第39話 ニンジャ疾走! 正蔵ダウン?

 米空母ロナルド・レーガンの飛行甲板が大破……。


 そのニュースに食堂の皆が見入っていた。

 機器の故障か?


 飛行甲板上で航空機が爆発炎上した模様。

 駐機してあった戦闘機F35Cが12機、次々と爆発。

 現在、消火活動が続けられている。

 

『上空からの映像です』


 アナウンサーの言葉に合わせ、ヘリコプターからの映像に切り替わった。


 飛行甲板から炎が上がっていた。戦闘機が燃えている。周囲の小型船が放水しているのだが、火勢は止まらない。


「何があったんだ?」


 俺の問いかけに、夏美さんはニヤニヤと笑っている。


「うーん。ファランクス君が乗っ取られたみたいですね」


 椿さんが返事をしてくれた。


「何だ。味方に撃たれたのか」


 夏美さんは嬉しそうだ。


「そのようです。飛行甲板は撃てないように設定されているはずなのですが、書き換えられたようですね」


「空母全部じゃなくて機関砲だけ乗っ取ったと」

「そういう事です」


 俺の問いに答えた椿さんは腕組みをしてうなっている。


「うーん。これは早くカウンターシステムを実装しないといけませんね。みなさん、お食事済ませたら早速始めますよ」

「おおー」


 お子様四人が元気に手を挙げた。


「椿姉さん。ちょっとさ相談があるんだけど。いいかな?」

「何ですか夏美さん」


 隅の方へ行ってなにやら話している。二人は合意したようで、椿さんが俺に向かって話し始めた。


「正蔵様。今から夏美さんと外出して来てください」


 椿さんが俺の手を握りじっと見つめる。


「多少の不安はありますが、今後の対応を考えるとこれが最善策だと思います」

「何をするのかな?」

「それはオレが説明するよ」


 俺の言葉に夏美さんが返事をした。


「オレたちの敗北条件は何? 椿姉さんを奪われることだろ?」

「そうだね」

「椿姉さん以外で弱点と言えば何だ?」

「それは……俺ですかね」

「そう、正ちゃん。君だ。正ちゃんを捕まえて人質にすれば椿姉さんは容易に手に入る。椿姉さんを狙うより正ちゃんを狙う方が簡単だ。と普通なら考える」

「そうかもですね」

「そこでだ。正ちゃんを囮にして、サル助の動向を探る。多分ネット上での偽情報が正ちゃんの動きに合わせて変化する事で把握できるはずだ。ついでに尻尾を出してくれりゃ儲けもの」

「俺を囮にするんですか?」

「そう。それとな。ターゲットを正ちゃんに絞らせることで、余計な被害を防ぐのも目的なんだ」

「あの空母みたいな事故を防ぐと」


 TVでは飛行甲板が燃えているロナルド・レーガンの映像が流れ続けている。夏美さんは頷いていた。


「適材適所で行こうや。椿姉さんは情報収集と解析なら力を十分に発揮できる。物理的な力が不足しているのをオレが補う。囮役は正ちゃんが最高に適役。お子様達はシステムの仕上げに不可欠。そういう事だ」

「ララと軍曹は?」

「ここの護衛だ。他に質問は?」

「何を使って何処へ行くんですか?」

「それを今から見に行こうじゃないか。うふふ」


 不敵に笑う夏美さんであった。


「じゃあ正蔵様気を付けて。夏美さんよろしくね」


 挨拶を済ませた子供4人を連れ、椿さんはイージス・アショアの方へ向かって歩いていく。軍曹も椿さんについていった。


「囮は任せたぞ。ここの事は私に任せよ」


 ララに背中をバンと叩かれる。ララも軍曹の後に続いた。


「さあ正ちゃん。さっき、良いモノ見つけたんだ。見に行こうぜ」


 夏美さんに連れられ裏手の駐輪場へ向かう。

 そこにあったのは古い大型バイクだった。カワサキGPZ900R。ライムグリーンのフルカウルが眩しく光っていた。マフラーはノーマルで二本出しだ。メーターを見るとフルスケールで、時速270キロメートルまで目盛りがある。これは逆輸入車だ。フロントタイヤは17インチで、フロントブレーキは6ポット。最後の方のモデルだろう。恐らく40年くらい前の車両だ。バーハンドルに改造してある他はノーマルなのが嬉しい。俺好み。


 この元祖ニンジャは、トム・クルーズ主演の映画「トップガン」でトム・クルーズが乗り回していたことでも有名だ。

 ああ、こんなところでこんな名車に出会えるなんて。俺はもう死んでもイイって位に感動していた。


 コホン


 咳払いがした方に牧野士長がいた。ヘルメットとキーを持っている。


「えーっと。お貸ししますけど。貴重な稼働車両なんで大事に扱ってください。お願いします」

「任せときなって。萩に寄って頼爺の所で整備してもらうからな。タダで。大船に乗った気分でいろ。安心しな」

「俺は?」

「タンデムシート」


 バイクが一台しかなかったんで嫌な予感はしていた。夏美さんは、椿さんから借りたであろう大昔の飛行帽と英国風四眼ゴーグルを装着していた。ひらりとニンジャにまたがってチョークを引く。キーをひねってクラッチを握り、セルボタンを押した。

