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* * *
藍色で覆われた空に、彩り鮮やかな花火がいくつも打ち上がる。
建物の壁に投影されたプロジェクションマッピングとも見事に合わさり、まるでちょっとしたステージを見ているようだ。
「まさか本当にアトラクション全制覇出来るとは……!」
出来たらいいなくらいに考えていた全制覇は、黄門様の印籠のような招待券のお陰で驚くほどあっさりと実現してしまった。
しかも途中でキャラクターたちのパレードを見たり、レストランでゆっくりと食事やおやつの時間を入れて、である。
一日中歩き回っていたのでそれなりに疲労感はあるものの、今は高揚感の方が上回っていた。
「赤幡さん、今日は楽しめましたか?」
「はい、すっごく!もう大満足です!めちゃくちゃ贅沢な時間でした。こんな贅沢きっとこの先ないと思うので、今日の事は一生の思い出にします」
「ふふ、大袈裟ですね。ですがそれほど喜んでいただけたのなら何よりです」
本当に、久々の車の運転を頑張った甲斐があったと思う。
首からぶら下げられるケースに入ったポップコーンまで買ってしまった時は、さすがに自分でも浮かれすぎかなと思ったけれど、後悔はない。
夢のある世界にいる時くらい、多少現実的な事は考えなくてもいいだろう。
「花火も終わりましたし、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
周りで同じく花火を見ていた人たちも、ぞろぞろと移動を始める。夢の時間の終わりだ。
大勢の人の流れに乗ろうとした俺だったが、突如服の襟を後ろから引っ張られ、必然的に立ち止まった。
「ぐぇっ、何するんですか黒緒さん」
「そっちじゃない。こっちだ」
「え?出口はあっちですよ」
「いいからついてこい」
不思議に思いながらも人の流れに逆行して歩く。
何だろう。特別な出口みたいなものでもあるんだろうか。
昼間の賑やかさとは一転、電気の消えた夜の園内は、どこか淋しさも感じられる。
その園内を二人は奥へ奥へと進んで行く。
やがて他のお客さんの姿が見えなくなり、辺りに静寂が漂い始めると、淋しいを通り越してどこか不気味にすら思えてきた。
「……あの、どこまで行くんですか?」
「もうすぐですよ」
さすがにこの先に抜け道があるようには思えない。閉園時間を過ぎてこんな場所をうろうろしていたら警備の人あたりに怒られるんじゃないか、なんて内心そわそわしてしまう。
そんな逃げ腰気味の俺とは対照的に、前を歩く二人の足取りは迷いなくしっかりとしている。
「着きました。こちらです」
やけに長く感じた体感時間でようやく着いたらしい目的地は、工事現場でよく見る白いフェンスの前だった。
「着いたって……、行き止まりじゃないですか。それにほら、関係者以外立入禁止って張り紙もありますよ」
「問題ありません。大いに関係者ですから」
そう言って白枇さんは張り紙のある出入り口らしきドアに躊躇なく手を伸ばした。
ドアには鍵がかかっておらず、小さく軋んだ音を立てながら開き、その隙間からするりと中に入って行ってしまう。
「勝手に入ったらまずいですって!見付かったら怒られますよ」
「大丈夫だって言ってるだろ。早く行くぞ」
「ぐぇっ、わかりました、行きますから襟を引っ張らないでください黒緒さんっ」
こうして俺は、半ば連行されるようにフェンスの向こうへと足を踏み入れる事になったのだった。
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