『十二支と日本人』第5章「犬猿の仲」

『十二支と日本人』 折田宗楠 (雨岩学術文庫)

第5章「犬猿の仲」一部抜粋

 

 Q県北部のL村では、また別の由来が伝えられている。

その伝承はこうである。村の北部にそびえる真白木山に、戦国時代に落ち武者の犬飼力三郎とその息子、松六が流れてきた。彼らは村で盗みや乱暴などの悪事をしており、村人にはよく思われていなかった。一方で北西の猿ヶ山には齢百年ともいわれる大猿とその手下たちが群れをなしていた。松六は幼い時に猿ヶ山の猿に右目をつつかれ失明していたため、犬飼親子は猿を大いに恐れていたという。

親子に恨みを持っていた村人は猿ヶ山の猿に頼んで、猿たちはついに犬飼親子を殺したが、親子の怨霊が真白木山に残っており、今でも猿と戦っている。これが犬猿の仲の由来だという。

犬飼親子は相当な悪事を働いていたようで、四世紀経とうとしている現在でも、村人は彼らの名前にちなんで、犬を決して飼うことはないという。

「犬猿の仲」という故事成語にちなんだ伝承は、前述の通りこの国の各地にあるが、その由来についての独特の伝承は全国を見渡してもL村にしかない。

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