高木 瀾(らん) (8)

 私は背中からバタフライ・ナイフを大きくしたような「刀」を抜く。

 しかし、刃を出さないまま、柄でソンビもどきになったヤツの片方の頭を殴り付ける。

 手応えからして、脳震盪が起きている筈なのに……まだ、動き続けている。

「なぁ、こいつら無視してても、私達に害は無いのか?」

 私は関口にそう訊いた。

「害って?」

「怪我してる上に麻痺してる体を無理矢理動かそうとしてるから、動きがにぶい。放っておいても大丈夫な気がするが……それで問題無いか、確認してるんだ」

「あ……ああ、大丈夫だと思う」

 私達「御当地ヒーロー」「正義の味方」が顔を隠しているのは、身元がバレるのを防ぐ為だけじゃない。

 そして、私の父方の伯父は日本最初の「御当地ヒーロー」「正義の味方」の1人にして、その組織ネットワークの創設者。

 私の両親と近接戦闘術の師匠は、その伯父が最初にスカウトしたメンバー。

 父方の親類達と母方の大叔母が、その組織ネットワークを支援するシステムを生み出した。

 つまり、私は、「御当地ヒーロー」「正義の味方」の文化にどっぷりと漬かって育った。

 なので、私達とやってる事は似ていても、文化が違う「NEO TOKYO」の「自警団」達が、顔も隠さず、頭部・目・呼吸器などを保護する為の防具も付けていない事に関しては……イマイチ理解出来ない。

 だが、関口は、今、私が渡した防護ゴーグルと簡易式の防毒マスクを付けている。しかも、ゴーグルはミラーグラスタイプのヤツだ。

 顔を隠すのは、頭部の防御や正体を隠す以外にも、多くの利点が有る。主に近接戦闘においては。

 例えば、表情や視線の向きは、戦っている相手に多くの情報を与えてしまう。それを隠すだけでもメリットは大きい。

 だが……。

 関口は何かを気にしているようだが……防護ゴーグルと簡易式の防毒マスクのせいで、視線の向きや表情が判らない。

「まあ、いい。とっととケリを付けるぞ」

「お……おい、待て……」

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