第103話 水のバリア
学院長が部屋に戻り、訓練場にお姉ちゃんと2人きりになった。
僕は確認の意味も込めてお姉ちゃんに頼み事をする
「さっき学院長が言っていた、水のバリアがどのくらいなのか教えて」
学院長に突破出来ないと言われた水のバリアのスゴさを、僕は知りたかった。
「しょうがないなぁ」
お姉ちゃんはそう言いつつも、結構ノリノリである
お姉ちゃんには訓練用の的を水のバリアで守ってもらう。
本気のやつをお願いした。
的の周囲を丸く薄い膜が張っているように見える。
僕は近づいて見てみる
膜は3重になっているようだ。
もしかしたら見えないだけでもっと重なっているのかもしれない。
じっと見ていると、僕は驚くことに気づいた。
「お姉ちゃん、この水すごく高速で動いてない?」
目を凝らして見ないと気づかないくらいに、高速に水が回転している
「よく気づいたわね。今は危なくないように、もう一枚外側にバリアを張っているけど、通常は張ってないからね。剣でバリアを斬ろうなんてしたら、剣の方が無くなるわよ」
ウォーターカッターのようになっているようだ。
迂闊に近づいて触ろうものなら手が無くなるのか。
「ちょっと試していい?」
僕は剣を創りだして、確認する
「いいけど、気を付けてね」
お姉ちゃんはそう言って外側のバリアを消した
僕は自分にシールドと身体強化を掛けてから剣を振るう。
剣はバリアに当たった瞬間に弾かれて飛んでいった。
飛んでいった剣を拾って見てみると、当たったであろう場所が無惨にも大きく抉れていた。
この剣は結構な強度があったはずなのに……
かわいい顔してやってることが凶悪すぎるよ、お姉ちゃん。
「ありがとう。後、他の魔法で壊せないか試させてね」
外側のバリアを張り直してもらって3重にしてもらってから、土魔法で貫通させようとしたり、火魔法で蒸発させようとしてみたけど無理だった。
外側の1枚さえ壊せない。
「うん、よくわかったよ。これは無理だね」
僕は現状で打開する手立てがない事を思い知った。
「スゴいでしょ?」
「うん、スゴいよ。全然歯が立たないよ」
僕が降参したのでお姉ちゃんはバリアを消した。
これを突破するのは難題だ。
そもそも、僕がこれから創造に魔力を貯めるのを諦めて、熟練度を上げていったとしても、お姉ちゃんも熟練度を上げ続けているので追いつく事はない。
失うものが大きいのに、勝算が高い案にはならないのはいただけない。
対抗出来る新たなスキルを考えて創造する方が可能性が高い気がする。
正直にいえば、対抗戦のルール上では、今でも勝てる可能性はある。
少しというか、だいぶズルいけど、お姉ちゃんが水のバリアを張る前に、ストックしておいた魔法を使えばバリアとか熟練度とか関係なく攻撃を当てる事が出来るはずだ。
魔力を溜める時間がこちらはほぼ無いに等しいのだから。
だけどそれで勝ったとしても、なんだか負けた気がするので出来れば使いたく無い。対抗法が思いつかなかった時の最終手段として考えておこう。
というか、この方法を使った上でもし負けてしまったら、もう立ち直れない気がする。
そして、ストックの存在を知っているお姉ちゃんは、何かしらの対策をしてきそうで怖い。
「ありがとう、お姉ちゃんと対戦することになる前には何か破る方法を考えておくね」
「楽しみにしてるわ」
お姉ちゃんは余裕の表情で答えた。
訓練場を出て、お姉ちゃんは高等部の寮へと帰っていった。
寮に帰った僕は、お姉ちゃんのバリアに対抗出来るスキルに当てがあるわけでもないので、創造に魔力を溜めてから寝ることにした。
急がなくても、どこかのタイミングで何か思いつくだろう。
翌日、ダイスくんとラクネに僕も個人戦に参加する事を伝えようと思ったけど、ダイスくんは学院を休んでいた。
体調を崩してしまったらしい。
ラクネには伝えて、放課後に僕はダイスくんの部屋を訪ねた。
部屋をノックしたけど、返事が無い。
もしかしたら外出しているだけかもしれないけど、体調を崩して休んでいると聞いているので心配だ。
僕は寮の管理人さんに事情を説明して部屋を開けてもらうことにした。
勝手に開ける前にもう一度ノックしたけど、やっぱり返事はないので管理人さんが部屋を開ける。
