第3話

『八月十五日の午前六時に駅で待ってます』


 中体連の大会も終わった頃、加賀さんからのメッセージが送られてきた。


 とても簡潔なメッセージ。


 終業式にメッセージIDを交換してから、加賀さんとメッセージのやり取りを毎日の様にしている。今までも女子とメッセージのやり取りはした事はあるけど、ここまで頻繁には無かった。


 僕はどちらかと言うと、あまり友達とメッセージのやり取りをする方ではなかったが、でも、加賀さんとのそれを面倒臭いと思わず、逆に楽しいと思っている自分がいる。


 僕の中体連は市大会二回戦で負けて、すぐに終わったが、加賀さんは県大会の準決勝まで進んだ。僕は加賀さんに内緒で大会の応援に行った。


 初めて見る加賀さんの試合。結果は僅差での敗退。


 試合をしている姿は、とても、とても綺麗で格好良かった。


 普段、隣の席で見る加賀さんとは違う、真剣な表情でボールを追う一生懸命の姿に僕は自然と見蕩れていた。


 僕の心の中に加賀さんの姿が焼き付けられていく。


 少し前までは、ただの隣の席の女子……という存在だけだったのに。気付けば僕は試合を見ていると言うより、加賀さんだけを見ている。


 八月十五日まで会えないのかな……


 それを思うと少し寂しい気持ちになってしまった。誰かに会えなくて寂しいと思う気持ちになるのはこれが初めてである。


 こんな気持ちになるなんて……


 もしかして、僕は加賀さんに恋をしてしまったのだろうか……


 少し自分の気持ちに戸惑いつつも、浮かんで来るのは色んな表情をしている加賀さんの顔ばかりである。


 そんな事を考えていると、また、携帯の着信音が鳴った。現実に引き戻された僕は慌てて携帯を取り画面を開いた。


 送り主は、つい先程までメッセージのやり取りをしていた加賀さんからだった。


『その前に、八月五日に行われる神社の夏祭りに行きましょう』


 本当に簡潔な分かりやすいメッセージである。


 しかし僕はそんな事よりも、会いたいと思っていた加賀さんからタイミングよくメッセージが来たという事に驚いた。


『いいよ、行こう』


 僕は深く考えずに返事をした。


『ありがとう。なら、鳥居前に午後六時に』


『了解』


 この近郊では少し有名な神社の夏祭りであり、毎年、たくさんの人が訪れる。いつもは部活の友達たちと行っている夏祭りだったが、生憎、今年は誰とも約束はしていなかった。


 ちょっと待てよ……


 僕と加賀さんの二人きりなのか?


 夏祭りのある神社は学校の校区内で近所という事もあり、同じ中学校の生徒達もたくさん来る。そんな中を僕と加賀さんが二人で屋台をまわっていたら……


 僕は勘違いされて冷やかされるのも良いけど、加賀さんは大丈夫なのか?


 深く考えずに答えてしまった事に後悔している。だけど、もしかしたら加賀さんは誰か他の友達も一緒に誘っているのかもしれない。


『二人で行くの?』


 そう加賀さん本人に聞けば早いのだろうけど、何故かそれは躊躇してしまった。もう僕は考えるのをやめて、部屋に掛けてあるカレンダーの八月五日と八月十五日に赤マルをつけた。

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