第53話 side ダイス②
訓練でダンジョンにエルクとラクネと3人で潜った際に、勇者の物と思われる装備を手に入れた。
宝箱は3つあり、1人1つと決めて開けたのに、エルクもラクネも俺が譲って欲しいと言ったら、躊躇いなく譲ってくれた。感謝しかない。
この恩は必ず返すと心に誓う。
学院長に装備の件を話した所、勇者の装備で間違いないらしい。
勇者の悪行については、小さい頃に少しだけど教えられていた。見つけたら躊躇わずに処刑せよと
一緒に勇者の武具についても聞かされていた。
勇者が自分の力で作った武具で、特殊な力が秘められているらしい。
実際の所はわからないが、剣を振るだけで海が割れるらしい。
意味がわからない。
まあ、やばい武具だということだけは確かのようだ。
俺は装備を学院長に預けることにした。
俺が持っていても使うことはないし、万が一盗まれた場合には国が滅びる可能性まである。
学院長ならば、相当な手練れが複数人で襲ってこないことには大丈夫だろうし、表向きには俺が持っている事にしてもらった。
学院長は危険だと言ったが、そこまで迷惑は掛けれない。
学院長が持っているということを知っているのは俺と学院長だけである。父上にも言わないようにお願いした。
城には学院長から報告してもらうことになった。
夜に大臣が俺を訪ねてきた。
俺は大臣が来たことにイラッとした。いや、悲しかったのかもしれない
要件は勇者の装備を献上するようにとのことだった。
強力すぎる武器は個人で持つべきではないから国で管理するらしい。
当然、俺は断った。
これは、エルクとラクネのおかげで手に入った国と交渉する為の鍵だ。
はいそうですかと簡単に渡す訳にはいかない。
俺は大臣に伝言を頼む。
いくつか頼んだが、一番大事な事はハッキリと言った。
話があるなら自分で来いと。
大臣は帰っていった。
素直に帰ったところを見ると、俺が渡すとは初めから思ってなかったのだろう。
翌日、学院長室に呼ばれた。クソ親父が来たらしい。
俺は何の用か聞く。
当然のように勇者の装備の件だと言われた。
わかってはいたが、何年も会っていなかったのだ。
本題がそっちだったとしても、息子の顔を見にきたくらいのことは言って欲しかった。
妹の様子を聞かれたり、母上の事を聞いたりと、まずはそういった話からしたかった。
そうであれば、俺だってちゃんと装備の件だって話をしたし、話の流れによっては渡したってよかった。
俺は悪態をついて学院長室から出る。
何をやってるんだろうと思ったが、あのまま話をした所で良い結果になったとは思えないので気持ちを切り替えることにする。
翌週、妹のリリスがスレーラ領の屋敷に帰省することになった。理由は聞かされていないが、戻ってくるように言われたらしい。
装備の件もあり危険なので、家紋付きの馬車は使わずに乗り合い馬車で行かせる事にした。
護衛には贔屓にしている冒険者を雇って、御者も身内だ。
表向きは乗り合い馬車なので、他の乗客も乗せないといけないが、少しでも怪しい者は断るように強く言っておく。
1週間程でリリスが帰ってきた。
リリスは驚く事をいくつも言った。
まず、帰省させられた理由だ。婚約の話だった。相手はムスビド伯爵家である。
爵位としては、今のスレーラ家から考えると申し分ないが、ムスビド家からは良い噂は聞かない。
財政が落ちている現状、領民の事を考えると断るのは難しいようだ。
今回は話だけだったが、後日正式に決まるそうだ
婚約を破棄するには金がいる。莫大な金が。
俺は国に勇者の装備を売りつけようかと考えたが、それは一時凌ぎにしかならない。
長期に渡って金を生み出す何かが必要だ。
悪い話は続く。
屋敷への行きと帰り、両方で盗賊に襲われたようだ。
幸いなことに、リリスに怪我はなく安心する。
話を詳しく聞くと、帰りに襲われた時は護衛の冒険者も怪我をしなかったらしい。盗賊は数十人いたらしいが、どうなっているんだ?
