第23話 攻め込む
隠れ家がネクロマンサー達に割れてしまったため、今ボク達は新しく人目のつかない隠れ家にいる。
移動の途中、老人や怪我人が「俺を置いて先にいけ」的な雰囲気を出してきたものの、「歩けおら」と仕方なしに鞭を打ったおかげで全員で隠れ家へと移動ができた。
「ノエルお姉さん、そういえばさっきルリーナさんと何を話していたんですか? 私気になります!」
「ルアにも後で教えますよ。まあ簡潔明瞭に言ってしまうと事情複雑というところですかね」
「んー、何とも納得が出来ない大人の事情的な感じですか?」
「まあそう思ってもらって構いません」
あの時、「妹を殺してくれ」と頼まれた時ボクはその場で答えを出すことが出来なかった。
なのでルリーナさんとの関係値は現在気まずさの極振りステータスになっている。
いやまあお前亡霊キラーしたじゃんと思われるかも知らないけど、人型の、しかも元々は人間の女の子を殺すというのは意識してみると抵抗がある。
なのできちんと考えて見るとそう易々と快諾できるものでは無いのだ。
要するにめちゃくちゃ困ってるし悩んでる。
ネクロマンサー・ミレイナの容姿はせいぜい十五歳程度で、攻撃を浴びせるなんて今更だけどボクの人徳が「それはあかん」と警告を出し始めた。
「ノエルさん、先程の話ですが⋯⋯」
「とりあえず外に出ましょうか。ここでは皆もいますから」
新しい隠れ家に移動するまでにかなり時間があったが、それでも結論を出せないボクに業を煮やしたのか知らないがルリーナさんが話しかけて来た。
ここで話す内容ではないと思うので隠れ家から一旦出る。
「あの、やっぱりその件ですけど⋯⋯」
「ノエルさんしかいないんです。魔物に有効打を与えられるのは」
「はい?」
ボクが言葉を発しようとしたのをルリーナさんが強引といった感じで遮った。
有効打を与えられるのがボクだけってどういう事なんだろう。というか人の話遮るな。
ちょっとだけ荒んだ心でルリーナさんの次の言葉を待つ。
「同じ魔法でも、勇者の魔法は普通の魔法使いが放つ物より威力が数段上なんです」
「え」
「まあ『魔物』限定ですけどね。だから初めに亡霊達が攻めてきた時にあれだけの数の亡霊を相手に押し返すことが出来たんです」
どういう仕組みか知らないけど、勇者認定されている人間は魔物討伐に優遇されるって事か。
街の人達が勇者と聞いてすがりついてきたのも、そういう理由があるからなのかもしれない。
そしてまさか唐突の俺つえー展開がここで来るとは思わなかった。
「だからお願いします! 妹を殺してください!」
「⋯⋯殺しはしませんが、一度アナタたち姉妹がしっかりとわ話せるように瀕死まで持っていく事なら構いませんよ」
「瀕死、ですか?」
「はい。どうしても殺したいのならトドメはルリーナさんが刺してください」
やっぱり殺しなんてボクには無理だと思ったし、一度ボコして話し合う機会なんかを作るのはありなのではないかと思った。
あと最悪手にかける時はルリーナさんということにしてしておけば、ボクが殺る必要もない。
魔法を魔物相手でも攻撃する為に極力使いたくもないし、そこは分かって欲しい。
「分かりました。じゃあミレイナのいる亡者たちの巣窟に行きましょう」
「へえ、相手の居場所は分かってるんですね?」
「一度はミレイナの部下でしたから。何処にいるかくらい分かりますよ」
「そうですか。で、妹の下についてこき使われる気分はどうでしたか?」
「最高でした」
シリアスな空気感だったはずなのに何時の間にかルリーナさんのマゾヒズムが露呈していた。
本当に「妹を殺して下さい」と真面目な面持ちで頼み込んできたルリーナさんと同一人物なのか。
「アナタ本当に同一人物なんですか?」
「え、何がです?」
「⋯⋯まあいいですけど。そろそろミレイナさんの所まで案内して下さい」
「ならホウキ乗せてください! 亡霊になってからホウキに跨ってなかったので」
能天気なルリーナさんに呆れつつ、二人でホウキに跨る。
