第11話「選択肢が【はい】しか無い」
「決闘だって……?」
エマさんの口から、物静かな見た目とは裏腹の強烈な単語が飛び出てきたことに驚いていると……。
「〆◇£¢§☆◎○!?」
興奮のあまり語彙を喪失したのだろう、セラが何事かをわめきながら暴れ出した。
「§★~◇&£¢≦!?」
「待て待て落ちつけ。エマさんが言ってるのはたぶんそういう意味じゃないから」
セラを再び
「ねえ、そうですよね? ある種の風習というか、お祭りというか、俺のいた世界にもそういうのはあったんでわかります。料理人同士だから、腕力に物を言わせる感じじゃなくって、料理の優劣で勝敗を決めるってことですよね? 互いに料理を作り合って、審査員に食べさせるというような? ね? そうですよね?」
和の鉄人や中華の鉄人が活躍していたテレビ番組を思い出しながらの俺の質問に、エマさんは小さくうなずいた。
「そちらにもそういった催しがあるのでしたら、説明が
「ああ、だったら大体同じです」
思い描いたものが合っていたことに、ほっと胸を撫で下ろす俺。
これで、「いいえ、本気の命の取り合いです」なんて言われたらどうしようかと……ってあれ、でも待てよ……?
「しかしなんだってまた、こんな俺に決闘を? あなたはだって、公爵家の料理長じゃないですか。貴族階級において最上位である公爵の。王様に次ぐ2番目の地位の。料理人だって10や20じゃきかないだけ抱えている大きな厨房を統率する料理長が、本気でなんだって俺に?」
ただの
少なくとも料理長という称号は、
「お嬢様からのご指示によるものです」
「フレデリカの指示……?」
「ええ。聞いたところによりますと、お嬢様はあなたに乙女としての尊厳を踏みにじられたとか」
「言い方っ」
公衆の面前でプライドをグチャグチャにしてやったことは事実だが。
「本来ならば万死に値する話ではあるのですが、今回ばかりはギュスターヴ閣下が寛大なご処置で許してくださるそうです」
「それ俺、ありがたがったほうがいいのかなあー……?」
ものすごい釈然としない言葉に、首を傾げる俺。
「ですが、お嬢様個人としてはそうは参りません。あなたがこのままのうのうと生きながらえる姿を想像すると不愉快でならないと。そこでわたくしの出番というわけです。公衆の面前で料理対決を行い、あなたをけちょんけちょんに打ち負かすことで、お嬢様は
「んー……なるほど、要は自分だけ恥をかいたのが許せないってことね。だから俺にも恥をかけと。はあ~っ、めんどくさい奴だなあ~……」
雇い主の無茶ぶりに次ぐ無茶ぶりを忠実に実行しなければならないこの人の立場には、本気で同情する。
だがそれはそれだ。
決闘なんてバカげた話につき合う義理は……。
「ジローっ、ジローっ」
いつの間にか羽交い絞めを抜け出していたセラが、大きな目をキラキラさせながら見上げてきた。
「料理チョーと戦うんだねっ? 勝って、料理バンのほうが強いとショーメイするんだねっ?」
「え? いやいやいや、全然そんな気ないんだが……」
先ほど説明したように、公爵家の料理長というのは料理人としても相当上の階級だ。
こんな
「怖がっちゃダメだよ、ジローっ。大丈夫だから、セラがついてるからっ」
「別に怖がってるとかじゃなく……」
「ジローの料理は最高だからっ。絶対誰にも負けないからっ」
だが、少なくともセラはそう思っていない。
この小さな俺の助手は、俺の料理を愛し、俺の腕前を信じてくれている。
いずれは聖女様の料理番になるほどのものであると。
こんなところで負けるような男ではないと。
「あのさあ……」
「ジローっ、頑張れっ」
「さすがにおまえそれは……」
「ジローっ、頑張れっ」
あ、ダメだ。これ断れないやつだ。
はいかいいえしか選択肢が無いのにいいえを選んでも話が進まないRPGみたいな。
「はあ~……しかたねえなあ~……」
俺は心底ため息をついた。
返事を待つエマさんに向き直ると、改めて告げた。
「わかりました。どうにも仕方ないのでその決闘、お受けいたします」
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