二人

ちい。

第1話 中体連

 「さっ、来ぉーいっ!!」


 炎天下のグラウンド。ソフトボール中体連市大会決勝。ほかの部員や保護者達が見守る中、一際、大きな声が響き渡る。


 三塁を守っている選手が、誰にも負けない様な大きな声を出していた。


 山城やましろ京香きょうか


 二年生ながらレギュラーでサードを守っている。肩ほどまでの髪をちょこんと結び、大きくくりくりとした瞳と太めの眉に少しふっくらとし頬。ユニフォームから出ている両腕と両足のこんがりと日焼けした肌が日頃からたくさん練習している事の証であった。


 甲高い打撃音と共に鋭い打球が三塁方向へと飛んでいく。しかし、京香は慌てること無く、すっと横へと動くとしっかりと腰を落とし打球を捕らえ、軽やかなステップと共に一塁へと送球した。


 京香の投げたボールが一塁手の構えるファーストミットへと吸い込まれていく。ランナーが一塁へと滑り込むも、京香の送球の方が僅かに速かった。


 一塁塁審が高々と手を上げる。


「アウトッ!!」


 ベンチや観客席から歓声がわき起こる。試合終了。市大会優勝が決まった。


 京香の中学校は元々、県内屈指のソフトボールの強豪校であり、過去には全国大会に出場した事が何度もあり県大会も常連校だった。


 しかし、やはり公立中学校の辛い所で、その年その年で選手の力量も変わる。京香達、今のソフトボール部は、過去の選手達よりも力量的に劣っていた。その為、県大会出場も危ぶまれており、県大会連続出場記録も今年で止まるのかと噂されていた。


 そんな中、彼女達は必死で練習した。県大会出場というプレッシャーを、人材不足と影で言われ続けていた事を振り払うかの様に。


 次は、いよいよ県大会。


 だが、県大会出場と言うプレッシャーはやはり彼女達の精神を圧迫していたのだろう。市大会の閉会式が終わり帰路へつくバスの前で監督を囲み、選手達は泣いていた。


「お前らならやれるっち信じとったよ」


 監督の原田はらだゆうが、選手達の頭を撫でている。彼女達の努力を一番近くで見てきた。


「よく頑張った。でもな、泣くのは早か。ここがゴールじゃなかっちゃけんで。次はいよいよ県大会だ。私はあんたらの努力を見てきた。それを一試合一試合に全力でぶつけるんだっ!!」


 選手達の顔を見回しながら監督が激を飛ばす。それに、大声で応える選手達の泣いていた顔が引き締まっていく。


「ナイス送球」


 バスに乗り込んだ京香の頭が隣に座った選手から、わしわしっと撫でられた。京香が隣の選手へと微笑んだ。


「当たり前やん、嫌になるほど練習したんやけんで」


 撫でたのは京香と同じ二年生でレギュラーを勝ち取った一塁を守る選手。長い黒髪を後ろで一つ結びで纏め、気の強そうな細い眉に猫目の瞳が優しく京香を見つめている。


 相田あいだ奏音かのん


「そうだね」


 京香と奏音は、互いに顔を見合わせふふふっと笑った。


「疲れたぁ……」


「疲れたね」


 それから二人は今日の試合の事を身振り手振りで話していたが、余程疲れていたのだろう。奏音が話しをしている途中であるのに関わらず、京香は奏音の肩に頭をもたれさせ、すぅすぅと寝息を立て始めていた。


 そんな京香の頭に自分の頭を乗せる奏音。


「ほんとに疲れたな」


 ぽつりと呟くと、奏音も瞼を閉じた。そして、二人は寄り添う様にバスが学校へと到着する迄の間、眠っていた。

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