第6話

 それから僕は親戚の家などに連れていかれたりして過ごしており、その間も、加賀さんとのメッセージのやり取りは頻繁にしていた。


 そして、とうとう八月十五日がやってきた。


 僕は寝坊しない様に二つ目覚ましを掛けており、無事に約束の午前六時前には待ち合わせをしていた駅へと着いた。


 そこには麦わら帽子を被り、いつもの一つ結びで、白いシャツにふわりとした紺色のスカートの加賀さんが僕へと手を振っている。


「おはよう、赤城君。とてもよく晴れたわね」


 僕も加賀さんへ挨拶を返しどこへ行くのかを尋ねると、加賀さんは西を指さして向こうと一言だけ言った。


 僕は加賀さんから言われるがままに切符を買うと、改札を抜け、ホームのベンチへと並んで座った。


 加賀さんが鼻歌を歌っている。


 夏祭りの時にも歌っていた鼻歌。


 どこかで聞いた事のあるメロディ。


「ねぇ、加賀さん。そのメロディは?」


「少年時代」


 僕の問いに一言で返すと、また鼻歌を再開する。僕は何も言わずに加賀さんの鼻歌を聞いていた。


 ゆっくりとしたメロディ、だけど、どこか寂しげに聞こえる。


 そうしているうちに、僕らのいるホームへ電車が到着するアナウンスが流れてくると、加賀さんはベンチから立ち上がると僕の前へと立った。


「今日からあなたの事を下の名前で呼ぶ事にするわ」


 加賀さんからの突然の申し入れに僕はびっくりした。そんなびっくりしている僕へ人差し指を突きつけている。


「だから、赤城君……いえ、圭太けいた君。あなたも私の事を加賀さんじゃなくて、美涼みすずって呼んで頂戴」


「突然、どうしたの?」


「だって今から私達は日帰りとはいえ旅に出るのよ?という事は、私達二人は旅のパートナー……だからよ」


 有無を言わせない加賀さんの力強い言葉に僕は黙って頷くしか無かった。僕が了承した事に満足気な表情を浮かべにこりと微笑む加賀さん……いや、美涼は、僕の手を取るとベンチから立たせ、そのまま手を繋いでホームの白線まで歩いて行く。


「私ね……」


 何か言おうとしたが途中で言葉を止め、入ってきた電車をじっと見つめている。僕は美涼が何を言おうとしたのか気になったが、美涼がもう一度、話したくなるまで待つ事にした。

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