第74話 side ダイス③

父上から功績を挙げるように言われた俺は悩んでいた。


勇者の装備を献上しても良いのではないかと……。


しかし、なるべくなら自分の手で功績を挙げたい。あの装備は俺だけの功績ではない。


だからといって功績を挙げろと言われたところで、簡単に挙げれるものではない。


時間は限られているので、最終手段として考えておくことにする。装備に関しては俺の好きにしていいと言われた訳だしな。


悩んだところで機会がないと功績は挙げられないので、俺はリリスの事を考えることにする。


エルクのおかげでムスビド家との婚約の話は流れた。

政略結婚は仕方ないと思うが、その中でもリリスに相手を選ばせてやりたいと思う。

その為にはリリスの価値を上げる必要がある


あれから、付与魔法について調べてはいるがわからなかった。聞いたことのないスキルだったが、学院長に聞いてもわからないとは思わなかった。


リリスも発動しようと試してはいるらしいけど、何も反応しないらしい。


学期末の試験が近づいてきた。

座学と実技である。


実技の試験はチームでやることになっているので、ラクネとエルクに確認をしに行ったらエルクの座学が壊滅的な事を知った。

よく考えれば村から出てきて初等部にも通ってないのだから当たり前か……


何故か算術だけいつのまにか出来たらしい……天才か?


ラクネと2人でエルクに魔法学を教えることになった。


魔法力を上げる方法について教えている時にエルクが妙な事を言った。


「気絶するまで魔法を使った方がのびると思うんだけどなぁ」

教科書では魔力を使う事で扱える魔力の総量が増加していくとある。早く魔力を増やしたいなら動けなくなるギリギリまで魔力を消費するように、日々心掛けるようにする事が大事とも書いてある。


確かめる方法はないけど、エルクの言っている事が本当なら新発見になる。

しかし、日頃から気絶するまで魔力を使い続けるってどんな拷問だよ。動けなくなるまで使うだけでも魔力欠乏で苦しいっていうのに……


気にはなったが、そんなことよりも試験日は近づいているので勉強を進める。


進めながら、2人にも付与魔法についてなにか知らないか一応聞いてみる。


「2人は付与魔法って知っているか?」


「付与魔法っていうと、剣とかに属性を加える魔法だよね?それがどうしたの?もしかしてダイスくん使えるの?」

エルクは知ってて当然くらいのノリで答えた。


「いや、俺は使えない。獲得したやつが身近にいたけど、使い方がわからないから聞いただけだ。もしかしてエルクは使えるのか?」


「使えないよ」

エルクは使えないらしい。ならなんで知ってるんだ?

魔法学の知識は壊滅的なのに……


「そうか、ありがとな」

後でリリスに教えて試してみてもらおう


放課後、リリスの所に行きエルクから聞いた話を伝える。


訓練用の安い剣も持ってきたので、試してもらうことにする。

なんと魔法が発動した。

色々と試してわかった事は、1つの剣に付けれる属性は1つなことと、火と水属性しか付けれないことだ。

多分、リリスが使える魔法に影響しているのだろう。


俺は火属性を付けた剣で丸太を試し斬りする。


斬った後に丸太から微かに煙がでた。


次に水属性を付けた剣で斬ったら、丸太が少し湿っていた。


これはスゴい。今は大した事ないけど、可能性を秘めている。


俺はリリスに付与魔法のスゴさを説明して、熟練度を上げるように言う。そして付与魔法が使える事は、誰にも言わないように忠告する。


もしかしたら、他にも使える人がいるのかもしれないけど、これは唯一無二の才能だ。

リリスの価値を上げることが出来るかもしれない


俺はその為の準備を進める。


まずは懇意にしている服飾屋にドレスを注文しに行った。

使える金は少ないので、予算の中で仕立ててもらえるように頼む。


すると店主は「姫様に着ていただくのだから、私の今作れる最高の物を作らせてもらう」と言ってくれる


払える金がないと言ったが、これからも当店を贔屓にしてくれればいいと言われた。


元々、王族御用達の店はここだったが、あの件があってから他の店に変わってしまった。使っているのは俺とリリスだけだ。しかも高い買い物はしていない。


何があったかは知らないと思うが、いきなり注文が来なくなり大変だっただろうにまだよくしてくれる。

申し訳なく思いながらも他に当てがない為、頼んで店を出る。


実技試験はいい結果で終わり、もうすぐ長期の休みに入ろうかと言うところで、エルクが女子達に囲まれていた。

話を聞いてみると、皆が羨ましがるほどの石鹸をエルクは作れるらしい。

エルクはどこを目指しているんだ?


