第9話 ちりり
昨日、うちは河原から告白された。でも、すぐに断るつもりだった。誰とも付き合うつもりはなかったし、河原の事も特に何も想ってもいなかったから。だけど、河原は返事は後で良いからと、すぐに走り去ってしまった。
うちは京香へ河原の事を伝えようとした。
でも、なんでか伝えられなかった。
だいぶ前に、恋の話しは隠し事せずに教えあおうと約束していたのに。
だから、振替休日で学校も部活も休みになった今日、うちは最近、登下校はもちろん、会話を交わす事さえもほとんど無くなっていた京香と久しぶりに会って遊ぼうと思っていた。そして、河原の事も話そうと。
だけど京香は先に愛美と遊ぶ約束をしていた。
京香と愛美は休日に遊びに出掛けるほど仲が良かったわけでは無く、部活や廊下で会った時に話しをする程度の関係だったはずである。
それがいつの間にか、そんなに距離を詰めていたのか……
うちが京香と一緒にいられなかったから……
ちりり……
また、何か胸の奥に感じる。少し前、京香と愛美が二人並んで帰る姿を見た時と同じ感じ。
でも、明日からまた部活に参加できる。朝練で京香と久しぶりにキャッチボールをしよう。
実行委員で疲れて少し気弱になっているんだ。
ぱたんとベッドへ再び横になり、二度寝をしようと瞼を閉じた。
そして次の日、体育祭の疲れが取れていなかったのか、寝坊してしまい朝練に遅れてしまった。
急いで練習着に着替えグラウンドに出たが、既にランニングも終わり、それぞれペアになりキャッチボールが始まっていた。
「実行委員の疲れが残っとるとやろ?今日の寝坊は多めに見ちゃるけん、さっさとランニングばしてこんね」
多めに見てやると言っている優ちゃんの口調は、言葉と裏腹に少し怒っていた。そりゃそうだ。部長が寝坊して朝練に遅れたんだから。
私は他の部員達がキャッチボールをしているのを横目に一人で黙々とランニングをしている。そして、ちらりと京香を見ると愛美と一緒にキャッチボールをしている。互いの癖を把握し、スムーズにボールを投げあっていた。その合間に、何か楽しげに会話を挟みながら。
二人の姿を見て、何だかイラッとしてしまった。
京香はうちがいなきゃ駄目のに、なんで愛美とそんなに仲良くなってんの……
朝練が終わり部室で着替える時、いつもなら京香がうちにべったりと引っ付いて来るのに、挨拶を交わしただけで何もしてこなかった。
そして、京香は優ちゃんに呼ばれた為、教室に行く前に職員室へと向かった。うちが一人で教室へと歩いていると後ろから河原が声を掛けてきた。
一昨日、告白をした事が嘘の様に、互いに意識し気まずくなる事もなく、普通に会話を交わす事が出来ていた。
告白した男子とされた女子が、仲良くお喋りをしながら並んで教室へと歩いている。
うちは全く何も考えていなかった。クラスメイトとお喋りをしながら教室まで歩いている、ただそれだけのつもりだった。
でも、うちと河原との事を知っている人達はそうは思っていないことなど、思いもしなかった。
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