怪我がないことに越した事はないが……
行きに襲われた時は護衛が大怪我をしたらしいが、たまたま一緒に乗っていた少年が治したらしい
話はまだ続いた
その少年とは帰りも同じ馬車になったそうだ。
少年は冒険者で遺跡の調査に行っていたらしい。
遺跡で見つけたスキル書をリリスが気づかずに読んでしまったと言う。
しかし、その少年はスキル書と知った上で、要らないから気にしないでいいと言って名前も教えてもらえずに去って行ってしまったと……。スキル書が要らない人間がどこにいるっていうんだ。
スキルが要らないと言っているのと同義だ。どこの聖人だよ。
リリスから少年の特徴を聞く。
心当たりしかない。エルクだ。冒険者の活動を理由に休学してたし間違いない。
エルクはリリスの事を知らないと思う。そうなると、たまたま乗り合わせた女の子にスキル書をあげたってことかよ……。器がでかすぎる
リリスのスキルを確認しに行く。
水晶に映し出されたのは、火魔法と水魔法、それから付与魔法。
付与魔法なんて今までリリスにはなかった。これが増えたスキルだ。
付与魔法ってなんだ?聞いたことがない。
何かをくっつける魔法?
俺が付与魔法について考えていると、叔父からリリスに手紙が届いた。魔法陣を使った速達便だ。
内容はスレーラ領でダンジョンが見つかったから、婚約の件は白紙に戻すとのことだった。
ダンジョンを見つけた者は匿名だと書いてある
色々起きすぎていて頭が追いつかない。
でもなんとなく予想がつく。多分エルクがなにかやったんだ。
リリスの話からエルクがスレーラ領に行ってたのは間違いない。そしてそのタイミングでダンジョンが発見される。
無関係と考える方がおかしい
俺は休み明けにエルクに確認することにした。
エルクはスマスラ遺跡の調査を受けていたと言う。逆方向だ。
俺はスレーラ領でエルクに似た人を見たとカマをかけてみる
エルクはすぐに白状した。行く村を間違えたらしい。
なんの因果かわからないけど、エルクの勘違いでリリスの将来が守られた。
俺はエルクに礼をする。
リリスの事を言おうか迷ったけど、格好つけて?名前も言わずに去っていったのだから恥をかかせるかもしれないと言うのはやめた。
勇者の装備にスキル書、行きの護衛の治療、それから帰りに襲われた時にも多分なにかやっている。
エルクには借りを作りすぎてしまっているな……
いつか返すことが出来るのだろうか心配である。
高等部で模擬戦の見学をしている際に、前から違和感はあったけど今回は明らかにおかしい事に気づいてしまったので、遂に聞くことにした。
エルクのバッグはどうなっているのかと
そしたら、不思議な光景を何度も見せられた結果、アイテムボックスというスキルを持っていると言われた。
なんとも羨ましいスキルだ。俺も欲しい
反省室に入ったり、次元の違う戦いを見せられたりした後、またクソ親父が俺の所にやってきた。
「今度は何しにきたんだ?」
俺は聞く
「まずは、先日の事を謝る。今日はソフィアの件できた」
こいつが頭を下げた事に俺は驚く。
そして、勇者の件ではなく母上の件だと言う事にも驚いた。
「母上がどうしたんですか?」
俺は冷静を装って聞く
「あの後、我は久しぶりにソフィアと話をした。今までずっと目を背けていたが、面と向かって話をしてソフィアが毒を盛ったのではないと悟った。ソフィアが犯人ではない証拠を探しても見つからなかったがな……」
「今更そんな事を言ってどうするんだ?母上を解放するんですか?」
「国王として一度放った言葉を取り消すことは出来ない。そんな事をすれば威厳を失い、国が荒れる」
そんな事はわかっている。
「それを俺に言ってどうするんだ?」
「功績を挙げてくれ。功績を挙げてくれれば我が功績の対価としてソフィアの罪を赦した事に出来る」
「……要するに、母上を助ける為に勇者の装備を献上しろってことか?」
良い事を言ったと思ったら、結局はそこなんだな……
「違う。あの装備はお前の好きにしろ。献上したいならすればいい。それでも功績には出来るだろう」
「は……?」
息がもれた
「なんでもいいから功績を挙げて城まで報告に来い。今日はそれを言いに来ただけだ」
父上は俺の返事を待たずに帰っていった
いつもとは違う父上にあっけにとられて、見直しそうになったが、冷静になってから考えるとあいつの失態の挽回を俺にやれと言ったようだ。
なんか釈然としないが、元からそのつもりだったし、功績を挙げれば母上の罪が赦されると分かっただけでも今は良しとしておこう。
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