第21話 月蝶花1

 宿屋に戻ると、ヒナは俺とは別の個室を借りた。これまでヒナが貯めたお金をボスからもらっていたので、しばらくの宿代は持っていたのだ。


「……お、俺の部屋に泊まったらいいのに。ほら、お金も節約できるし」


「わはー。気持ちは嬉しいですが、だめなのですー。自分の寝る場所は自分で確保しないとなのですー。それに、カガミュートおにーさんにこれ以上の迷惑はかけられないですー」


(……全然迷惑じゃないのだが?)

(むしろウェルカムなのだが?)

(……まあ、ゆっくり仲を深めていこう。)


 ヒナと一緒にご飯を食べた後、俺の部屋で作戦会議をした。その結果、明日は武器屋に行ってヒナの防具と短刀を購入し、それから冒険者ギルドに行って冒険者登録をすることになった。


 ヒナが自分の部屋に戻った後、俺はさっきまでヒナが座っていたベッドに顔を埋めて鼻から深く息を吸う。


(……ここに、ついさっきまでヒナのお尻があったのだ。)


 ベッドの中に敷き詰められた藁の臭いがほとんどであったが、かすかにヒナの甘い匂いが残留しているような気がした。俺はトリュフを探す豚のようにヒナの匂いを辿りながらシコる。


「…………うっ」


 果てた俺はもうじきヒナとイチャラブ○ックスできるという確信とともに、幸福感に包まれて寝た。


◇ ◇ ◇


 翌日、ヒナと一緒に武器屋へと足を運ぶ。


 俺は冒険者の先輩としてヒナに高い装備を買い与えようとしたが、ヒナはそれを固辞した。


「もー、そんなに私を甘やかしたら駄目なのですー。これまで娼館で貯めたお金でやりくりするですよー。わはー」


 ヒナはそう言っていた。


 装備を整えた後、俺たちは冒険者ギルドに行き、シンディにヒナを紹介して、冒険者の仮登録をした。


「ヒナ、ですね。はい、こちらが冒険者証の仮登録証ですよ」


「わ、わ、わはー! ありがとーです!」


「それにしても、カカカガカガミュートさんのご紹介だなんて、将来有望ですね」


「えへへ、がんばるですー!」


 ヒナはそのまま常設依頼の薬草採集依頼を受ける。俺はスキップしてしまったが、このような常設依頼を3回受ければ正式に冒険者登録されるからだ。


「もー、カガミュートおにーさん。私一人で大丈夫なのですよー」


「大丈夫、俺は何もしないよ。一人で全部やってみるんだ」


「そうするですー! 自分でお金を稼ぐですー。わはー」


 そう言ってヒナは手際良く薬草を集めていった。プロエス草を集めたりしていたヒナにとっては、このくらい朝飯前なのかもしれない。だが、前みたいに山賊に襲われるかもしれないし、またビッグスネークが現れるかもしれない。そんな時は俺が守ってやるのだ。


 ヒナはまだ討伐系の常駐依頼を避け、採集や雑用の常駐依頼を一日につき一つずつ、着実にこなしていった。


 3つ目の常駐依頼は、夜にだけ咲く花、月蝶華げっちょうかの採取だった。シンディ曰く、ある病気の薬になるらしい。


 夜中俺とヒナは都市シロツメの外に行き、森の中を一緒に歩き回って月蝶花を探した。まるでデートのようだ思って俺は半分浮かれていたが、気を抜いてはいけない。夜の森には魔物が出るからだ。


 月蝶花を探す間、俺たちは一度猪型の魔物と遭遇した。ヒナは隠れてやり過ごそうと弱気であったが、俺はそいつを一刀両断して経験値に変えてやった。カッコいいところをみせようと張り切りすぎたかもしれない。


 そうして無事月蝶花を見つけ、周りの土ごと皮袋に移したあと、一旦宿に戻る。さすがにこんな時間では冒険者ギルドも空いておらず、明日成功報告に行くのだ。俺たちはヒナの部屋でこれからの作戦会議をする。


「この月蝶花採集で常設依頼も3つ目だな。これで明日にはヒナも正式な冒険者だ」


「はいですー! 夢が叶うのですー! まだまだ冒険者さんとしては始まったばかりですが、これからいっぱいいっぱい頑張るですー!」


(ヒナが幸せそうでよかった。)

(俺がこの笑顔を守るのだ。)

(そして、ゆくゆくはイチャラブ○ックスを……ぐふふ)


 ヒナは棚の上に置かれた月蝶花を眺めながら言う。


「わはー。私、月蝶花好きなんですー」


「へぇ、なんで?」


 (夜にだけ咲く花……娼婦だった自分と重なる……とかか?)


「ボスが言ってたですが、月蝶花は自家受粉?するお花だそうですー。よく分かんなかったですが、このお花は雄と雌がなくて、このお花だけで子供をつくれるんだそうですー。自立してて、かっこいいですー」


「へぇ」


(自家発電なら俺も腐るほどやってるけどな。子供はできないけど。)


「あ、そうだ、ヒナ。パーティー名は何がいい? 記念すべき俺たちの初依頼は何を受けようか?」


「……パーティー、名? 私と、カガミュートおにーさんでパーティーを組むですか?」


「……うん? そうだろ?」


「そ、そ、そんなっ! 私と同じパーティーなんて絶対私が足を引っ張るですー! だ、だめなのですー!」


「いいよ、そんなこと。俺は気にしない」


「私は気にするですー! それに、カガミュートおにーさんの今いるパーティーさんはどうするですかー!?」


「まあ、それは後で話をするさ」


「えぇー! と、とにかく、駄目なのですー!」


「えっ……だからなんで?」

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