第12話 最適なワイバーンの倒し方

「この村の酒美味いな! 兄さん!」


「確かに美味いが、ペース配分を考えろよズーク」


「う、うう⋯⋯不味っ!!」



 飲み対決が始まって、三人のそれぞれの感想が飛び交う。


 ん?今誰か不味っ!!て言わなかった?

 めちゃくちゃ苦しそうな声聞こえたんだけど。



「ノエルお姉さん、一人めちゃくちゃ苦しそうな人がいます⋯⋯」


「え」



 ルアさんが耳打ちしてきてまさかなと思ってリオーネさんを見たら凄く苦しそうな顔をしていた。

「我まじで酒いけるから、人間はゴミ」くらいの雰囲気を醸し出してたのに、一体どういう事なんだ。



「なんだこれっ⋯⋯毒! 毒みたいな味がするっ!! 謀っただろ、おい勇者!」


「え、いや流石にそこまでは考えてないですよ! 冒険者さん達と同じお酒をお渡ししました!」



 リオーネさんが早々にボクに毒盛りの容疑をかけてきた。

 ゲス案のつもりはあったが、毒まで盛ろうとは思っていなかったし直ぐに否定した。


 もしかしたら村長がお酒を用意した時に何か細工をしたのかと、視線を飛ばしてみる。



「わ、私は特に何もしていませんよっ⋯⋯!」



 結果、村長は慌てた様に否定した。

 嘘をつかれている感じはしないし、多分白だと思う。


 となると、そもそもリオーネさんがお酒を飲めないのではと疑ってしまう。



「リオーネさん、お酒本当に強いんですか?」


「いやっ⋯⋯人間でも飲めるんだから強いはず⋯⋯っ! うぇぇ⋯⋯酷い味」


「とてもそうは見えないんですけど、本当にお酒強いんですか?」


「いっつも飲むのは姉上だから⋯⋯我は飲んだことないっ⋯⋯」



 まさかのリオーネさんから衝撃の発言が飛び出てきた。

 お酒飲んだ事ないって⋯⋯しかも何時も飲むのは姉って、ワイバーンで言う所の「ちょおま酒買ってきて」感覚でお使いを頼まれていたという事か。



 というか、飲んだことないなら何故勝負を受けたんだ。



「人間が飲めるんだから我でも全然いけると思った⋯⋯口の中が気持ち悪い⋯⋯」


「お水、飲みます?」


「いいの?」


「いや、なんかお姉さんにパシられてたんだなと思うと⋯⋯」


「パシリじゃない! 崇高なお使いと言え!」



 パシ⋯⋯ゴホン、崇高なお使いをしているリオーネさんに少し同情を覚えてしまい、ボクは村長に水を上げるようお願いした。


 眼光が鋭すぎて気付かなかったが、よくよく見ると顔立ちが幼い。


 ルアさん以上でボクより少し年下⋯⋯十五歳とか?



