第162話
身体を疲れさせることでカルアとクルルの誘惑から逃れるという雑な策は、成功を収めていた。
朝早くに出てクタクタになって帰ってきて寝るという生活において体力の問題から、三人に性的な目を向けずに済んでいたし、高階層にしかない大量の素材や魔物の遺骸などを拾ってきたことで収入も激増して、金に困らない状況になっていたうえに、当然攻略も一気に進んで75階層まで来ることが出来ていた。
……だが、何だろうか……この、何もかもが上手くいっているのに満たされない気持ちは。
いや、答えは分かっていた。分かりきっていた。
……イチャイチャしたい。
俺は金なんていらないし、名誉も必要ない、ただ三人とイチャイチャしたいだけなんだ。
「……は、はぁ……そうですか」
俺の熱弁を聞いたカルアは、俺とは違って冷めた様子だった。
「……あれ、カルアはそうでもなかった?」
「まぁ、三人で寝てるランドロスさんを弄ったり触ったりしてましたし、そもそもそんなに頑張っていたのは一昨日と昨日の二日だけですよね。堪え性がなさすぎませんか?」
「……いや、だって……我慢の限界が来ているというか。一緒にいたかったんだ」
初代が着いてきてくれるのはこれぐらいまでが限界だそうだし、そろそろ一度休憩を入れるのも悪くない。
「……今日、私は集まった研究者の人達に講義をするんで忙しいですよ?」
カルアは寝ぼけ顔のままくしくしと目を擦りながら、あぐらをかいている俺の上にぽすりと座る。
忙しいと言いながらも背中をすりすりと俺の身体に押し付けて甘えてくれる。
「ランドロスさんの頼みは聞いてあげたいですけど、人見知りなイユリさんに任せるのは悪いですし。朝からずっとイチャイチャするというわけにはいかないですね。明日ならいいですけど」
「……75階にたどり着いたし、そろそろ迷宮の中を見たいんだろ」
「いや、もう集まることになってるんで断るのは無理ですよ」
「一月一緒に迷宮に篭る約束もしたよな」
「だいぶ前の話を出してきましたね。今は状況変わってますし……。仕方ないですね。一緒にきますか? と言っても、マスターに許可を得られたのでギルドの中ですけど」
勉強か……絶対に俺では理解出来ないような難しい内容なのだろうが、まぁ行くか……多分シャルも手伝いをするだろうし、クルルはギルドマスターの仕事で忙しいだろうし、ひとりだと寂しい。
まぁ迷宮に潜ってもいいんだが、どうせならカルアを連れて行きたい。
……迷宮に関して、何かは分からないがカルアが気にしていることもあるようだしな。
カルアに遅れてマスターとシャルが目を覚まして四人でギルドに向かう。
朝食を食べてから、カルアに指示を出されながら、ギルドの端の机を勉強しやすいように並べていく。
どうやら五人もくるらしい。
しばらく用意などをしていると少しおめかしをしたイユリがギルドに入ってくる。
「あ、おはようございます。イユリちゃん。可愛い格好ですね」
「おはよう、カルアちゃん。今日は弟子くんもいるんだね」
いつもは平服なのか寝巻きなのか微妙なぐらいのゆったりとした服で一日中ギルドの中で過ごしているが、今日は珍しく綺麗な服を着ていた。
「師匠、どうしたんだ。そんな格好で」
「い、いや、いつも通りだよ?」
「えっ、いや、いつもはなんかもっと楽そうな服ですよね? ……もしかして気になる人でもいるんですか?」
「いや、えっと、そういうわけじゃないんだけど……。ほら、もしかしたら、格好良くて頭がいい人と出会えるかもしれないから……」
イユリはハーフエルフの尖った耳を赤くして、こそばゆそうに掻きながら言う。
ああ……そういう願望あったのか。まぁ、見た目の年齢だと俺と同じぐらいなので当然と言えば当然か。
「んー、若い人が来るかも分からないですよ?」
「ま、まぁ……いたときに困らないように……ってだけだよ」
「はあ、師匠、そういう良い奴がいて話しかけられるのか?」
俺の言葉にイユリの動きが止まる。
イユリはかなりの人見知りで、ギルドの仲間以外と話しているところは見たことがないし、特に男に対してはとてもよそよそしい。
固まったイユリはパクパクと口を開く。
「ま、マスターに間に入ってもらって……」
「書類作業をしてるから邪魔をするな」
「カルアに入ってもらって……」
「カルアが美人すぎてカルアの方に目がいってしまわないか?」
その男に少女趣味がなくても、カルアの容姿の良さは目を引くだろうし、それと並んでいたらちょっとした美人程度なら微妙な容姿に見えてしまう。
イユリもエルフらしい美形ではあるが……まぁカルアの方が綺麗で可愛いのは間違いないだろう。
「……じゃあ弟子くん。間に入って」
「……男の俺が間に入るのはどうなんだ? 男がいると思われて離れていかないか?」
「……大丈夫。弟子なら上手くやれるよ」
それなら別にいいんだが……と思っているとギルドに知らない人間が入ってくる。
少し猫背気味の眼鏡をかけた男……年齢は20代半ばぐらいだろうか。あまりこのギルドにいるタイプではなく、学然としている格好だ。
イユリに目を向けると彼女は俺の背中をトンと押す。
「師匠、ああいうのが好みなのか?」
「話をしてみないと分からないよ」
「いや、見た目の話として」
「んー、優しいのと頭がいい人がいいぐらいで、見た目はそんなに気にしないかな」
ああ、このギルドには頭いい奴少ないもんな。なんだかんだと故郷を追われている奴がほとんどだし、多くは俺と同じようになんとか文字が読める程度だ。
とりあえず、放置しているわけにもいかないので声をかけにいく。
「おーい、そこの。植物魔法の講義を受けにきたのか?」
「ん、ええ、まぁ……あなたはランドロス氏ですね」
くいっと眼鏡を上に上げつつ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふ、僕は天才魔法学者のウィルノー。よろしく」
……なるほど、天才か。今のところイユリの好みには該当しているな。
なんたって自分で天才と言っているのだから間違いないだろう。
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