4、こんな形で婚約破棄されるなんて
クラークとの結婚がすっかり絶望的な状況になってしまい、マーシアは鬱々とした日々を過ごしていた。
そんなある日マーシアは衝撃的なものを見てしまう。
マーシアのスマフォの通知音が鳴り、ディスプレイに目をやると、
「『
とお知らせが表示されていた。
マーシアはさっそくクラークのチャンネルを開く。
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いつもながらの、ピンクのハートが画面を飛び交う、けばけばしいオープニングが始まる。
今日のクラークの服装は、縦ロールの金髪に噴水のような形のレースがついた、ピンクのヘッドドレス。
ワンピースはピンクのギンガムチェックにパフスリーブ。
エプロンは純白でフリフリ。
クラークはぶりっこポーズをとりながら、ハイテンションで挨拶をする。
「皆さーん! 今日は重大なご報告がありまーす!! ボクちゃんついに結婚することになりましたー!!」
クラークの隣にレインボーカラーの髪をツインテールにした、二十代半ばぐらいの若い女性が現れた。
全身蛍光色のファッションと、大きなお腹の組み合わせが、なんともシュールだ。
マーシアは彼女の顔立ちを見て驚愕した。
というのは彼女はマーシアの従妹で、寄宿学校の後輩である伯爵令嬢ピア・アーリングス、だったからだ。
確かにピアもクラークと同じ国に留学中とは聞いていたけれど……
「こんにちうぁ!! あたしもうじきクラークたんの奥さんになるピアたんどえーす!
お仕事はWoooチューバーで、詩人で絵師でWeb作家で、ネットアイドルで、ゲーム実況者どえーす。
今わたしのぽんぽんに、クラたんのベビたんがいるんだぁあ!!」
とお腹を両手で指し示した。
マーシアの知る限り、ピアはファッションと男の子にしか興味がない、軽い女の子だったが、こんなはじけたキャラではなかった。
Woooチューバー としてキャラをつくっているのだろうか?
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「まず僕ちゃんとピアちゃんの馴れ初めについてお話ししまーす!!」
クラークによれば、彼とピアは、半年前にWoooチューバーのパーティーで出会い、すっかり意気投合し、旅行に行ったそうだ。
旅行の後は、しばらくは音信不通だったが、ひと月前に久しぶりにクラークがピアと会ったら、ピアは大きなお腹を抱えていた。
逆算してみると、どう考えてもクラークの子供。
そこでクラークは男として責任をとるために結婚することにしたらしい。
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「これが結婚指輪でーす!!」
二人は息の合ったリズムで、左手を画面の前に突き出した。
クラークの男らしくごつごつした薬指、ピアのほっそりとした白い薬指には、お揃いの指輪がはめられていた。
屋台で買った子供のおもちゃのような、プラスティック製のどでかいやつだ。
原価はものすごく安そうだが、有名デザイナーの手によるもので、なんとお値段はかつてクラークがもらっていた王族としての年金一年ぶんらしい。
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コメント欄がすごいことになっている。
「クラーク、おめでとう!!」
「クラーク、男らしいよ!! せきにん取るってなかなかできないことだと思う。惚れ直した!」
「クラークとピアさん超お似合い!! 二人とも可愛い!! お幸せに~」
「ピアさん顔小さすぎ! ウエディングドレス姿見たい」
「クラーク、俺の嫁になるんじゃなかったのかよー(TT)」
などなど15分ぐらい前にアップされた動画なのに、祝福のコメントがすでに1万件。
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マーシアは「コメント」という文字の右の、グレーのフォームに、フリック入力で文字を打ち込んだ。
マーシアがクラークの動画にコメントするのは初めてだった。
クラークの動画については彼から聞いていたから、開設されてすぐに、マーシアはチャンネル登録した。
けれどもあまりにも自分の住む世界からかけ離れた内容に、何もコメントすることができなかったのだ。
その後も新しい動画がアップされるたびに必ず見て、何度も見返していたけど、自分がコメントするのは場違いのような気がして結局できなかった。
マーシアは覚悟を決めて文字を打つ。
「クラーク様、私との婚約はどうなりましたの?」
そして送信。
2日後の朝、マーシアが起きがけにスマフォを開くと、クラークから返事が来ていた。
「ごめんマーシア、婚約破棄させてくれ」
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