 一発でエンジンがかかりウォーンと一気に回転が上がる。ガシャガシャという機械音もカワサキらしい。

 夏美さんは数度アクセルを煽った後、チョークを戻した。エンジンの回転が落ち着く。排気音も、ドルルルルルと穏やかなものへと変化した。夏美さんはギアをローに入れ、クラッチをつないて走り始めた。ブレーキの感触を確かめたり、タイヤの感触を確かめたりしている。8の字に旋回した後、フロントタイヤを高々と上げたウイリー走行をして帰ってきた。その過激な乗り方に牧野士長は気が気では無い様子だ。

 片耳にインカムをつけてヘルメットをかぶる。借りた皮手袋をつける。夏美さんも手袋をしていた。

 夏美さんがタンデムシートをポンポンと叩くので、仕方なくそこへ座る。両足をタンデムステップに乗せ夏美さんの腰に両腕を回した。

 夏美さんが左手を振る。顔を引きつらせながら牧野士長も手を振る。

 夏美さんはクラッチを切って、ギアをローに入れる。クラッチをつないで一気に加速し、むつみ基地から出て行った。


 右に左に車体をバンクさせて軽快に走るライムグリーンの車体。夏美さんは大変気持ちよく乗っているようで、鼻歌交じりに操作している。

 ブレーキレバーをグイっと握って急減速し、ストンストンとシフトダウンする。ガードレールに頭が触れるか触れないかの所まで車体をバンクさせコーナーをクリアしていく。

 手を伸ばせば路面に届きそうだ。俺は正直、心臓がのどから飛び出るんじゃないかって位にビビっていた。


「正ちゃん。体の力を抜いて。硬くなってると運転しにくい!」



 俺も二輪免許持ちだけどこんなペースで山道を走ったことなんかない。


「分ってますけど、もうちょっとゆっくりお願いします!」


 と、必死に訴えるのだが……。


「あら~、まだまだ。もっと飛ばすかな?」


 あっさりと却下された。


「これ以上は勘弁してください」

「了解♡」


 少しはゆっくり走ってくれるかと思えば、更に加速する。ちょいと長い直線道路では、限界近くまでエンジンがうなる。時速200キロ以上出てるかもしれない。俺、ここで死ぬかも……と、本気の恐怖を味わっていた。


 あまりにハイペースだったため、15分程度で笠山の紀子博士宅に到着した。俺はびっしょりと冷や汗をかいていた。息も上がっている。


「夏美さん。ちょっと休憩しましょう。着替えたいし。着替えあるかな」

「もう、情けないんだから。ここで車に乗り換えるわ。秋吉台までツーリングに行きたかったんだけど無理っぽいしね」


 夏美さんに連れられ紀子博士宅に入っていく。人は誰もいないようだが、数体のアンドロイドが出迎えてくれた。


 洋室に通された。ここは元リゾートホテル。

 ベッドが二台並んでいる。ツインルームというやつだが、リゾートホテルなので部屋はかなり広い。

 まだ午前9時前だった。たっぷり冷や汗をかいたのでバスルームへ入ってシャワーを浴びる。そういえば昨夜も入浴していなかったなと思い、石鹸で体を念入りに洗う。シャンプーで頭も洗った。全身くまなく洗い実にさっぱりとした。

 備え付けのバスタオルで体を拭きながら部屋へ戻るとそこには悩ましい姿のミサキさんがいた。


 ララと一緒にいたミサキさんだ。間違いない。ほとんど下着姿と言っても良い恰好でソファーに座っている。

 キャミソールというのだろうか。白っぽい下着が透けて見える生地のものだ。その下に下着。ピンクの花柄のブラとショーツが見える。立派な胸が突き出ているのが物凄く悩ましい。

 俺はバスタオルで体を隠し、モジモジしながら尋ねた。


「あの~ミサキさんですよね。どうしてここに? 俺の服は?」

「ちょっと匂ったので洗濯しています。乾くまで一時間ほどお待ちください」

「その間の着るものは……」

「うふふ」


 彼女は何も答えず、怪しく微笑んでいた。


「えーっと。どうしましょう?」

「堅苦しいことは抜き。さあ座って。コーヒーでもお飲みになって」


 ポットに入ったコーヒーをカップに注いでくれた。俺はミサキさんの反対側のソファーにバスタオルで股間を隠しながら座る。

 コーヒーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。コーヒーのかぐわしい香りが胸いっぱいに広がった。俺は一口飲んでから、ミサキさんは飲まないのか気になった。


「ミサキさんはコーヒー飲まないんですか?」

「ええ。先ほどいただきましたから。それに、そのコーヒーは正蔵さん専用の特別性ですよ」


 俺専用? 何の事だか……。

 体が動かなくなった。しゃべれない。声も出ない。


 どうしたんだ。


 そこへ夏美さんが入ってくる。俺の様子を一目見て、ニヤリと笑った。


「うまくいったみたいね」


 ミサキさんは頷きながら怪しく微笑んだ。


「さあ始めましょうか」


 夏美さんは着ていた服を全部脱いだ。見事なプロポーションが、俺の眼前に晒された。その途端、俺は睡魔に襲われ意識が途切れた。


※物語の演出上、道路交通法違反をしているような表現をしております。当作品は道路交通法を軽視する意図はなく、ルールとマナーを守った安全な運転を推奨いたします。

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