第26話

俺の作った籠の中にイリスがいる。


睡眠薬が効いているのでまだ眠っている。


ベッドに横たわるイリスにキスをする。唇に、額に、瞼に、頬に。


「ああ、やばい」


自制が利かなくなりそうだ。


首に吸い付いて俺の物だと言う痕を残す。ずっと彼女を見ていたいけどやらないといけないことがある為止む無く部屋を出る。


部屋の外には騎士が二人常駐している。この騎士にはイリスを守る役目と彼女が逃げ出さないように監視する役目がある。余計なことはしない、言わない理想の部下だ。


ここの使用人も彼らと同じ。


それもそうだろう。下手なことをすれば命に関わるのだから。




◇◇◇




「ルラーンを滅ぼそう」


古代の人たちが残した転移石を使って俺はオスファルト国のエリシュアの元へ飛んだ。


何百年も前は魔法と言うものが存在していた。


理由は分からないが、魔法を使える人間は徐々に数を減らしていき、今では魔法を使える人間はいない。けれど当時の彼らが作った魔力の籠った物が世界各地に存在する。


転移石もその一つだ。


そういうものは悪用されないように王族が回収する。俺がこれを持っているのは幼い頃エリシュアと探検した古代遺跡で見つけたからだ。


「‥…お前の姫君の故郷じゃねぇか」


慣れたもので俺が急に目の前に現れてもエリシュアはもう驚かない。


「もう要らなくなった」


「‥‥‥」


「君たちだって虎視眈々と狙ってたんでしょう。ルラーンに存在する古代遺跡を目当てに。それに和平条約を結んだというのにオスファルト国の元王女やその娘に対する扱いは目に余るよね。国際問題という言葉を知らないんじゃないのかって思っちゃうぐらい王族も貴族も馬鹿ばかり。生かす必要なくない?」


蟠りをなくせとは言わない。


流した血の量があまりにも多いから無理だということは分かる。だけど、和平条約の為に嫁いできた王女に対して表面上でも丁寧な扱いをするべきだ。


まぁ、あの女にも非はあるけどさ。


だけど、イリスにはないよ。


だから余計に許せない。オスファルト国の特徴を持って生まれただけでどうして彼女は蔑みを受けなければならない?


オスファルト国の王族の血を引くのだからオスファルト国の特徴を持って生まれてもおかしくはないじゃないか。分かった上でオスファルト国の人間の血を取り入れたくせに。


「あの馬鹿共は分かってないのかな。イリスがオスファルト国の王位継承権を持っているってことに。彼女に対する非礼はオスファルトに対する非礼でもあるということに」


「ルラーンの姫君に対する扱いは俺も報告は受けているよ。彼女が亡命を望むのなら受け入れる体制を整えてある。加えて今回の王子の暴走は確かに見過ごせるものではない。お前の言う通り、動かなければこちらの威信に関わってくるな」


調査もせず、証拠もない状態での公の場でのイリスの断罪。


何もなくとも社交界に二度と出ることは叶わない事件だ。


イリスが普通の貴族令嬢であっても到底許されることではない。そしてイリスはただの貴族令嬢ではない。オスファルト国の王族の血を引く令嬢なのだ。


それは妹であるアリシアにも当てはまるが、彼女はルラーンの特徴を持って生まれている。だから優遇され、オスファルトの特徴を持って生まれたイリスは冷遇される。そんな差別が生まれているのだ。ならばアリシアの存在など関係なく、オスファルトはルラーンを攻める口実となる。


「まぁ、百戦錬磨のお前が動いてくれるのなら負けはないだろう。分かった。進軍しよう」

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