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瘡蓋もとい鱗もどきがどう変化するかわからなかったので、三人はそのまま部屋に残して、一人で港へ向かった。
俺たちを乗せてくれたみたいに、釣りの予約が入って海に出ていたらしばらく待つかもしれないと覚悟もしていたけれど、幸いあのおじさんはすぐに見付かった。
「おじさん、こんにちは!」
「あぁ、この前の兄ちゃんだね。今日は一人かい?」
「はい、まぁ。今日は別行動しています。それよりもちょっと聞きたい事があって」
「ん?なんだ」
「俺たちが船に乗せてもらった時、人魚の祠の話をしてくれたじゃないですか。そういう洞窟って、他にもいくつかあるんですか?」
「あぁ、そんな話もしたな。この島は小さいから、洞窟っていうと人魚がいたっていうところしかないはずだが……。まさか兄ちゃんたち、探しに行こうとしてるのか?何か特別変わったものがあるわけでもなし、あそこは慣れない人間が歩くには危ないから、興味本意ならやめた方がいいぞ」
「いえ!近付くなって場所にわざわざ行こうとは思いませんけど、なんと言うか、その……」
しまった。おじさんに会う事しか頭になくて、その先の展開を全く考えてこなかった。
こういう時、凌河や蛍斗だったらきっと自然な流れで聞き出せるんだろうけれど、頼みの綱は今どちらもこの場にはいない。
「どうした?何かあったのか」
「……実は昨日島の探索をしていたんですけど、林の中を歩いてる時に裂け目のようなものを見付けて……」
ちょっと迷った末、凌河たちに起きた異変の事は伏せて、それらしき場所に偶然辿り着いてしまった事や祠を発見した事をありのまま話した。
嘘が苦手な自覚があるから、咄嗟に考えた下手な作り話をするよりは、本当の事を伝えた方が不審な印象を与えずに話をしてもらえると思ったからだ。
「うーん、それはまず間違いなく人魚の祠だと思うが……、まさか林からも繋がっていたとはなぁ」
「え、知らなかったんですか?」
「俺が知ってるのは昔人魚がいたって話と、祠に近付くと神隠しにあうって噂だけだ。その洞窟にもガキの頃こっそり何度か行ってみた事はあるが、他に続く道があるなんて全然気付かなかったよ。神隠し云々は迷信だろうが、皆怪我とかしなかったか?」
「あ、はいっ、この通り元気です!」
「はは、確かになんともなさそうだ。でもずっと住んでる島でまだ知らない場所があるってのはちょっと興味が湧くね。俺も探してみるかな」
「いやー、入り口も狭いですし、結構長い道程を真っ暗なまま歩かないといけないんでおすすめはしませんよ。そうだ、また皆で釣りする事があったらその時はよろしくお願いします。この後待ち合わせしてるんでもう行きますね。お話、ありがとうございました!」
万が一にもこれ以上被害者を増やすわけにはいかない。
聞きたい事は聞けたし、あまり長く話していると余計な事まで口走ってしまいそうだったので、早々に切り上げて旅館へ戻る事にした。
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