もしかしたらこれから妹が死ぬかもしれない状況で、能天気なふりでもしないとやってられないんだろうか。
「まあ何とかなりますよ。言っても無駄でしょうけど深く考え過ぎないでください」
「これから何しに行くか分かってます? ノエルさん能天気ですねぇ」
「アナタにだけは言われたくないです。せっかく気遣ってあげたのに⋯⋯」
何時までも話している訳にもいかないので、「ホウキさんお願いします」と声をかけてふわりと空に浮く。
後ろからホウキに乗るルリーナさんの「この感じ懐かしい〜」とはしゃぐ声が聞こえる。
「じゃ、行きますよ」
ふわりと浮いたホウキにルリーナさんから来る指示を伝えて、銀と淡い紫色の髪をなびかせて亡霊の街を飛ぶ。
ちなみにルアさん達は置いてきた。
言い方は悪いけど足手まといにしかならないし、人数が多ければ多いほど不利になる。
ルアさんにはもしもボクたちのいない間に亡者達の群れが攻めて来ることがあったら、街の人たちを置いて逃げる様に伝えてある。
理由は単純明快、一番傷付いて欲しくないというボクのエゴ贔屓だ。
そんななことを考えている間に目的地に近付いてきたらしい。
「ほらもう見えましたよ。あの大きな家がそうです」
「大きな家というか、屋敷とかお城の類に見えるんですけど⋯⋯」
「そうですか? 元々いたこの街の偉い人が住んでいたみたいなんですけど、ミレイナ達が乗っ取ってしまいました。なので今は亡霊達の本拠地です」
ボクの目の前にどう見ても城や屋敷の類としか思えない建物がそびえ立っていた。
ボクもお姫様になったら大きな屋敷を建てさせて、無賃で余生を過ごすのもありかもしれない。
「このまま突入しては部下の亡者達に取り囲まれてしまいます。ここにいる亡者達の数は数十体じゃききません」
「あっ、え? まあそうなんじゃないですか?」
「あのーノエルさんちゃんと私の話聞いてましたか? 何考えてたんです?」
「余生の過ごし方について考えてました」
「は?」
場違いな発言にルリーナさんの怒りを買いかけたので慌てて「さあ! 行きましょう!」と話題を切りかえた。
「待ってください、このまま突入するよりもミレイナのいる部屋の窓をぶち破って二対一の状況を作る方が有利に事を運べます」
「それ姉の発言ですか。殺る気満々じゃないですか」
「それだけ私の覚悟は深いってことです。あの窓を破って突入しましょう!」
ルリーナさんは大きな窓を指差す。
目を凝らして窓をよく見てみると、窓から椅子に座って何か手紙の様な物を書くミレイナの姿が見えた。
「えい」
なので言われた通り問答無用に炎魔法を放って、窓をぶち破った。
「出来ればガラスの破片がミレイナに突き刺さってダメージを与えられないかな」とか思ってしまった私は悪い子何でしょうか。
「なに!? 敵襲!?」
「危なくガラスの破片が突き刺さるところだった⋯⋯」
どうやらガラスの破片が突き刺さることは無く、ただ驚かせただけだったようだ。
「チッ、外しました!」
「君たち、ルリーナと勇者か。 まさかこんな大胆な形で侵入してくるとはね」
ミレイナに見つかったので壊れた窓からホウキで室内に入る。
外も部屋の中も薄暗いけどかなり豪華な内装をしている事が分かった。
「どうもミレイナさん。魔王軍直属の幹部のアナタも今日で年貢の納め時です」
「ミレイナ! これ以上アナタに罪を重ねさせる訳にはいかないの、許して頂戴」
「面白い冗談を言うね。もしも冗談じゃなかったら脳が壊れているんじゃないかな」
ミレイナはボク達を罵ると、不敵に笑って手から闇色の火球を浮かび上がられた。
色は違うけどボクの炎魔法と何となく似ている。
「魔王様から認められた私を君たち如きが倒せるとでも? 当然死ぬのは君達だ!」
ミレイナが放った闇色の火球をきっかけに、決戦の火蓋は切って落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます