人形の館 1

「遊園地へ行きませんか?」


白枇はくびさんと黒緒くろおさんの元で働き始めて三週間。

新しい環境に体と生活リズムも慣れてきた。

最初が最初だっただけに、面接の翌日ビビりながら出勤した俺の予想に反して、仕事の大半は二階が居住スペースになっている事務所の掃除と、リクエストがあった時のご飯&おやつ係というなんとも平和な内容で占められている。

毎日のように祓い屋紛いの仕事をしているわけではないらしい。


今日も休憩という名のおやつタイムに、俺が朝早くから眠気と戦いながら並んで無事にゲットした一日五十個限定で開店早々売り切れるというフロマージュを食べ終わった頃、ふと白枇さんがそう言ったのだ。


「遊園地ってどこのですか?」

「ここからですと少々距離があるのですが、オーナーが変わって先日リニューアルオープンした“にゃんだふるランド”というのをご存じですか?」

「あぁ、あのずっと工事してたとこですよね。猫モチーフのグッズとかスイーツが充実してるってテレビでやってたのをちらっと見ました。チケットの入手が困難なくらい人気だとも言ってましたよ」

「実はそこの招待券を頂いたんです」

「えっ、すごいじゃないですか!」

「園内の乗り物乗り放題、さらにレストランも利用し放題です」

「うわぁぁなんですかそのプラチナチケット。行きたい、絶対行きたいです!」


遊園地そのものよりも乗り放題と食べ放題の方に反応してしまった感は否めないが、現金と言われようがなんだろうが、滅多にない美味しい機会には全力で乗っておくに限る。


「ふふ、では早速ですが明日にでも行ってみましょうか」

「やった!園内の情報とかチェックしておきますね。せっかくだからいろいろ回りたいなぁ。アトラクション全制覇、いや、レストランとかワゴンの食い倒れツアーも捨てがたい……。あ、ところで何で行くんですか?」

「駅からのシャトルバスが出ているようなので、電車を利用してもいいのですが、本数が少ないんですよね……。赤幡あかはたさんは免許をお持ちですか?」

「はい、一応は。持ってる方が就職に有利かなって思ったので、高校卒業してすぐに取りましたけど」

「それはよかったです。では、明日はレンタカーを借りて車で行きましょう。赤幡さん、運転お願いしますね」

「いやいや待ってください!確かに免許あるって言いましたけど、普段ほとんど運転しないペーパーなんですよ!自分だけならまだしも、人を乗せるとか怖すぎて無理です」

「何のための資格ですか。せっかく免許をお持ちなら、こういう時にこそ活かすべきでは?それに運転する機会から逃げてばかりいては、益々ペーパードライバーに拍車がかかってしまいますよ」

「それは、そうなんですけど……」

「予約の手続きは私がしておきますから、明日は朝早いですが八時に駅前に来てください」

「いやあの、ですから」

「明日に備えて今日はここまでにしましょう。しっかりと体を休めて、明日はよろしくお願いしますね」


取り付く島なく笑顔で遮断する白枇さんへの訴えを諦め、ソファに座る黒緒さんへ顔を向けるも、返ってきたのは「おつかれ」の一言だけ。


「……安全運転で頑張ります」


帰ったら園内を回るシミュレーションじゃなく、運転するシミュレーションをした方がいいかもしれない。







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