クエスト18:不思議な縁もあったものでしょ。
「ただいまー!」
「早かったじゃない。やっぱり、紬さんにお部屋で一服してほしいから?」
フィックシーを出る前にギルド連盟の施設で受け取った戦利品を手にして、ルーナたちは白の王都にある大きな屋敷――ギルドホームへと帰還。
ママルゴールドから魔石、装備品まで様々だったが、そのうちフィールミック一座のマーク入りのリボンがついたものは、前もってフィル座長が連盟に預けていたのだ。
まずそれらを空いている机や台の上に置かせてもらい、ルーナから気を回してもらった紬は誰より先に笑顔を振りまき、ギルメンたちを安心させた。
「こっちがフィックシーの街を襲おうとしたモンスターの迎撃に成功したお礼で。こっちがフィル・ミミーからいただいた報酬」
「あとは、リモート魔法でお知らせした通りだぜ。つまりこれ以上言うことがない」
「やー、ご苦労様。次から次に状況が変わって振り回されて、大変だったんじゃない?」
ルーナとフェンリーが皆に説明を行ない、和装でぐるぐるメガネをかけた美女・サヤが荷物を受け取ろうとした時、男性メンバー数名が率先してそれらを事務室の奥へと運んでいく。
「しかし、紬さん自身も知らなかった力に目覚めるとはね。きっとこの先役に立つと思うわ。だから、コントロールできるようにしておかないと」
「そうだな。力とは持て余して、振りかざすためのものではないからね」
ピースクラフターのギルドマスターにして同ギルド内でも名実ともにトップレベルの強さを誇る冒険者であるウシ娘と、そのマスターを支えるサブマスターであるハクトウワシ娘がそれぞれ紬に経験を積み、制御できる術を身につけるように注意を促す。
――というよりも、にっこりしていたこともあって、親目線でアドバイスをするのに近かった。
「まーまー、ミル姉さんもタイベルも。わかりきったことを言うのはナシ! これから気をつけて取り組んでいけばいいんだから。それよりつむちゃん!」
そこでサヤが、ルーナたちの前で堂々と紬に顔を近付けた。
紬よりも背が高かったため、今にもこぼれ落ちそうな乳房が彼女の眼前ギリギリに迫る!
「わわっ、サヤ姉!? 近い近いっ!」
「スマホ直った記念にパジャマパーティーしようよ。それか、お姉さんがおごってあげるよぉー。お洋服だって好きなの買ったげてもいいけどー、やっぱり自分で選びたいかな?」
「まま、迷っちゃうーー!!」
メガネを外して、コンプレックスの元となっている鋭い目つきを見せた――ということは、それだけ紬のことを信じてかわいがっている何よりの証拠。
会ってから日が浅くとも、どうせなら仲良くやって行くほうがいい。
「サヤ、ここは落ち着いて……」
「おほん! 失礼。しっかし、ルーナの前世と、つむちゃんがそういうご関係だったとは。感慨深いものがあるわねえ」
「実はフィルさんもなんです」
「確かつむちゃんの幼稚園で飼われてたウサちゃんが前世なんだっけ」
それはつまり、ルーナがいなければ紬と知り合い、ピースクラフターへと迎え入れることもなかったということ。
指をアゴに添え、「この出会いに感謝しなくては」と思い、笑みをこぼすサヤだった。
「不思議な縁もあったものでしょ。ひょっとしたらサヤも、ツムギちゃんと何かあったクモがルーツだったりしてね?」
「ないないない! こないだが初対面だったのよー?」
「ほんとにそう思う? サヤ姐さあ~」
片手を振ってルーナの予想を否定したサヤのもとへ、悪そうな笑顔を浮かべたフェンリーがツタでもないのに絡みに行く。
肩に手を回しそのままセクハラに及ぼうとしたが、時と場所によってはおさわりNGだったサヤ本人により止められた。
付き合いの長いルーナとスズカたちからも白い目で見られ――、フェンリーはばつが悪そうに笑う。
「家の近くに住み着いたクモとかだったんじゃないですか? それか畑や田んぼの近くの……」
「私元の世界じゃ都民だったよ!? 忘れないでっ」
「あはははっ! 言わせておけば〜……ね? この子たちといたら退屈しないでしょ?」
先ほどの仕返しか雑にフェンリーを押しのけ、サヤが紬に急接近。
周りに振り回されて困っている彼女に目線を合わせ、またも顔と一緒に胸を近付ける。
色仕掛けをしたかったわけではないが――。
そこに、両腕から鎌を生やしているわけではないものの、オオカマキリの遺伝子・特性を持つ緑髪の女性が羨望の眼差しを向けつつ間に割って入る。
ほかのメンバーたちが見ていたこともあり、ちゃんと両者には謝った。
「ずるいぞサヤ! アタシも混ぜておくれよ」
「いいわよぉコズエさんも。夕食とお風呂の後に私の部屋においで」
「や、やったぞ……」
そのあと食堂では宴が開かれ、誰もが飲んで食って、歌って踊りそれはそれは一段と激しく盛り上がった。
紬は食後に約束の時間までに入浴を済ませ、サヤの部屋まで向かってパジャマパーティーを堪能する。
デミトピアで大ヒットした映画やドラマ、アニメーションの鑑賞に加え、このデミトピアで流行っているゲームで白熱の対戦を繰り広げるなど、さまざまな方法で盛り上がったようだ。
そして――夜が明けた!
◆
ピースクラフターの朝は早い――わけでもないが、彼女たち4人は早朝から私服姿で街に出歩いていた。
依頼内容を記したメモを片手に。
「今日最初のお仕事は、西エリア・カリスマ通りにある雑貨屋さんの搬入のお手伝いだ。紬、重いモンは無理せずわたしらに任せてくれ」
「はい。がんばりますっ!」
「その意気やよし!」
先日買ってもらった服を気に入った紬はそのまま着こなしており、フェンリーもまた肩を出した大胆な装いをしている。
ルーナと同等かそれ以上に容姿が優れていたためか、道行く人々からの注目を集めてもいた。
そのルーナは上着を羽織った上で胸元を出し、ロングスカートを履いている――という服装だった。
「気のせいだよね……」
どこかレトロながらもモダンな雰囲気の和装をまとっているスズカの背に、悪寒が走る。
ルーナが紬やフェンリーと盛り上がっていたところなのに、ひとりだけ足を止めてしまった。
「どうかしたか、スズカ? 置いてっちまうぞぉ」
「や、やめてくださーい!」
スズカが振り向いた方向には、
「何かあったのね?」
「誰かに尾行されてる気がしたんです……」
「警戒しすぎだよそれは。肩の力抜きな」
「そうかなー……」
誰もいないはずだったが、彼女たちが過ぎ去った後、豪奢なオペラグラスだけがその場の屋上に浮かび――。
そこだけ景色が歪み、ひとりでに浮き上がっていたグラスの持ち主が徐々にその隠された全貌を露わにしていく。
「見ィ〜〜〜〜つけたっ。歩くお宝ちゃん……あんたはあたしがいただくんだから☆」
熱さよりも狂気や闇を感じさせる赤髪で、その瞳は吸い込まれそうな緑色。
マフラーや前開きのスカートからなる極彩色の華やかな衣装をまとい、その手にはステッキを持ち、小さなシルクハットを被る妖しい女が、狙いを研ぎ澄ませた獣のような眼をして、勝ち誇るようにニヤリと笑う――。
ルーナたちを見下ろすその女の真意は、彼女のみぞ知る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます