第28話 転職したらどうだ?


 互いに思いを口にしてスッキリした俺たちは、ミーナの出勤時刻に合わせて一緒にギルドへ向かった。


 職員用の出入り口から入るミーナと別れたあと、ギルドの掲示板を4人で眺めながら受ける依頼を考えていると、こちらを見ながらヒソヒソと話している冒険者たちに気づく。


 どうせまた俺の悪口だろう――そう思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「おい、あの女だろ? 『最強の矛ゲイボルグ』に罪をなすりつけて、さっさと新しいパーティーに加入したやつ」


「ああ、そうだぜ。メルシーとか言ったかな。見た目に騙されんなよ? なんでも、パーティーの運用資金にも手をつけようとしていたらしいからな」


「おー、こわ。ってことは、直にあのパーティーも崩壊か……。アリスちゃんも早くあんな男見限って、『最強の矛ゲイボルグ』に戻ればいいのになぁ」


 聞き耳を立てていると、そんな話が聞こえて来た。


 どういうことだ……?


「おーおー、これはこれはギルドマスター代理をクビになったリュミナスと、ありもしない報告を上げた上にその罪を俺たちになすりつけてくれたメルシーに、寄生するのだけは上手い吸血コウモリくんじゃあないか」


 わざとギルド内に聞こえるよう大きな声で煽ってくるマザマージ。


「相変わらず、そうやって誰かを下に見せることでしか自分を大きく見せられねぇんだなぁ? 情けない男だぜ。ちっとはロードを見習えよ」


「なっ?! 事実を言っているだけだろうが!!」


 やれやれと肩を竦めて笑うリュミナスに、勢いよく食って掛かるマザマージ。


 その反応がそもそも小物くさ――いや、やめておこう。


「それで? アタシがなすりつけた罪っていうのは何かしら? あなた達とは一日、それも数時間しかパーティーを組んでいないと思うのだけど」


「おいおい、とぼけてんじゃねぇぞ。お前がブレーンスケルトンを見た、あれは進化直前だと言ったから撤退してギルドに報告したのに、さも自分は無関係と言わんばかりにそっちに寝返っただろうが。お陰でこっちは、本当にいるかもわからねぇブレーンスケルトンを探すよう命じられて、ひたすらブレルS級ダンジョンに篭る日々だよ。どうしてくれんだ?! あぁ?!」


「おかしなことを言わないでちょうだい。撤退したのはあなた達がスケルトンに囲まれて追い込まれたからで、ブレーンスケルトンがいたと言い始めたのはマザマージ、あなたでしょう?」


「お前こそおかしなことを言うんじゃねぇよ。俺たちはブレル最強とも目される、『最強の矛ゲイボルグ』だぞ? スケルトン如きに追い込まれる訳ねぇだろうが。いくら苦し紛れの嘘とはいえ、もうちっと頭を使えよ」


 ハッと鼻で笑うと、なぁ? と周囲に同意を求めるマザマージ。


 その言葉に同調した周囲の冒険者たちが、『そうだそうだー!』とヤジを入れてくる。


「で? そこまで言うなら、ブレルS級ダンジョンの探索はさぞや好調なんだろ? 何層まで行けたんだ?」


 リュミナスの挑発的な視線に、ニヤリと不敵に笑うマザマージ。


 後ろではヒリテスとシルストナも薄ら笑いを浮かべている。


 やけに自信があるようだが、ようやく成長したのか……?


 だが、その後ろに控える二人の男女がどうも気になるな。


 見たところ壁役タンク回復役ヒーラーのようだが、ずっとうつむいたままで覇気が薄い。


「俺たちは昨日で、17層までの調査を終えたよ。ギルドからも20層までで見つからないようなら打ち切って良いと言われているし、ようやくお前がついた嘘の責任を果たせるって訳だ。感謝してほしいもんだよなぁ??」


「ええ、まったくよ。いくら素材なんかの収集物は自分たちのものにして良いとはいえ、依頼料がタダの上に、ギルドからの評価もゼロだもの。割に合わない仕事よね」


「ほんとだぜ。今からでも本当のこと話して、代わってくれねぇかなぁ? メルシーさんよぉ??」


 さもそれが本当のことかのように言い放つばかりか、まったくそれを感じさせない立ち振る舞い。


 こいつら、冒険者やめて劇団にでも入ったほうが良いんじゃないか……??


