■KAC お題 私だけのヒーロー

〝俳優の○○、女優の△△と結婚〟

〝○○のスマホには、SNS上で一般女性とのやり取りが〟

〝○○がマンションへ、相手は一般女性か〟

〝△△は報道されている相手のことを、同級生だと否定〟



 まだ持ってるのか。

 産まれてから物心つく頃に知った真実。同級生なのは本当で、3人はすごく仲が良かったという。マンションの出入りも、談笑だったり、仕事での愚痴だったりだと思うが。

 女優の△△は子を授かった。その子どもは、昴拓矢。様々な憶測が漂い、両親は芸能界を辞めた。静かに暮らせるかと思いきや、ネットでは散々な言われようと、週刊誌の追っかけ。心の休まる隙は無かった。


「お疲れ様です。何見てるんですか?」

「…──あぁ! お帰り。良い休憩になったか? 拓矢は真面目なのが良いところだが、ほどほどにな」

「コンビニで新商品が売ってました。先輩にどうぞ」


 これが若者に人気という映えるアイスか。どう食えばいいんだよ~……。


 拓矢は椅子に深く座った。生前の記事を眺めると、整えて机の引き出しに仕舞う。


「時々読んでるのか? その記事を」

「どんなに当人達が必死に話しても、記事がアレコレ書けばそれが正しいとされて、メディアにも大きく知れ渡る。おもしろいなぁ、と良い勉強になります」


 カップを取り、ビニールの蓋を剥がす。プラスチックのスプーンでアイスを掬い、ひとくち入れた。「──冷たっ」そう声を洩らして、顔をしかめる。


「あの記事を書いた人、辞めちゃったんですよね」

「あぁ、そうだよ」


 あの記事……さっき拓矢が仕舞い込んだ記事のことだ。正義感のある真面目な女性だった。噂が飛び交う中で、眼で見たことを、ひたすら真っ直ぐに書きつづけた。だが、世間が反応したのは嘘で語られたものだった。


「本当のことを書いてくれた人だから、俺のヒーローなんですけど」


 ヒーローっていう良い響きなのに、声色は沈んでいる。正しいだけでは進んでいけないからだ。


「拓矢は、ヒーローになりたいのか?」

「どうなんでしょう。あ、ダークヒーローっていう手もありますかね」




  ───…つづく

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