■KAC お題 88歳

 授業の内容は、88歳で思い付くことを絵にする、という事だった。りんごをスケッチブックに模写しなさい、ではなく、個人の閃きを重点にした授業。

 基礎を知ったうえで、最終は閃きに掛かってくるんだろう。元から自由にしていくのが案外良いのかもしれない。お笑いの道を志していただけあるな、発想が斜め上というか、意外性がある。


「ところで昴さんの職業は、記者ですか?」


 返答に詰まる。隠そうとは思ってない。自ら言ってもいない。それなのに、記者そこへ行き着いた理由は?


「記者っていう仕事、馴染みないでしょ。どうして解ったの?」


 紺野くんは、自身の眼を指してこう言う。「慎重に見てるなー、と思って」


「こういう施設だからって、幾つか選択肢はあった?」

「まぁそうですね──、そこから絞っていくと……というか、自然と選択肢には入りますね」言ったあと、口元は弛む。


 計算ではなく、心から楽しんだのだろう。


「昴さんは88歳で何を思い浮かべます?」


 大勢の生徒、そのうちの1人が遅れを取る。何を描こうか、ではなく不自然な動きが確認できた。

 一度、脳が異変を捉えてしまえば、一瞬にして全体が作り物へと塗り変わる。


「まー単純に、お祝いかなぁ。その年齢で小説を書いてる人もいるらしいし」

「会ったことあるんですか?」

「僕は会ったことないけど、同じ仕事の人が取材してるのは知ってる。紺野くんは、何を想像する?」

「想像じゃなく、聞きたいことはあります。人生について。何十年も生きていれば、人生ってこうなんだよって、ひとことで済んでそうじゃないですか?」


 何かしら法則はありそうな気はする。長く見積もったら、難しいことは考えないでいることも、正解にはなる。


「答えがあるなら知りたい?」

「例え迷うことになっても、知らないでいるよりは道が増えると思ってます」



  ───…つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る