第294話
シャルを逢引き宿に連れ込む。
俺はそれのために全力で思考を巡らせる。ギルドの人間、特に俺と仲良くしている奴にあったら一発でアウトだ。
シャルを連れてギルドに戻ることをせずに変なことをしているとバレてしまう。
あとは知り合いには見られたくない程度だが……まぁ、おおよそは俺が二日この街から離れていたことは知らないわけだし、宿に連れ込む瞬間さえ目撃されなければ問題ない。
「あれ、ランドロスさん、何で路地に入ったんですか?」
「…….いや、シャルが歩き疲れているだろうから少し近道をしようとな。俺がいない時は大通りしか歩いちゃダメだぞ」
そんな言い訳をしてからゆっくりと考えながら歩く。裏路地ばかり歩けば人に見つかる可能性は減るが、シャルに不審に思われる。理由を話せばシャルも納得して協力してくれそうではあるが……あまりコソコソしているのは男として格好悪いのでやめておきたい。
あくまでも格好良くてスマートに連れ込んで、シャルにゲヘへなことをするのだ。
クルルと泊まったところ以外にもそういう用途の……男女がふたりでいやらしいことをするための宿はあるが、半魔族だからと断られる可能性があるのでやめておこう。
直前で断られたりしたら格好がつかない。
目的地はクルルと泊まった宿、シャルの負担を考えて少ない歩数で、なおかつギルドの連中を始めとして知り合いに合わないように……。
そう考えながら大通りに出て、少し歩いたときのことだ。俺は自分の考えの浅さに気がつく。
……俺は強い。迷宮国と呼ばれるだけあって迷宮の探索者はかなり人数が多く立場が大きい。
そういう街においてどういう人物が一目を置かれるか、当然高層まで登った探索者だったり腕っ節が立つ探索者だ。
他の国や街でもそうだが、特にこの国では顕著にそういう強さに惹かれる人は多く……ハッキリ言って、強い男はモテる。
今までは特にモテることはなかった……ということもないな、クウカを含めると五人も好きになってもらっているからな。
が、まぁ……特に強さなどを気にしていない人ばかりなので「強いから」という理由でモテることはなかったのだが……。
言い方を変えると「強いから」という理由で俺がモテてもおかしくなかったわけだ。
シャルの手を引いて大通りに出て数歩、甲高い女性の声が響いた。
「あ、あの、もしかしてランドロスさんですか?」
見知らぬ数人の女性達に声をかけられて脚が止まる。
「そうだが……なにか?」
怪訝に思いながらも女性に目を向けると慣れた蔑視の目線ではなく、熱っぽいというか……どうにも媚びるような目であることに気がつく。
「親戚の家がお世話になりました。それに闘技大会の予選見てました。かっこよかったです!」
「あ、ああ、そうか」
知らない人に突然褒められるという奇妙な経験に怯んでいると、一緒に歩いていた女性も口を開いて俺に言う。
「本戦には何で出場しなかったんですか?」
「えっ、ああ、上司の指示で……」
実際にはシルガとの戦闘による怪我と個人的に行っていた警備が主な原因だが、そんなことを話すべきではないだろうと思ってクルルの指示だと答える。
「そうなんですか、もったいない。あっ、ランドロスさん、今お暇だったり……」
と女性が切り出したときだったシャルは俺の服をちょんと摘まむ。特にそれ以外の動作をしたわけではないが、すぐに察する。
「いや、見ての通り忙しい」
この女性達は俺をお茶か何かに誘うつもりだったのだろうが、今はシャルとのデートの真っ最中である。
もちろんそうでなくても断っていただろうが。
連れがいるのによくそんなことが出来るものだと思いはするが、シャルはどう見ても子供なのでまさか妻だとは思いもしなかったのだろう。
俺の迷惑そうな表情に気がついたのか女性達は去っていき、少し不満そうな表情のシャルの頭を撫でる。
「……モテますね、ランドロスさん」
「いや……別に、興味はないな」
「……そうですか」
シャルに拗ねたように言われるが、声をかけられたのは仕方ないだろう。
心配する必要はないと示すように笑いかけると、シャルはプイッと横を向く。
「ギルドに帰る前にデートしたいって言ってくれて、嬉しかったのに」
「いや知らない人に声をかけられたってだけだろ。……腹は減ってないか?」
「大丈夫です。…………隣に僕がいるのに女の子が声をかけてくるって、やっぱり、僕ってランドロスさんの妻や恋人には見えないんですか? 子供だから……」
「単純に、気が利かないやつだったってだけだろ」
少し歩いているうちにギルドの仲間が多くいそうな範囲から離れられたので少し安心する。
こういう時に限って邪魔をしてくる商人も、今はあちらの街に戻っていることだしな。
これでシャルを宿に連れ込むことが出来る……と考えていると背後から低い男の声がかけられる。
「そちらのご夫婦、占いとか興味ありませんか?」
一瞬、別の人に話しかけたのかと思ったが自分達以外に人がおらず、シャルが足を止めたことで俺も脚を止める。
「えっと、僕達のことですか?」
おずおずとシャルは振り返り、俺もそれに続いて引き止められたことへの苛立ちを覚えながら振り返る。
胡散臭い男。秋にしても暑そうな厚手の服は髪や目を隠すような形の上に、手には手袋をつけていて口元を布で隠していた。
おおよそ人の形をした布の塊としか見えないが、微かな人らしい動きがあることや声が発せられたことから中身が人の男であることが分かる。
それにしても、こんな体格や年齢の違いがある男女を見てよく夫婦だと判断出来たな。
幼い子供と結婚することはない話ではないが、珍しいのは間違いない。
「他に人はいませんよ。こちらはしがない占い師なのですがね、そちらの旦那さんに妙なものを感じまして。随分と災難に恵まれたようで」
シャルはわかりやすく驚いた表情を浮かべて俺を見る。
「……いや、騙されるなよ。この時代、だいたいのやつは災難にあっているだろう。どんな奴に声をかけても当てはまる」
「えっ、あ、た、たしかにそうですね」
そもそも俺はこの町ではそこそこ有名なのだから俺の事情のことを言い当てるのは難しくないだろう。
相手にする必要はないと思って立ち去ろうとしたときだ。男はポツリと口にする。
「ああ、もちろん立ち去っていただいても結構ですよ。しかし、覚えていてほしいことがありまして「私はこの周辺や亜人の差別には詳しく、あとしばらくはここにいます」とだけ」
「……はあ?」
まぁ立ち去っていいなら立ち去るが……。
シャルを連れて街を歩く。早く宿に連れ込んでシャルの体に触りたい。
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