「お前たち、名男優に名女優になれそうだな。向いてない冒険者はやめて、さっさと転職したらどうだ??」


 リュミナスも同じことを思ったらしく、しかも俺とは違って口に出しやがった。


 どうしてこう、火に油を注ぐのが好きなのかね……。


 まぁ、気持ちはわかるけどな。


「もし転職したときは教えてくれ。微力ながら、俺たちもチケットを買って売り上げに貢献するから」


「そうですね。私も一回くらいなら、見に行っても良いですよ? タイトルはそうですね……。『英雄に憧れた口からでまかせ男と、恋は盲目を体現する女たち』なんてどうですか? きっとみんな笑ってくれると思います」


 お、おぉ……。


 笑顔で言ってはいるが、アリスもけっこう頭に来てるらしいな。


「バカにしてんのか?! 俺たちの天職は冒険者に決まってるだろうが! 現に、実績だって残してる! 俺たちの名を知らねぇやつはこの街にいねぇんだぞ!!」


「あなた達がもう少し謙虚で、横暴な振る舞いをしなかったのなら、もっと有名になっていたでしょうね。ほんと、見せかけだけの実力がある分やっかいなのよ。噓八百を、疑いもせずに信じちゃう人が多いから」


「て、てめぇ……!!」


 メルシーに掴みかかろうとしたマザマージの腕を掴み、力を籠める。


「先に煽ってきたのはお前だろう。自分が同じことをされたからって、怒るのは筋違いだと思うがな。あと、メルシーは俺の大切なパーティーメンバーであり、未来の嫁になるかもしれないんだ。手を出すなら、相応の覚悟を持って来い」


 怒気を抑えつつ、できるだけ冷静な口調で伝えてから手を離す。


「……てめぇ、ロードだよな……?!」


「ああ、そうだが?」


「……クソがっ! 覚えとけよ!!」


 おかしなものでも見るかのような、揺れる瞳で俺を睨みつけたマザマージは、踵を返すとギルドから出ていった。


 そのあとを追うヒリテスとシルストナ。


 残された二人は俺に何かを言いたそうにしていたが、ぐっと拳を握ると何も言わずに立ち去って行った。


 うーん、あの二人は大丈夫か……?


 おかしなことをさせられてなければ良いが……。


「……気になるか?」


「ああ、ちょっとな。おそらくメルシーの後に入ったやつらだと思うが、最強の矛ゲイボルグに加入できたにしては表情が暗すぎる気がしないか?」


「S級ダンジョンの調査をしてると言ってましたから、無茶な潜行でもさせられているんでしょうか……」


「それはありえるかもしれないわね。アタシのときも、通いなれた場所だとでも言いたげにハイペースで進みたがっていたもの」


「他所のこととはいえ、面白い話じゃねぇな……。ったく、なんであんなやつらが17層まで潜れてるんだか」


 呆れた様子のリュミナスと、心配そうな表情を浮かべるアリスとメルシー。


 ふむ。ちょうど実験の結果を試したかったところだし、良い機会か?


「俺たちもパーティーを組んで、はや一ヶ月だ。連携の確認も十分とれているし、そろそろ自分たちがどこまで通用するのか、試してみるのも悪くないと思うんだが。そうだな……一度潜ったことがあって、かつ高難易度のダンジョン――ブレルS級ダンジョンなんてピッタシじゃないか?」


 俺がわざとらしく首を傾げて尋ねると、すぐさま笑い返してくる三人。


「ロードさんらしいですね……。私は大賛成ですっ!」


「ったく、しょうがねぇなぁ。オレも付き合ってやるよ」


「フフッ、アタシも大賛成よ。腕が鳴るわね」


「それじゃ、今日は準備をして明日から潜るとするか」


 こうして、俺たちは再びブレルS級ダンジョンへと潜ることにしたのだった―――。




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『食べられる魔法?!』も鋭意執筆中ですー。

もうしばらくお待ちを……!!

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