第66話 準備

 まず最初に関係者を集めて俺達は作戦会議を開いた。

 会議に参加したのは【グリーンウィング】のギルドメンバー全員と【オラトリオ】のギルドメンバーで全員で十四名。

 ただし俺達は実際の戦闘には参加しないつもりだ。

 準備や手助けはするが、戦闘は【グリーンウィング】のみで勝たなければならない。


 勝つ為の行動として、最初に【グリーンウィング】のメンバーには姿を隠して貰う事にした。

 姿を消す理由として作戦通りに動ける様に訓練をして貰う為だ。

 訓練の場所は王都から半日程度離れた場所に広がっている森林地帯で、ここなら【デザートスコーピオン】の連中にもバレる事はない。

 

 だがせっかく姿を隠したのにそれを利用しないのも勿体ないので、俺は【グリーンウィング】が消えた事実を利用する事にした。

 

 その為に俺は情報屋【ブルースター】の元へと向かう。


「いらっしゃませ。今回はどんな情報をお求めで?」


 メイド姿の受付嬢はいつもと同じ口調で接客を始める。


「今回は情報が欲しい訳じゃない」


「左様でございますか、ではどう言った御用でしょうか?」


「【ブルースター】は情報を集めるのが仕事なんだろ? それじゃあ、逆に情報を流す事も出来るんじゃないのか?」


 俺が笑みを浮かべて尋ねてみると、今まで一度として表情が変わらなかったのに受付嬢の表情がドス黒い笑みを浮かべ始める。


「ふふふっ当然でございます。常連様にしかご提示しない裏メニューを依頼してくるとは、流石はラベル様。長いお付き合いになりそうですね」


「普通の情報屋じゃないとは思っていたよ」


「それでは詳細をお聞きします」


 俺は受付メイドに誰にどんな情報を流して欲しいかを伝えた。




★   ★   ★




 【グリーンウィング】のメンバーは、森の中で訓練をしていた。

 【グリーンウィング】のメンバー構成は剣士や戦士などと言った前衛が三人。

 次に斥候やアーチャーと言った中衛が三人。

 三人の内、エリーナがダンと同じアーチャーだ。

 最後に魔法使いや支援職が四人。

 フランカとハンネルは魔法使いだがそれぞれ属性が違う。

 エルフのフランカが水でハンネルが火であった。

 水魔法は防御と攻撃を兼ね備えたバランス型で、火炎魔法は攻撃特化型である。

 二人の魔法は今回の作戦の要でもあった。


 中衛職や後衛の魔法使いの数が多いので、前衛が敵を惹きつけて後方からの攻撃で仕留めるスタイルが最も適しているだろう。


 俺は彼らの職業や取得スキル情報をまとめ、一つの作戦を作り上げていた。

 今はその作戦を成功させる為に実戦形式の訓練を行っている。


 森の中で俺達が【グリーンウィング】を追いかけていた。

 今は俺達が仮想の【デザートスコーピオン】と言う訳だ。


「遅いっ!! そんな動きだと相手にこっちの狙いがバレるぞ!! 悟られない様にもっと素早く動くんだ!」


「はいっ、すみませんっ!」


 背後から追いかけながら、【グリーンウィング】のメンバーに目に付いた悪い所を指摘する。

 彼等も必死に作戦通りの動きをしようとしているのだが、まだぎこちない。


 その後、休憩に入るとダンやリオンが【グリーンウィング】のメンバーに連携の注意点やコツなどを説明していた。

 二人には今日まで連携の注意点や身体の動かし方などを徹底的に教え込んでいるので、既に上級者レベルに達している。


 おっさんの俺が教えるより、年の近いリオンやダンが教える方が彼等も受け入れやすいかもしれない。

 俺は【グリーンウィング】の訓練をダンとリオンに任せて、次の準備に取り掛かった。



★   ★   ★




 二日後、全ての準備を終えた俺は訓練中の【グリーンウィング】の元へと向かう。

 俺が流した嘘の情報に踊らされて、【デザートスコーピオン】の連中は今ダンジョンで必死になりながら【グリーンウィング】を探している筈だ。


 そんな状況で【グリーンウィング】を見つけたらどうなる?

 獲物に向かって必ず食らいついて来る。


 【グリーンウィング】の訓練を見つめていた俺は大きく頷いた。

 彼等の動きは訓練を始めた時とは別人の様に変わっていた。


 動きには迷いが無くなり、その時の状況に合わせ自分達で考えて動き方を変えていた。


「これなら大丈夫だろう」


 俺は訓練を終えて休憩していたフランカに近づき声を掛ける。


「凄いぞ。今日の動きができるならきっと勝てる」


「本当ですか!!」


「訓練を始めた時に比べて格段に動きが良くなっているから全員自信を持ってくれ。これで訓練は終了だ。訓練の疲れを取った後、ダンジョンに潜って【デザートスコーピオン】を倒そう」


【グリーンウィング】のメンバー達は互いを見合って、喜んでいた。


「作戦は最初に伝えた通り、後は状況によって臨機応変に対応するだけだ」


「「はいっ!!」」


【グリーンウィング】のメンバーが全員声を揃えた。


「お膳立ては全て済んでいる。【デザートスコーピオン】の連中は腹を空かせながら、ダンジョンで【グリーンウィング】を待っているぞ」


「私達で本当に勝てると思いますか?」


 フランカが少しだけ不安そうに聞いてきた。


「安心してくれ、こちらが戦場を選べるから地形的有利は既に手に入れている。更にこちらには作戦もあり、その作戦が成功する為の訓練も終えているんだ。後、必要なのは勇気だけだ」


「分かりました。私達はここまで協力して下さった【オラトリオ】の皆さんの為にも、この戦いに勝つことをお約束します」


 フランカが頭を下げた後、【グリーンウィング】のメンバー全員が俺達に感謝を示して頭を下げ来た。

 ダンもリオンも恥ずかしそうにしているが、その表情はどこか嬉しそうでもあった。

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