第21話

「そもそも……ランドロスさんは似たような経緯で産まれたんじゃないんです?」

「……恋愛の末と聞いた。父親と会ったことはないが」

「あ、失礼しました。お気を悪くさせたらすみません」

「……いや、別に構わない。それより……話を聞きに行きたいから……カルアも来てくれないか?」

「えっ、嫌ですけど」

「そこをなんとか……俺一人で聞いても分からないから」

「迷宮の調査がありますから。……でも、それに使った時間以上の利益をくれるのなら、いいですよ」

「……利益?」

「事が終わったら、長期間の迷宮調査をします。入ってからギルドメンバーの魔法や戦闘能力を調べていましたが、その中でもランドロスさんはとても魅力的です。あなたの空間魔法があれば、年単位で迷宮に潜ることも可能です。まあ、その迷宮調査は一月を目安に考えていますが」


 一月か……まぁ、こちらの孤児院の件は一月どころではないほどの時間を拘束するわけだし、妥当というか、割安か。


 俺が頷くと、カルアは満足そうに笑みを浮かべる。

 当面の目標……というか、やるべきことは決まったか。

 あの街に向かって、カルアと共に孤児院の院長の話を聞く……か。


 シャルと一緒に行くとあの商人とまで一緒に旅をすることになるのが嫌だが……まぁ仕方ないか。

 シャルの方に戻り、少し緊張しながら彼女に言う。


「……どうにかするために、院長に話を聞きたい。帰るのに俺ともう一人が同行してもいいか?」

「え、あ、はい。もちろんです。よろしくお願いします」

「……手土産とか用意した方がいいか?」

「い、いえ、そんなの全然必要ないですよっ。もう散々お世話になっているのに……むしろこっちが色々と歓迎しないとですっ」

「……いや、俺は半分魔族だから、バレると不味いから内密に通してほしいんだが……」

「わ、分かりました。了解です」


 一応、旅の準備をするか。……俺の異空間倉庫の中に入れたものは腐らないので、可能な限り物を買い込みたいが……。


 俺は買えるところが限られているんだよな。いつもはギルドで食事をしていたり弁当を作ってもらったりしているので問題ないが……割高でも魔族にも物を売ってくれる店を使うか?


 マスターやカルアは人間だが、ここのギルドのメンバーと知られているからお使いは頼めないし……。いや、そういえば今は商人がいるのか。


 アイツに集めてもらう方が安いか。

 買ったものをすぐ近くで俺に売るだけで利益が出ると分かったら大喜びで準備を手伝ってくれるだろう。


 ギルドから出て、あの商人が好みそうな場所を探しながら歩く。

 適当に歩いていると、小太りの成金風の男が見えたので、手に持っていた小銭を地面に落とす。


 チャリン、と、音が鳴り、小太りの男はすぐに振り返って俺を見る。……相変わらず、あの男は金の音によく反応する。

 俺が小銭を拾ってから人気のない道に移動すると、すぐに小太りの男……商人が俺の前に姿を現す。


「おお、我が大親友のランドロスさんではないですか。何か御用ですか?」

「……その前に、何か言うことはないか?」

「ああ、あの孤児を運んだことですか? お礼やお代はいりませんよ。大親友のランドロスさんとアタシの仲じゃないですか」

「……勝手なことをするなよ。会いたいとは一言も言っていないだろうが」

「会いたくなかったんですか?」

「二回もフラれたくなかった。……おまえ、本当に恨むからな」

「それは逆恨みでは……?」

「うるせえ」

「八つ当たりは勘弁してくださいよ。ほら、これあげますから」


 商人はそう言いながら小さな箱を俺に渡す。

 箱の隙間から微かに甘い匂いが漂ってくる。どうやら食べ物らしい。


「これは?」

「遠くの国からやってきたチョコレートという甘味だそうです。とても女性に人気だそうなので、これをプレゼントしたら大層喜んでくれるかと」


 なるほど。物のプレゼントか、現金ばかり渡していたからこういうのもいいかもしれないと思って受け取ると、商人が俺に向けて手を出す。


「私が買った値段でいいですよ?」

「金取るのかよ。……まぁ、俺はこういうのを買えないから普通にありがたいんだが……なんだかなぁ」

「いえ、アタシからタダで受け取った物って怖くないですか?」

「自覚あったのか……」


 まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 人がやってくる前にさっさと話を済ませよう。


「少しあの街に用が出来た。シャルと一緒にあの街に戻りたいから、馬車に乗せてくれ」

「……まぁ、ええ、それは構いませんが……タダというわけには。ランドロスさんを乗せることになると、他の人を乗せてお金を稼ぐという事が出来ないので」

「ああ、分かっている。あと、しばらくの食料を買い込みたい。俺だとあまり大量には購入出来ないから、代わりに買ってきてくれ。手数料なら出す」

「ふむ……いえ、手数料代わりに頼みを聞いていただいてもいいですか?」

「……頼み?」


 俺が商人のことを疑いながら聞くと、彼は胡散臭い笑みを浮かべたまま頷く。


「ええ、こちらの方で取れる野菜や肉はアチラではとても高く売れるんですが、どうしても馬車だと量は運べませんし、腐ります。海路を使った輸送も、こんな端の商人には出来ませんので。ですので、ランドロスさんの異空間倉庫の場所をお貸しいただければ……量によってはむしろこちらの方がお支払いしますよ」

「……何か最近随分とマシな扱いだな。以前はあんなにもぼったくっていたのに」

「そりゃあ、ランドロスさんがアタシ以外の商人と取引をしだしたら困りますので、サービスもしますよ。あ、もし声をかけられたら話を聞くだけ聞いてアタシに報告してくださいね。アタシの方がいいサービスを提供させていただきますんで」


 ……ちゃっかりしてるな、この商人。


「……まぁ、異空間倉庫ならまだまだ入れられるから好きに使ってくれたらいい」

「馬車一つ分の荷物ぐらいは入りますか? 高位の空間魔法使いはそれぐらい出来ると聞いたのですが」

「何だそのガセネタは。城一つぐらいなら余裕だ。好きなだけ用意したらいい」

「ええっ、本当ですか? 空間魔法って凄いんですね。……ええ、本当にすごいですね。媚び売っていいですか?」

「俺の失恋を笑った時点でお前に心を許すことはない」

「それは残念です。ああ、可能な限り大量に仕入れたいのでお金を借りてもいいですか?」

「……遠慮しないな、商人」


 商人と物の受け渡しをする場所と時間を決めてから別れる。俺から金まで借りていったが……アイツ、どれだけ大量の物を輸送する気なんだろうか。


 まぁ別に俺の負担はそんなにないので構わないが。


 そう思いながら約束の場所で待っていると、馬車が5台並んでやってきて、全て渡されたかと思うと、商人は再び街の方に行き、買い物をしてからまた俺に渡して、と繰り返して合計馬車五十台分の物を買ってきた。


 ……この男、強欲すぎるだろ。限度という物を知らないのか。下手な海輸よりも量が多いぞ。個人の商人なのに。


 商人の正気を疑う。……まぁ、色々と融通の効く取引相手が金を持っているに越したことはないので構わないか……。


 商品の受け渡しに丸一日かかったし、帰る時も同じことをさせられるなら、別のやり方を考えた方が良さそうだ。この方法は無駄に時間がかかりすぎる。

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