汗をかいて、息を吐いて
夏の強い日差しに照らされながら私達は彼の部屋を目指して歩いていた。時刻は、11時手前。本日はお盆休みに入り初めての金曜日、夫と娘が家でゴロゴロしてばかりでどこかに遊びに行くこともなく、退屈に感じられたので自由が利く金曜日に彼と遊ぶことにした。お盆休みで、教室は休みであるため1日遊び放題であった。
「ねえ、あなたの部屋冷房着けてある?」
「あ、忘れた」
「こんな日に点けてないって、帰ったらサウナよ」
「いいじゃん、俺汗かいてる女の人好きよ」
「私は嫌なの」
彼の家へ向かう途中いつもの静かな夜と違い、賑やかな印象を覚えた。
「ねえ、お昼どうする?」
「どっか寄ってく?」
「うん。あそこのエスニック料理が気になって」
私が指さした先には店内だけでなく、テラスのある店となっていてこじゃれていながらも独特の懐かしさを連想させる店構えであった。
「こういうところに行くんだ」
「たまによ、いつもはファミレス」
「あの、ドラえもんのとこ?」
「今はドラえもんじゃなくて、ラスカルなの」
「どっちでもいいけど」
そうこう言いながらも、私達は店に入り席を確保しようとした。しかし、この店は席に座って店員を呼ぶシステムではなく、先にカウンターで注文し取ってから行くというところだった。私達はガパオライスとひき肉のサラダを選んだ。
「テラスにしない?」
彼はそう言いながら私の分もお会計を払ってくれた。
「テラスで食べるって、あなたもお洒落ね」
「こんなきれいな女性と食べてんだぞって、自慢したいんだよ」
そう言われると悪い気はしないものだ。
「日差しも強いのにテラスだなんて、焼けちゃうわ」
「日焼け止めぬってるでしょ?」
「今日は塗ってないの」
それを聞いた瞬間彼は少し考える表情をした。
「それって、良いの?」
「良いわよ」
それから少し沈黙の空気が流れた。ガパオライスの味はとてもスパイスが利いていて、辛いというよりは爽やかな印象を感じられた。
「帰ろうか」
「ええ」
私達は食べたお皿を返すと足早に彼の家に帰宅した。
帰路の中私は滝のような汗をかきながら彼の部屋にたどり着いた。鍵を開け中に入ってみると部屋の中は想像通りにサウナ状態であった。私達は部屋の中に入ると動物が相手を求める世にお互いの体をむさぼりあった。蒸されていて、息が苦しく暑さに負けて頭がくらくらとする中、私達は自分たちの愛を体をもって表現しあった。そんんなさなか、彼は私の薬指についていた指輪をゆっくりと外した。私は少しの抵抗を覚えたが、なされるままに従った。時間が競るように過ぎて行った。私たちが果てるときに、指輪の光が淡くきらめいて見えた。
二人でシャワーを浴びながら、部屋が冷房で冷えるまでの時間をつぶした。
「愛子って化粧外してもあんまし変わらないね」
「そう、嬉しいこと言うじゃない」
「今のおばさん臭いよ」
「そんなことないわよ、あなたと年もそう変わらないのよ」
「歳は体じゃなくて、心からとるんだよ」
「む」
成程、何も言うことができない。こういうところで私の母親らしいところが出ているのかもしれない。
「あ!」
「どうしたの?」
「指輪がない」
先程外した指輪が指についていなかった。私は急に圧迫感を感じ始めた。指輪を失くしたら夫にどうごまかそうか、夫はどういう風に感じるだろうか、私は急に不安に陥った。
「いいじゃん、指輪くらい」
「良くないわよ、夫になんて説明するのよ」
「気づかないよどうせ」
「そうかしら」
私がしおらしくなったからか、
「机の上に置いてあったよ」
「そう」
「意外と夫のこと好きなんだね」
「そういうわけじゃないけど…」
「なんか俺ショックだわ」
「そうじゃなくて、夫に失くしたことが知られたら彼束縛系だから、あなたと会えなくなっちゃうのよ」
「そういうこと、ならいいや」
私は湯舟を見つめながら一抹の不安を浮かべた。
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