにがおかしいんだクズどもめ……。
僕はその場の全員に、心から訴えるように叫ぶ。
「ふざけないでくださいよ! 僕がなにをしたっていうんですか!!」
その、結局は無意味な問いかけにすらすぐには答えようとしない、僕のかつての上司たち。
「そんなの関係ないんだ。ごめんね。『国家の犬』くん」
くそったれ!! 誰が好きで国家の犬なんかになったと思ってんだ畜生!
腐ってやがる。腐ってやがる。腐ってやがる。
「直ちに執行せよ」
幾何学模様が床から浮かび上がり、肌で感じる空気が変わる。
無駄だとは知りながらも腹に力を入れて、術式の構成をイメージする。
「……だよな」
無慈悲にも中級業火魔法
意味わかんねえ。なんでなんもしてない僕がこんな目に、異界流しになんかならんといけないんだ。
これだからこんなの嫌なんだ。嫌なんだ生きにくいんだこの世界は!!
いままでお国のために頑張ってきたじゃないか……結局こうかよくそったれ!!
「魔術構成完了60秒前…59…」
目の端に、宮廷魔術師たちが大掛かりな魔法を作ろうとしているのが映った。
「僕ももう、終わりだなあーー」
決意したぞ。
絶対に戻ってきてやる。そんで、僕を陥れたやつをみんな、とびっきりの魔力で作った死炎のブラックホールにぶちこんでやる!
こんな国ぶっこわれろ!! とゆうか、こんな界ごとぶっ壊れろ!!
……。
ふう。決意終了。
僕の、一世一代の決意はこれで終了!
正直もう、つかれた。
一昨日から抵抗しっぱなし捕まりっぱなしで、身体的にも精神的にも限界だ。
あーあ。
あーーああ。
ほんとになんなんだよこの人生。
待てよ……考えてみればこの界で楽しいことなんていっこでもあったか? 一人も彼女なんてできなかったしなー。
こんな世界、生きてること自体苦痛だったしな。
でも、これでこの<二界>とはおさらばだ。
……そう考えたらもしかすると異界流しは、意外と良い刑なのか?
「向こうに行けば人生やり直しできる」、的な。
うーん。じゃあなんで死刑にしなかったんだろ、僕のこと。
さすがに死刑なんてしたら、今まで戦争で功績を上げてきた僕を支持してくれてる町民たちが、どんな反乱を起こすかわかんないから、とか?
……いや、ねーか。
むしろ反乱するとしたら内部の人間、僕の部隊にいたやつらくらいだな。
「おい、まだか? もう六十秒は経つぞ」
「す、すいません……。なにぶんこんなに転移距離が長い流刑は久しぶりで……」
話は変わるけど、向こうにいったら僕モテるのかなー。
モテ男爆誕か? おい?
うん、モテるんだろうなー。なんたってめちゃめちゃ強いし。[
きっとモテモテだ!
ようし、第二の人生への希望が見えてきたぜ!
あいやいやまてよ、それはその界のモテ基準によるか。
なんたって<一界>でさえ、顔がわるいブサイクなやつがモテる国もあるってゆー話だし。
それが国の差じゃなくて界そのものの差だったらどうなるのかは気になるところだけど。
ブサイク、ねえ。
僕の顔はどうだろう? う~ん、難しいところだ。
なんか「普通」なんよなー。
顔が普通なやつがモテる界なんてあるかな?
神話によると9個成功作の界があるはずだから、そんなにあればきっとあるよな!
……まあゆーて9とか別に多くねえし可能性は薄いかな……。
魔力、ってゆーか魔法のレベルがこの<二界>より低いとこだったらいいなー。
でも神が最初に魔力を生み出した、成功作の界がこの<二界>だから、<三界>以降はもっと魔力レベルが高いのかもしれない……、知らんけど。
もし<十界>とかになっちゃったらどうしよう。
作った順番がかなり離れてるし、全然違う文化なんだろうと予想できる。
こえーこえー。
まだ<二界>よりレベルが高いところがあるって決まったわけじゃないけど、不安でしかたねえ。
「……ところで。現実逃避、そろそろ疲れたんだけど」
なあ……六十秒にしては長くない?
そもそも六十秒も長くない?
なんか、すっごい緊張してたし足もガクブルだったのに、猶予がありすぎて逆に震えが収まってきたよ。
なるほどこれが初期微動とかいうやつか。
いや関係ねーか。
なんて馬鹿な事考えてるしか、やることがない今日この頃なのです。
やるならはやくやってほしいんだけど。
焦らしプレイ求めてねーよ。
おーいなんだよこの待ち時間。
術師は無能ダナー。
僕ならきっと秒だわ。秒でいけるわ。
まあ異界転移なんて超高度そうな魔法、僕にできる訳ないけど。やり方も知らんし、なんかむずそうだ。
「ふう……」
なあ、長くない?
ちらっと宮廷魔術師さんたちの方を見てみる。うわー、すごい頑張ってるし。
ん?
大臣になんか叱られてるぞ。そんで、頭ぺこぺこさせてる。
……なんか申し訳なくなってくるんですけど。
刑執行される立場なのに。
お前も大変なんだなー、そうなんだなー。
はあ…じゃあモノマネでもすっか。暇だし。
てってれー。
「(ダミ声で)独裁スイッ…
その瞬間、幾何学模様から強い魔力を感じて。
僕の意識は、そこで途切れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
う……ん……ここはどこだ? そうだ、僕は国家転覆テロ首謀の濡れ衣を着せられて……。
「あぶねえっ!! よけろ!!」
「へ?」
振り向くとそこには車が。
ドガーン!!!!
えーっとなにがあったか結論だけ言うと、思いっきりぶつかって轢かれた。
ぐわあああああ!!
いたい! しぬ!
たすけて!
ああ、僕の命もここまでか…死ぬ前にあのクズどもを一発殴りたかったなあ…って、あれ?
ちょっと待って?
「こいつはひでえ…トラックの下敷きだ…」
トラックとかそんなん、普通死ぬだろ。少なくとも回復魔法や強化魔法でも使わないことには、高いダメージを負うことにはなるはずだろ。
「こいつが急に道の真ん中に現れたんだよーー!! シュンって!」
まあ、痛いことには痛いんだけどさあ。というかかなり痛みは感じるんだけどさあ。
「早く110! いや、119か!?ともかくはやくーー!」
うーん?
なんで僕、こんなに平気なんだ?
うわー、みんな騒いでるし人も集まってきちゃったよ…。
とりあえず出るか。よっこらしょっと
……って軽っ!! え、なにこれかるい!? トラックってこんな感じでしたっけ!?
もしかしてこの車、
イヤ、どんだけ田舎なんだよここは。都会人の僕はこんなの生まれて初めて見たわ。
もしかすると、これが文化の違いというやつか。
やだよー、こえーよ。
つーか、僕がはい出てきた瞬間ギャラリーがざわついてんだけど。
なんか、四角いペラペラのなんかを僕にかざしてる人がたくさんいるし。えーと、なにそれ。
「げぇっ!? トラックの下から自力ではい出てきたぞ!!」
「ケガもなさそうだぞ!? なんなんだこのガキは??」
「おい大丈夫か? ガキ、今救急車呼ぶぞ。」
大げさかよ。
だってこの車、
あと僕はガキじゃない。
童顔だけど15歳のれっきとした大人だ(身長165cm)。
まあそれはいいけど。
それより……。
「あのー……、ただの素車にあたってもなんてことないですよ。それより、素車の方は大丈夫ですか?あんまり壊れてないといいですけど。」
「本当に大丈夫なん!? 確かにケガはしていなそうに見えるが…」
だから大げさだって。
「なあ、素車ってどういう意味だい? なんで『素車』だとなんてことないんだ?」
え?
素車という言葉を知らないひと?
どんだけ世間知らずなんだよ。
情弱かな?
いくら別の界にランダムで転移させられるっていってもこんな田舎の町からスタートとはな。刑になるくらいだしそうゆーもんなのかもしれないが、かなりアンラッキーだ。
これからどうやって生きていこう。
僕は田舎が、大嫌いなんだ。
ん?
いや、まてよ。ひょっとして……。
脳裏に中に浮かんだ最悪の予感。それを振り払うためにひとつ、訊いてみる。
その可能性を、否定してもらうために。
「帯魔加工してない車のことですけど……もしかして、まだ帯魔加工の技術が普及してないんですか? ……魔力を日常品にコーティングする技術のことですけど。」
おっさんは、何を言ってるのかわからないとでも言いたげに、
「魔力って、なんの話だ? そんなもんラノベとか漫画の世界だけにしかないよ?」
否定は、されなかった。
は? うそだろ?
ちょっとまってよ。
そんなわけないだろ。なあ、そんなわけないだろ!!
まさか、まさか!!
「すいません! 失礼します!
僕が跳びながら唱えた[重力操作]によりぼくの体はあっという間に空に飛びあがる。
……ことなく僕はジャンプした直後にそのままに顔面からこけた。
「お、おいガキなにやってんだ? さっきの事故で頭でも打ったのか?」
さも不思議そうに僕を覗き込む、事故のやじ馬たち。
顔の痛みなんて忘れて僕は、ここではないどこかに向かって走る。
「大丈夫です! ごめんなさい! 車壊して! すいません! さようなら!!」
幸い僕を追ってくる人は、一人もいなかった。
というかやばい。
これはやばい。
僕は走った。
人の流れに沿って走った。そうすれば町の中心につくと思ったからだ。
「おえっ!! くせえ!」
耐えられず、僕は道の端っこで立ち止った。
業火魔法を唱えたあとのにおいをさらに酸っぱくしたようなにおい。
無駄に高い建物群。
そして、そこを往来する感情が抜け落ちたような人々。
「なんなんだ、いったいなんなんだよここは!」
その問いの答えは、自分で理解していた。
どういうことかも、解っていた。
「畜生。……畜生」
認めたくなかった。そんなこと考えたくもなかった。
「……あぁ、確かにこれは、きちんと罰だ」
ここは、魔力が存在しない神の失敗作、<一界>だということなんて。
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