「あ、あのワイバーン様水でございます」


「すみません⋯⋯頂きます⋯⋯」



 初め来た時は村長に対して威圧的だったのに、すっかり弱腰になってしまった。

 お酒ってそこまで効くものなのか⋯⋯飲んだ事ないから分からないけど。



「我⋯⋯これ試合放棄したい⋯⋯」


「じゃあこの村から手を引くと? 約束して頂けないと試合放棄は認めませんよ」


「勝負は勝負だしな⋯⋯姉上には我から説得しよう⋯⋯。もちろんこの村からは手を引く」



 いい意味で予想外の展開だ。

 こんなにあっさり負けを認めるなんて。



「村長さん、どうしましょうか⋯⋯?」


「こう言ってくれてますし、私的には信用していいのかなと⋯⋯」


 村長は「許してあげたい」とでも言いたげな口調だ。

 それにボクも同情が湧いてしまったし、こうも弱々しい姿を見せられると寝首を搔く気も失せてしまう。


 というか、寝首を搔くまでもなく倒せそうだ。



「あの冒険者さん達、もう勝負はついたので飲まなくてもいいですよ」


「いや、ただ酒飲みたいしあるだけ飲むわ!」


「弟に同意」


「えぇ⋯⋯」



 今度は冒険者達を倒さないといけないかもしれない。

 まあ冗談は置いておいて、ボクと村長はリオーネさんに目をやる。



「敗者に語る言葉はない⋯⋯ただ黙って去るのみ」


「え、ちょっと待ってください!」



 もうここ居る理由もないと、リオーネさんはふらつく足取りで立ち去ろうとする。

 ボクは慌ててリオーネさんの肩を掴んで引き止める。



「なんだ小娘⋯⋯まだ何か我に用か? 言っておくが慰めなど不要だぞ」


「貴女には大事な用が残っています。このまま黙って立ち去られる訳にはいきません」


「言ってみろ、負けたのだし聞いてやる」


「そうですか、なら⋯⋯」



 リオーネさんは勝敗に拘るタイプなのか、降参してからあまりこちらを見下している様に感じられなくなった。


 なのでボクは少し勿体つけてから、遠慮せずに言葉を放った。



「貴女が奪っていった分のお酒を全額弁償して下さい」


「は?」


「全額、弁償、全額、弁償」


「いやいやちょっと待て。勝負の後はいい感じになって全てが有耶無耶になって終わるのではないのか」


「有耶無耶になんてさせると思いましたか? きっちりお金払って貰いますよ」



 ボクを雰囲気に流されるタイプだと思って舐めないでもらいたい。

 引きつった表情で「我お金とかもってないし⋯⋯」と、リオーネさんは言い訳を始めた。


 正直ワイバーンを退けただけで快挙だし、リオーネさんにわかった上で無い金をせびって弁償を迫る理由はない。


 これはルアさんの帽子を無理に取った事へのボクからのちょっとした罰だ。

 幸いこの村では今のところ獣人差別はされていないけど、あの街だったら大変な事になっていた。



「本当に我にはお金がないんだ! まさかワイバーンの我に身体を売れと⋯⋯」


「変な勘違いやめてください。村長さんに働き口紹介してもらえばいいじゃないですか」


「そ、村長! 我に働き口をくれ!」


「はぁ⋯⋯」



 縋りすくように懇願するリオーネさんに村長は深い溜息をついた。

 ずっと丁寧で礼儀正しい印象だった村長からは意外な態度だ。



「村長さん、働き口を下さいだろ?」


「え、いや⋯⋯。お主、え?」


「ワイバーンだろうが何だろうが、自分の立ち位置を考えて発言してもらおうか。お前はこの村で働くなら誰かの下につかなければいけない」


「我が人間の下について働くと⋯⋯?」


「当たり前だ。戦闘以外で取り柄のないお前がいきなり人の上に立つ職につける訳ないだろ。それすらも分からないのなら、尚更お前は下積みからだ」



 息を吐くようにリオーネさんのメンタルを抉りとる発言を放つ村長。

 その豹変ぶりにボクはただただ息を飲んだ。


 立場が上になると人ってこんなに変わるんだ⋯⋯。



「村長さん⋯⋯っ、我に働き口を下さいっ!」


「ほう、プライドだけの小娘かと思ったがよく言えたじゃないか」


「⋯⋯⋯⋯」


「なんだ黙りか? さっきの威勢はどこに行ったんだ?」



 村にかなりの損害が出ていたのか、村長は今までの鬱憤を晴らすようにリオーネさんに毒を吐いている。

 初めはあんなに村長が下手に出ていたのに。


 相手の腰が低いからって慢心していると、後々に痛い目を見るということを覚えておこう⋯⋯。


 それにこんなことを考えている間も、村長からリオーネさんに絶え間無い毒が降り注がれている。



「あ、お腹すきました⋯⋯」



 場違いな発言かもしれないが、ボクのお腹は音を鳴らして空腹だと訴えてくる。

 仕方ない、リオーネさんに助け舟を出そう。



「あの村長さん。お腹空いたので何か食べる物ありませんか?」


「ああ⋯⋯それでしたら直ぐに村のご馳走をありったけ用意致しましょう」


「ご馳走様!! 助かります」



「少々お待ち下され」と村長はふらりと何処かへ歩いていった。

 メンタルを抉り取られへたりこんでいるリオーネさんに目をやると、なんか目が合った。



「小娘⋯⋯助かった⋯⋯」


「ボクがお腹空いただけなので、別に助けた訳じゃないですよ」


「え、そんな⋯⋯」


「いや嘘です。助けるつもりでした」


 

 リオーネさんの顔が絶望色に染まったので、本音を吐くことにした。


 ふと思ったが、この世界にはドラゴンがいる辺、他にも強力な魔物が多い事だろう。

 そして未だに実態がよく分かっていない魔王についてもリオーネさんに聞いてみようかな。



「リオーネさん、ちょっとお話いいですか?」






















 























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