俺には違いがよくわからないけど、そんなにいいものなら妹にあげたいとエルクに頼んだら、出所を秘密にする事を条件に貰うことが出来た。


長期の休みに入ってから、エルクとの約束通りリリスには出所を秘密にして石鹸を渡した。


長期の休みに入ってからもリリスの訓練を手伝う。


みんなは今頃フレイの別荘に着いた頃だろうか……


俺は服飾屋に行って、頼んでいたドレスを受け取る。

ドレスを見て驚いた。真っ白なドレスだ


「この色はなんだ?」

俺は店主に思わず聞く


「お気に召しませんでしたか?」

店主に聞かれるがそう言う話ではない


「こんな素晴らしい物を作ってもらって気に入らない訳がないだろう。どうやってこの色に染めたのかを聞いたんだ」


「……私は染めておりませんのでお答えできません」

店主は不思議な事を言う


「どういうことだ?」


「先日ご来店されたお客様がその色の糸を持っていたので、お願いして売って頂いたのです」

こんな色の糸なんて見たことがない。遠方からの旅人だろうか?


「そうか、高かっただろ?追加で払わせてくれ」

部屋にある物を売ればなんとかなるだろうか?


「それは必要ありません。糸をいくらで売っていただけるか聞いたら大銀貨1枚と言われまして……最終的に金貨1枚で売って頂きました。染める必要もなく、装飾しない方が映えるので予定より安く済んだくらいです」

店主は頭を掻きながら言った


「本当か?気を使っていないか?」


「本当です。私も驚いているのですから」

店主が嘘を言っている様子もないし本当のようだ。

他の地域では珍しいものではないのかもしれないな。


「そうか、ありがとう」


俺はドレスをリリスに届けて着てもらう。

そこには天使がいた。


これで準備は整った。


舞踏会の日になる。

いつもなら参加しないが今回は違う。


俺が会場に入るが、誰も近寄ってはこない。

当然だ、この舞踏会を仕切っているのは敵対派閥に属している貴族なのだから……


俺の合図でリリスが会場に入り皆の注目を浴びる。


立場がある為、近寄っては来ないが、贔屓目無しで見てもこの会場にいる女性の中で1番輝いている。


「今回参加させてもらったのは新しいスキルをお披露目する為だ」

俺は皆に聞こえるように話し出す。

今回参加したのは踊りに来たわけではない


俺の合図で使用人が剣と丸太を持ってくる


「誰か手伝ってくれないか?」

俺が不正をしていないと証明する為に、相手に協力を願う


戸惑いながらも1人の男性が近づいてきた。

貴族ではなく使用人だな。


「丸太をその剣で斬ってもらえるか?」


男性が丸太を斬ると一瞬だが火がついた


会場がザワめく


男性が剣を見ている


男性がまた斬りつける。また一瞬だが火がつく


「剣に火属性が加えられた結果です。今は軽く火が出る程度ですが、最初は煙が出るだけでした。訓練で効果が上がるのです。しかもこの魔法が使えるのは剣だけではありません。物に属性を加える魔法です。この魔法がどれだけの可能性を秘めているかは聡明な方であればわかるでしょう」


俺はただスキルを見せにきたわけではない。

これは宣戦布告だ。

勇者の装備の事も一部の貴族には漏れているだろう。

それに加えて未知のスキルだ。


俺に付かなくてもいいのか?そっちにいては後悔することになるぞ?と暗に言っているのである。


この中の少数が味方とは言わずとも、中立にでもなってくれれば御の字だ。


今回、これがリリスのスキルによるものとは言っていないので、俺のスキルだと勘違いしたはずだ。これで、危害を加えるなら俺のところに来るだろう。


リリスを連れてきた意味ももちろんある。

ここにいる者達は、城から出て行った俺達兄妹が自分達の上に立つ事はないと思っていただろう。


そうではないと……本気で上に立つつもりなんだと言うことの表明である。

そして、これだけかわいいのだ。いい相手からも婚約の話が来るかもしれない。リリスが選ぶことも出来るから相手は多いに越したことはないだろう。


今俺に出来る事はもうないので、会場から出ようとするが、一部の貴族がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている事に気づいた。


不気味に思ったが、残ってももうやる事は無いので剣を回収して会場を後にした

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る