中に入るとダイスくんが倒れていた。
「大丈夫!?」
僕は駆け寄って声を掛ける。
体を揺すっても起きないけど、息はしているし外傷があるわけではない。気絶しているだけのようだ。
ただ、顔色は青く良くない。
何があったのかと思ったけど、昨日のダイスくんとの会話を思い出した。
僕はアイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出してダイスくんの口に突っ込んだ。
「ゲホッケホ。かはっ、はぁ、はぁ」
ダイスくんが咳き込みながら起き上がった
「良かった、目を覚ましたね。大丈夫?」
「…………!エルク、俺を殺す気か?」
ダイスくんは状況がよくわからないまま、周りを見て空き瓶を見て僕に言った
「違うよ。魔力が切れて気絶してたから回復させたんだよ。顔色も悪かったし。本当はお姉ちゃんみたいに回復魔法で魔力を回復できればいいんだけど、僕は出来ないから……」
僕の回復魔法では怪我を治す事は出来ても、魔力を回復させることは出来ない。
僕の力不足ではなく、お姉ちゃんの回復魔法の使い方が異常なのだ。
「回復させようとしてくれたのはありがたいが、気絶している人間の口に液体を流し込むな。窒息して死んでもおかしくないぞ。その前に起きたから良かったが……」
「ごめん…」
ダイスくんの言う通りだ。焦って突っ込んでしまったけど、起きなかったらダイスくんを殺してしまっていたかもしれない。
「私は戻ってもいいかな?」
放置してしまっていた管理人さんに聞かれる
「あ、はい。ありがとうございました」
管理人さんは戻っていった
「それで、なにか用か?」
水を飲んで口直しをしてからダイスくんが聞く
「体調を崩してるって聞いたからお見舞いに来たんだよ。ノックしても返事が無いから、管理人さんに開けてもらったんだ」
「そうか、ありがとな」
「昨日言ってた事を試して気絶してたってことだよね?魔力回復ポーションをあげたのに、なんで使わないの?」
ダイスくんの机の上には昨日渡した魔力回復ポーションが中身の入ったまま置いてある
「いや、気絶しているのにどうやって飲むんだよ。エルクは辛さを感じないって言ってたから、気絶もしないのか?」
自分がそうしてたから、うっかりしていた。魔力回復ポーションが手元にあっても意味がないね。
「辛くはなかったけど、気絶はしていたよ。今はしなくなったけど……」
「何か気絶しない方法があるのか?」
「気絶耐性ってスキルがあるんだよ。だから僕は気絶しなくなったよ」
「……繰り返し気絶していれば獲得出来るのか?……いや、その前に精神がやられる気がするな」
剣術スキルと同じ考え方をすれば獲得できる可能性はある。でもダイスくんの言う通り、その可能性にかけてやり続けるのは厳しすぎる。悟りでも開かない限りは、おかしくなっても仕方ない。
「とりあえず、何か方法を見つけるまではやめておいた方がいいよ。無理はしないで」
創造スキルが使えるようになってすぐの時のことを思い出す。
お姉ちゃんに気絶するのは心配だからやめるように言われたな。その時のお姉ちゃんの気持ちがよくわかる。
知らなかったとは言え、やめないどころかお姉ちゃんにも気絶するまで使う方が良いと勧めた僕は、ヒドいことをしたなと思う。
お姉ちゃんが回復魔法を使うことで、辛くならなくなったというのは結果論なのだから。
「ああ、そうするよ」
「何かいい方法がわかって、試す時は呼んでね。1人だと何かあっても助けてもらえないからね」
「ありがとな」
「ああ、そうだ。元気だから忘れてたけど、お見舞いを用意してきたんだった。はい」
僕はダイスくんにゼリーを渡す
「悪いな。それでこれはなんだ?」
ゼリーは無いのかな?
「果物の果汁を固めたお菓子だよ。美味しいから食べてみて」
渡したゼリーはリンゴ味だ。
「美味いな。不思議な食感だけど、スッキリしていて美味い」
「気に入ってくれて良かったよ。元気になってるし、自分の部屋に戻るね」
「心配かけて悪かった。また明日な!」
僕は部屋に戻ってから、ダイスくんに個人戦のことをまだ言ってない事を思い出した。
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