第130話 side 俺③

エルクが学院に入ってから、俺は暇を持て余していた。

どうでもいいスキルを創るのに魔力を注いでいるくらいにはやることがない。


エルクには色々とイベントごとがあるが、俺には直接関係ないからだ。


エルクがやり過ぎて、誰かを殺めたりしないようにと気をつけてはいるが、そもそもエルクが訓練で対人相手に魔法を使うことは無い。


あの学院長がサウスという教官にそうするように指示を出しているのが原因だろう。


学院長はコソコソと何かを策略しているようだが、エルクを利用する気はあっても、実害を出す様子はなさそうなので今は放っておいてやっている。


千里眼と空間魔法、盗聴のスキルを駆使して監視はさせてもらってはいるので、問題はないだろう。


俺の知れる範囲で理から外れたようなヤバい存在が2人いる。

1人は学院長でもう1人がリュートという奴だ。


学院長に関しては名前が複数あること以外は、魔力量とスキル数がやたら多いというだけだが、リュートの方は存在自体がヤバい。

ああいうのには関わらない方がいい。


学院長と違い、エルクがリュートと関わることはないと思っていたが、ある日エルクが自らそっちに向かおうとするので、俺は全力で阻止することにした。


エルクは新しく見つかったスマスラ遺跡の調査に向かうつもりのようだが、スマスラ遺跡の奥にはダンジョンの入り口が隠されている。

そのダンジョンの奥にリュートがいるわけだが、マップのスキルもあることだし、エルクはダンジョンが隠されていれば気付くだろう。

そうなると、リュートと接触する可能性がある。


あんな面倒事の塊のような奴とは会わないに越した事はない。


俺はエルクが乗る馬車を間違えるように念を送ることで、リュートと会わないように仕向ける。

クラリスというギルド職員からエルクが受け取ったメモには、馬車でサボン村まで行くように書かれているが、俺はずっとエボン村まで行く、エボン村まで行くと念を送り続けた。


エボン村に行かせようとした理由もある。

ついでではあるが、エルクに人助けをさせようとした。


スレーラ領に向かう道中に盗賊のような集団がいて、スレーラ領行きの馬車には、名前からしてエルクの友達のダイスとかいう王子の妹が乗っている。

なんでこんな乗り合い馬車に王女が乗ってるか知らないが、王族に恩を売っておいて損はないだろう。

エルクの友達の妹でもあるしな。


エルクは俺の思惑通り乗る馬車を間違えて、サボン村ではなくエボン村へと向かっていった。


途中、予想通り盗賊に馬車が襲われたが、エルクには自衛の為とはいえ人を殺めてほしくないので、護衛のサポートをしてから隠れているように念を送る。

あの程度の賊ならシールドを破れはしないだろう。


無事エボン村に到着したエルクは、エボン村近くでダンジョンを見つけたけど、スマスラ遺跡の奥にあるものとは違い普通のダンジョンなので、それはどうでもいい。


帰りも王子の妹と同じ馬車になるように仕向けた後、助けさせる。


帰りに関しては助けなくてもローガンという男がなんとかしたと思うが、死人が出ないに越したことは無いだろう。


その後もエルクの行動を基本的には傍観者として眺めながらも、必要な時には手助けをして日々を過ごしていく。


それにしても、王子と連んでいるからか、そういう星の下に生まれたのか知らないが、エルクはちょくちょく面倒事に巻き込まれる。


鈍感なエルクの代わりに周りを警戒している俺の身にもなってほしい。


そうこうしている内に、俺のエルクに対する感情が変化してきた。


初めは俺の記憶を持っているだけの他人という認識で、一心同体だったから世話を焼いてやっただけだったが、なんだか我が子のような愛着が湧いてきた。


俺がエルクの中に閉じ込められる前はどんな子供だったのか気になった俺は、エルクの過去を調べることにする。


俺のスキルが外の世界に影響を及ぼさないとしても、俺とエルクは繋がっている。

エルクの記憶を覗くのはそこまで難しいことではなかった。


エルクが生まれてから、俺の記憶を植え付けられるまでの間は普通の子供だった。

特に変わった様子はない。


姉のエレナの後ろをちょこちょこと付いて回っている、どこにでもいるような子供である。


食べるものが少なく、常に飢えていたということ以外にはおかしなところはなかった。


アルバムを見ているような感覚になっただけだったなと思い、記憶を覗くのを止めようかと思った時に、厳重にロックされている記憶がある事に気づく。


見ようとしても、見ることが出来ない。


俺はロックを解除するべく、新たにスキルを創造することにする。

他の記憶は精神干渉のスキルを使うだけで簡単に見ることが出来たが、他に色々とスキルを創ってもロックされた記憶を見ることは出来なかった。


ここまでくると、エルクがこの記憶を思い出したくないから、記憶の奥底に眠らせた結果、ロックされて見ることが出来ないなんてことは考えにくい。


見ることが出来ない記憶は、俺がこの体に閉じ込められる寸前の記憶だ。

何か俺に見られたらまずい何かがあるとしか思えない。


俺はエルクの記憶のロックを外すのを一旦諦めてアプローチの仕方を変える。


俺は魔力をガッツリと使って、過去視という過去を視るスキルを創った。


千里眼と過去視のスキルを同時に使い、俺がこの体に閉じ込められる前の日にエルクに何があったのか村の様子を見る。


村の様子におかしなところはない。

ただ、エルクの様子はおかしい。

目が虚だ。


俺はもう少し先を視る。


エルクは夕食である大根のような物を口に入れた後、吐き出していた。スープも同様に口に入れても咳込み戻してしまう。


母親がエルクの背中をさすりながらゆっくりと水を飲ませて布団に寝かせる。


病気か?いや、栄養が足りていないのだろう。

エルクの顔は青白くなっており、今にも死にそうだ。


さらに先を視る。


エルクの顔色は赤く火照っており、さっきまでと違い死にそうな気配はない。


何があった?


俺は少しずつ前に戻して、変化しているタイミングを見つける。


そして俺は驚く。


エルクは死んでいる。明らかに息をしておらず、ピクリとも動かない。


しかし、少ししてエルクは息を吹き返した。

そういうこともあるのかもしれないが、今回は明らかに異常だ。

息を吹き返した瞬間から明らかに顔色が良くなっている。

劇的に変化し過ぎだ。


近くに俺くらいのレベルの治癒士がいるならこのくらい変化してもおかしくはないが、近くにそんな存在がいるようには見えない。


状況からして、この時に俺がこの体に閉じ込められたのだろう。


ただ、過去視ではそこで何があったかを客観的に視ることが出来るだけだ。

エルクの体に何が起きたのかまでは分からない。


何かが起きて、エルクは生き返った。

それしかわからない。


魂を抜かれて死んだというならまだわかるが、死んだ人間に俺という魂を閉じ込めたところで生き返るとは思えない。

何か他にもあの体に細工がされたとしか思えない。


何があったのか知るには、やはりあのロックされた記憶をどうにかして見るしか無さそうだ。

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