第5話 From now on(5)

「ありがとうございました。 助かりました。 よかったら、どうぞ。」



あゆみは結城にコーヒーを淹れてきた。



「あー・・いや、」


結城は首をぐるぐると回した。



「そうか。 今日はユーリの誕生日だったっけ。 あたしもなんだか忘れてて。」


あゆみはクスっと笑った。



「ハタチだもんね。 ちゃんとお祝いしてあげなくちゃだったのに。」



彼らが両親を亡くして姉弟二人きりで生きてきていることは、前に誰かから聞いた。




「・・銀座のクラブは今日は休みなの?」



結城は彼女が淹れてくれたコーヒーに口をつけた。




「え? ご存知なんですか?」



「よく話に出るから。 すっごい高級なクラブだって、」



「志藤さんの紹介なんです。 あたし・・ずっと六本木のキャバクラにいたから。 もう26だしそろそろどうかなあって思ってたもんで。  いいお店を紹介していただいて本当に感謝しています。」



クラブのホステスをしているとは思えないほど


透明感があって華奢で清楚な空気が漂っていた。




「まあ。 こうやってあいつもオトナになったんだから。  頑張るのももう少しかもしれないし、」


結城はグウグウと眠る有吏の方に振り返る。




「まだまだ。 ホント。 お金いるし。  ユーリが結婚して独立できるくらいまでは、あたしも頑張らなくちゃ、」



あゆみは健気にそう言った。



そして、彼女に重く圧し掛かる借金のことも耳に入っていた。



「それじゃあ、きみがおばちゃんになっちゃうかもしれないじゃない。」


わざと明るく言った。



「ま。 それでもいいです。 とにかくスッキリして一人になって。 その時、結婚とか。 考えられるようになればいいかなって。 けっこう水商売も肌に合ってるし。」



同じように明るく言う彼女に



「そうだね。 ほんと。 キレイだもんね、」



結城は思わず口をついてそんな言葉を出してしまった。



「え、」



あゆみに真正面から見つめられて



「・・一般論。 なかなか高級クラブにだってきみクラスの子っていないだろうし、」



ちょっと照れて視線を逸らした。



「や・・そんなもんでもないんですけど、」



あゆみは顔を赤らめて頭を掻いた。




「まあ、今は。 ユーリが一人前の社会人になるように見守るしかないんで。 ほんと、どーしようもない弟ですけどよろしくお願いします。」



ペコリと頭を下げた。



「あ・・えっと、」



そう言えば名前も知らなかった。



「ああ。 結城っていいます。  事業部に入ってまだ3~4ヶ月で。」



「そうなんですか? すっごいベテラン風なのに。」



あゆみはクスっと笑った。



「見かけ倒しです。 じゃあ、ごちそうさまでした。」


結城は席を立つ。



「ありがとうございました、」



あゆみが玄関まで送ると、結城はポケットから自分の名刺を取り出してそしてペンで裏に何かを書いて



「ハイ。」



彼女に手渡した。



「え?」



目をぱちくりさせている彼女にニッコリ笑って



「おやすみ、」



と言ってドアを閉めた。




『ホクトエンターテイメント(株)  クラシック事業本部  結城比呂』



ゆうき・・ひろ・・




そして裏を見ると



ケータイのアドレスと番号が記されていた。


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