第77話 酒場

やってきた男性は前回の遺跡調査の依頼の時、帰りの馬車を護衛してくれていたパーティのリーダーだった人だ。


「おう、坊主。遺跡調査の人員が見つかったって聞いて来てみたら坊主だったとはな」


「あの時はお世話になりました。エルクです」


「エルクだな。俺はローガンだ。よろしくな」


「ローガンさん。申し訳ないのですが、色々と状況が変わりましてご相談させてください」

受付のお姉さんがローガンさんに経緯を説明していく


「仲間に聞いてみないとわからんな。依頼は受けてないはずだが……。受けることになれば、人数が増える分には問題ないから2人とも連れて行くわ。どこまで出来るのか知らないからな」


ローガンさんは僕もシズネさんも2人とも依頼に連れて行くと言った。


「聞いてくるから待っててくれ」

そう言ってローガンさんはギルドから出て行った。


しばらくしてから戻ってきて、「問題なかったから明日の朝出発な」と言った


こちらの意見は聞かずに確定したようだ。

まあ、この人には命も助けられてるし魔物に襲われても守ってくれるだろう


「うん、わかったよ」

僕は了承してしまった


すでに昼をとっくに過ぎていたので、観光は諦めて温泉の情報を探しに行こう。

そう思っていたら、ローガンさんに拉致された。シズネさんも一緒だ。


有無を言わさずに連れてかれたのは酒場だった。

あの時にいたパーティメンバーの4人がいる


「明日から臨時でもパーティを組むんだ。親睦を深めるぞ!」

ローガンさんは酒を注文する


僕は店員さんにジュースに変えてもらうように言った。

言わなくても出すつもりはなかったようで安心する


改めて紹介をする


「お久しぶりです。あの時は命懸けで助けていただきありがとうございました。エルクです」


「シズネです。この度はご迷惑をお掛けしました」


「俺はクリストだ。よろしくな」


「ネイサン」


「ルーベルだ。あの時は怪我を治してもらってありがとな!」


「私はブレインです。リーダーはローガンですが、作戦指揮は私が執ります」


「ブレインは硬っ苦しいな。今はもっと気軽に挨拶出来ねぇのかよ」

ローガンさんはブレインさんの首に腕を回しながら言った。

まだそんなに飲んでないはずなのにもう酔っ払っているのだろうか?


「ローガンさんはもう酔っ払っているんですか?」

僕はルーベルさんに聞く


「ローガンは飲んでませんよ。あれはジュースです」


「え?」


「ローガンはお酒を飲まないのです。酒よりもジュースの方が美味いからだそうですよ」

勝手に酒を注文しておいて自分はジュースを飲んでいたらしい


「そういえば坊主、ダンジョンを見つけたのは坊主なんだろ?」

名前を教えたのに坊主呼びは変わらないらしい


「な、なんのことですか?」

僕はとぼけてみる


「いや、バレてるから。あの時に気づかなかった俺もどうかしてた。あそこに遺跡はないからな」


ローガンさんが気づいてくれていれば馬車の中でずっと悩む必要はなかったのか……

しっかりしてよ、ローガンさん。……すべて僕が悪いんですけどね


「旦那が探してたぜ?」


「旦那?」


「ダステンの旦那だ」

当然のように言われても知らないよ


「誰ですか?」


「……ここの領主だよ。坊主の歳だとこれから習うのか?」

多分習わずに飛び越した所だね


ここの領主ってことはダイスくんの叔父さんか……

ダイスくんも言ってたし恩賞の件で探してたってことかな


「その件はもう済んでるので大丈夫です」


「ん、そうなのか?ならいいか」

ローガンさんは納得したようだ


「ダンジョンを見つけたとか、領主様が探してたとかなんの話?」

1人蚊帳の外のシズネさんが聞く


「ああそれはな、この坊主が…「ローガンさん、秘密にしましょう。あの件は匿名ってことになってるんです」」

僕はローガンさんに口を閉じてもらう


「そ、そうか。なら俺からは言わねぇから、知りたいなら本人を説得しな」

わかってくれたようで良かった


「エルクくん、私には教えてくれないの?みんな知ってるみたいなのに私だけ仲間外れなの?」


「ごめんね、これは秘密なんだよ」

シズネさんに聞かれるけど、僕は答えない。

秘密は知ってる人が1人でも少ない方がいいからだ


「無理には聞かないけど、いつか教えてね」


「いつかね……シズネさんはどうやってトラップを見つけてるの?」

僕は話を変えることにする

僕と同じスキルでも持ってるのかな?


「視力強化の魔法が使えるんだけど、掛けると見逃しそうな違和感にも気づくことが出来るくらいに目が良くなるんだよ」

そんなスキルを持ってるのに、なんでエンゼルナイツの面々の本性は見えていなかったのだろうか


「解除はどうしてるの?」


「基本は避けるわよ。解除が必要な場合は自分の知識と腕の勝負よ。エルクくんは?」


「…スキルでトラップを見つけるんだよ。解除もスキル頼みかな」


「……そっか、明日は慎重に進みましょうね」


「うん」

スキルが絶対ではないからね


僕の罠感知とシズネさんの視力強化の2つのスキルで確認しながら進めばより安全に進めるね


「聞いてなかったけど、魔物って何が棲みついてるの?」

僕は大事な事を聞いてなかった


「オークよ。いつの間にかオークが遺跡を占拠していたの」


オークか……ドラゴンとかヤバそうな魔物じゃなくて良かった


リーダーの人の強さが尋常でないことは前に見ているので、相手がオークなら安心だ。


「ローガンさん、僕は戦闘は自信がないのでお願いしますね」


「おう、戦闘は任せて2人はトラップに集中してくれればいいからな!」


「はい、期待してます」


僕達は明日の事を話したり、どうでもいい笑い話をしたりして親睦を深めた。


支払いのときになってやっと気づいたが、酒場にいるのに誰も酒を飲んではいなかった。


あれ?酒を注文してたよね?

そう思って聞いたら、明日遺跡で戦闘するのに飲むわけないだろと言われた。


そういうものなのか


冒険者のおじさん達は依頼中でも飲んでるくらいのイメージだったよ

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