第20話 襲撃ネクロマンサー

 襲いかかってくる亡者たちにボクは今絶体絶命のピンチに陥っていた。



 瞬く間に亡者たちがただでさえ狭い隠れ家の面積を圧迫してきた上で「ウアアアア」なんてキモ……ではなく特徴的なうめき後をあげて、街の人たちに掴みかかっている。




「キャアアアアアア!! お願い勇者様助けてェ!」



「あっ……奥さんらしき人亡者の餌食になりそうです! えい!」、ボクは亡者に向かって魔法を放つ。



「グアアアアアアア!! 勇者の嬢ちゃんこっちも頼む、殺されちまうよ!」



「気の良さそうな男性が亡者に首を絞められてるっ! 今すぐその方から離れてください!」、ボクは亡者に向かって魔法を放つ。



「ウワアアアアアアア!! ノエルお姉さん、私いまめっちゃ後ろから絞められてますっ」



「ルアまで亡者の餌食に……てかキリがなさすぎです、助けても助けても全く状況変わらないってどういうことですか!!」、ボクは亡者に向かって魔法を放つ。




 何度亡者に向かって魔法を放てばいいのか⋯⋯。



 助けを求められる度に亡者たちに炎魔法を放つが多勢に無勢にというし、いくら倒しても倒してもこの劣勢な状況は覆らない。



 それに必死に杖を振り続けるボクを嘲笑うかのような表情で見てくるネクロマンサーが視界の隅に入ってきて大変不愉快だ。




「余所者出ていけ、出ていけ!」



「何よ、私たちの街を奪っておいて! 出ていくのはあなた達の方じゃない!」




 杖を振るいまくっているボクの後ろから、女性の憎悪が含まれた怒声が聞こえてきた。


 まあ街を奪われたんだから当然の事だろう。




 ただ問題はここからだった。


 怒りの声をあげた女性が程なくして悲痛な声で額を抑え始めた。


 亡者に攻撃されたのか額から生々しい血が流れて部屋中に鉄の臭いが漂っている。




「ちょ、大丈夫ですか!? 直ぐに手当をしないと手遅れに⋯⋯」




 慌てて女性を攻撃した亡者を焼き払い、女性に近付くも出血が酷い。


 医療の当選知識は全くないし回復魔法の類も使えないけど、このまま放置しておくと出血多量だとかで命を落としかねない。




「ミレイナ、今すぐこんなことはやめなさい! アナタは傷付いている人を誇っておけない優しい妹だったはずよ!」



「また私を妹扱いするのね、気持ち悪い。それにルリーナこそいつまで魔王様の意向に背く気なの? いい加減にネクロマンサーの亡霊としての自覚を持ったら?」



「魔王の意向なんて知らないわ、ミレイナは魔王にいいように使われているだけなのよ!」



「ルリーナ、魔王様を愚弄したな!」




 ルリーナさんが妹の目を覚ます様に問いかけるけど、ネクロマンサーからしたら魔王を悪く言われる事はどうやら地雷みたいだった様で、大声を上げて怒鳴った。




 主に呼応するかのように亡者達も「グォォォ!」と唸り声を上げだした。


 既に周りにはボクが守り切れなくて怪我をした街の人達がチラホラと出ている。




「うぁ、ぁぁん⋯⋯!」



「え⋯⋯⋯⋯?」




 子供の泣き声がして振り返ると、大きな怪我こそはしていないが小さな赤ちゃんが泣いていた。



 ダメ! ボク、全然何も守れていないっ。


 助ける義理はないけど小さな子供も守れない勇者なんて、そんなのお姫様になる資格がない!




「生きているものに死を⋯⋯」



「さっきからうるさいですよ! 死んでるんですからとっとと成仏して下さい、死ぬのはアナタ達だけで充分なんですよ!」




 ボクは怒りに任せて叫び、炎魔法をなりふり構わずに乱射した。


 自分でも連続して魔法を使う事は初めてだったが、この数相手なら機関銃代わりの物でも必要だろう。




「おらおらおらぁです! とっとと全員召されて下さいっ!」



「ノエルお姉さん⋯⋯私達にも当たるっ!」



「ダメです、多分ノエルさん私達の声聞こえていません」




 視界の端からルアとルリーナさんの声が聞こえたような気がしたが、生憎二人に気を取られている程余裕はない。



 魔力を使いすぎたのかしっかりと意識を保っていないと気を失って⋯⋯⋯⋯。




 ここでボクの意識はぱったりと途絶えた。


 原因は恐らく魔力を倒れるまで使いすぎた事だろう。


 そして、再び隠れ家で意識を取り戻した時はネクロマンサー達は既にいなかった。



 目を覚ましたらルリーナさんとルア、街の人達がボクを囲っていた。


 起きたら全本位囲われてたとか怖すぎる。




「ネクロマンサー達は? 皆さん無事⋯⋯ではないですね、怪我されてる方沢山いるし」



「ノエルさんが炎魔法を連弾したら割と早いうちに撤退しましたよ? ノエルさんは倒れるまで気付かなかったみたいですけど」



「なるほど、つまりボクは冷静さをかいていたと」



「機関銃レベルの炎魔法に普通に私も街の人達も巻き込まれるとこでした」




 ルリーナさんは「本当に危なかったんですよ?」とでも言いたげな含みのある表情で見つめてくる。




「ボクだって必死だったんですよ」



「ん、助かりましたよ。ノエルさんがいなかったら私もこの街の人達も全員殺されていました」




 ルリーナさんは淡々と言葉を発する。


 助かったと感謝されても未だ首の皮1枚繋がった程度だ。


 直ぐに奴らはまた攻めてくるだろうし、ボクとしては全く救われた気にならない。




「あの、奴等は恐らくまた攻めてきます。それまでに今よりも目につかない新しい隠れ家に避難しましょう」



「それもそうじゃな。ただ怪我をおってしまった者もいるし、ワシら年寄りも素早く移動出来るほどの体力なんて⋯⋯」




 白髪のお爺さんが心底困り果てた様だ。


 怪我人と老人に無理をしろというのは気が引けるけど、命がかかってるんだからそこは頑張ってもらおう。




「それは死ぬ気で頑張って下さい。出ないと本当に死んでしまいますよ?」



「わ、分かりました⋯⋯。勇者様の仰る通りです」



「まあボクも死ぬ気でアナタ達を守れるようにするので、お互い頑張りましょうね」




 ボクはさっき死人こそ出なかったものの全員を守り切れたとは到底言えない結果に終わってしまった。


 それにろくに話も通じずに、小さな子供にまで手を出す亡者達に少なくとも腹が立っているのは事実だ。



 勇者としての自覚なんてこれっぽっちも無いけど、この街の人達は守りきって見せよう。




「ノエルさん、少しお話があるんですけど宜しいですか?」



「ああ、ルリーナさんですか。丁度ボクも話したいことがあったので、良いですよ」




 多分周りの気を沈めてしまう重たい話になるので危険を承知で二人で隠れ家を出る。


 隠れ家を出た所で、ボクは単刀直入に気になっていた話題を切り出す。




「ネクロマンサーとルリーナさんって、姉妹なんですか?」


















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