盗まれたへそくり③
「金四郎? どうした?」
キョロキョロとしていると父に尋ねかけられる。 特に理由があるわけでもないため、答えられる答えもない。
「ううん。 別に」
「じゃあ車のレースでお父さんと勝負をしようか」
「うん」
母は一緒にゲームをしてくれない。 だから友達が一人もいない金四郎にとって遊び相手は父しかいなかった。 しばらく父と一緒にゲームをしていた。
相手はいつも父であるが、ゲームはほしいものがあれば買ってくれるため飽きることもない。 それにこの瞬間は父も本当に楽しんでくれているのが分かり少し嬉しい。
たとえそれがゲームの力であっても、両親が喧嘩しているよりいいのだ。
「そう言えば、金四郎は将来になりたいものとかないのか?」
「・・・」
ゲーム中に突然そう問われ父をぼんやりと見つめる。
「ん? どうした?」
“お父さんは何を言っているんだろう?” そう思うも特に口には出さない。
「もしあったらどうするの?」
「そりゃあ、応援するに決まっているさ」
「本当に?」
「あぁ。 ・・・一応ほら、金四郎は俺の息子なんだし」
「・・・」
金四郎は黙ったまま父を見据える。 すると父は気まずくなったのかコントローラーを置いて立ち上がった。
「あー、そうだ。 飲み会の支度でも済ませておこうかなー」
「お父さん、行っちゃうの?」
「またすぐに戻ってくるよ」
まだ午前中だというのに父はいそいそと二階へ上がっていった。
―――・・・自分から話を振ったのに。
金四郎はこれ以上引き止めることはなく一人でゲームを続ける。 すると今度は会話を聞いていたであろう母がやってきた。
「金四郎、何かあったら言うのよ? 私とお父さんは金四郎の味方なんだからね」
「・・・」
何も言うことなくゲームを続けた。
―――お父さんとお母さんが優しくしてくれるのは嬉しい。
―――・・・だけどどこか、ムズムズする。
それからしばらくゲームをしていた。 母も何か作業していたようで、関心を寄せることもなかった。 だが一区切りついたところで突然背後から物音が聞こえては視線を向けざるを得ない。
「?」
もしかしたら背後から何かしようとしているのでは、そう思ったがそうではなく母も金四郎に気付き口元に人差し指を立てていた。
「しーッ!」
―――・・・別に何も言っていないんだけど。
母は慌てた様子で“しっし”というジェスチャーを送ってくる。
「金四郎はゲームでもしていなさい! 見ては駄目!」
いつも自分には優しい母に怒られてしまう。 だがその理由は分かっているため上半身を戻しゲームを再開した。
―――・・・またいつものか。
金四郎の予想は当たっていた。 母は金四郎に既に気付かれてはいるが、できうる限り物音を立てないよう慎重に移動し、リビングにある一番下のタンスをこっそりと開けた。
―――今は家にお父さんがいるというのに、よくできる。
金四郎はゲームをしていて意図的にそちらへ視線を向けないようにしている。 母にとってはそれがいいらしく、こんな風に金四郎に見つかることも過去に少なくない。
いじくっているのはお金、出所不明の母専用資金。 つまりへそくりである。
―――お母さんのへそくりはタンスの裏にある。
こっそりと張り付けている封筒の中に仕舞われている。 元々母の衣服しか入っていないし、もし誰かが開けて中の服を探っても決して分からないようになっていた。
―――でもそれって普通過ぎない?
―――映画やドラマを見ても、みんなはその位置に隠すよね。
―――どうしてだろう?
だからこそあえてそこに隠しているのかもしれない。 ベタな隠し場所過ぎて父も探らないだろうと考えているのかもしれない。 タンスの裏に貼ってある白い封筒を取り、そして中身を確認し始めた。
「うーん、おかしいわねぇ・・・。 やっぱり足りない」
その言葉を聞き金四郎は後ろ目で母を見た。 その言葉からすると、密かに父に見つかっているのかもしれない。
「溜めていたお金は使っていないはずなのに。 一体どこへ消えたの?」
―――そういうの、声に出しちゃ駄目じゃない?
心の中で突っ込みを入れるも気にしないフリをした。 母があたふたとしていると二階から足音が聞こえてきた。
―――お父さんが下りてくる。
そう思ったのは母も同じだった。
「ッ、マズい!」
母はそう言って急いでお金をしまおうとした。 だが間に合わずリビングへ何食わぬ顔で登場した父がその現場を目撃したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます