第30話 side リーナ

学校で魔法の訓練中、私は大火傷を負った。

火魔法の訓練で、ファイアボールに込める魔力を圧縮している際に、コントロールが効かなくなり魔法が暴走して、自分の魔法によって身体を燃やされたからだ。


私は気を失っていたようで、その後の事は記憶に無いが、診療所で目を覚ますと母さんが泣いていた。


死んでもおかしく無い程の状態だったらしいが、診療所の先生のお陰で命はなんとか取り留めた。

先生には感謝しかない。

でも、私の身体は全身がただれてしまっており、治っても元には戻らないと説明を受ける。


しばらく入院した後、療養の為に実家に戻った。

大分痛みも無くなったけど、説明を受けていた通り全身に火傷の痕が残ってしまい見れたものではなかった。


診療所では痕を消す事は出来ず、神官様でも多少薄くするのが限界だろうと言われた。どちらにしても、神官様に頼むお金はうちには無い。


誰かに今の私を見られるのが怖くて、私は部屋に閉じこもってしまった。

学院の友達も見舞いに来てくれたけど、見られるのが怖くて拒絶していた。


部屋に閉じこもってから半年程経った時、学院から登校出来ないのであれば退学にすると通達が届いた。


今までも何度か届いていたが、これが最後の確認らしい。

本当は行きたいけど、人前に出る勇気が湧かない私は、学院を退学した。


いつまでもこのままではいけないのはわかっている。

学院にも行かず、働きもしない私に、両親は部屋から出るようには言わない。

その優しさがツライ。


何もしない日々が過ぎていたある日、妹が同級生を家に連れてきた。

その同級生が回復魔法を使えるから部屋から出てきて欲しいと言われる。

気持ちは嬉しいけど、人前に出る気にはなれない。

それに、神官様でも治せないのに、妹の同級生が治せるとは思えない。


私が断って、妹の呼びかけを無視していると、なんと部屋の外から掛けると言う。

そして、少しでも効果があったら部屋から出てきて直接掛けさせて欲しいと。


私が何も答えずにいると、廊下の方から眩い程の白い光が入ってきた。


あまりの眩しさに私は目を閉じる。

妹の呼びかけを聞いて、私は目を開ける。そして驚く。腕の火傷痕が綺麗になくなっているのだ。

私は押し入れに投げ込んでいた鏡を取り出す。自分の顔を見るのはいつぶりだろうか……。

恐る恐る鏡を覗くと、顔にあった痕も綺麗になくなっていて、懐かしい顔があった。

いや、火傷を負う前よりも綺麗になったように思える。


私の頬に涙が伝う。


私はいてもたってもおれず、勢いよく廊下に出る。そして、目の前にいた妹に抱きついた。


心の整理が付いていない私は、妹になだめられてしばらくして落ち着く。

近くに居たはずの男の子はいつの間にか居なくなっていた。


まだお礼もしてないのに……


私は妹に男の子の事を教えてもらう。


妹と話した結果、エルクくんは神様の生まれ変わりではないかとの結論に至った。

それか、神様本人かもしれない


両親が治った私を見て、もう一度学院に通えるように頼んでくれると言う。

出来る事ならもう一度学院生活をやり直したい。

迷惑を掛けてしまった分、ちゃんと卒業して、お金を稼いで、両親に楽をさせてあげたい。

ダメだと思うけど、微かな希望に掛けてお願いすることにした。


ラクネに次の休みの日に、エルクくんを家に連れてきてくれないかお願いする。


休みの初日は、依頼をクラスメイトと受けるとの事なので2日目に呼んできてくれるとのこと。

優しい妹を持って、私は幸せだ。


当日、妹がエルクくんを連れてきてくれた。

朝早く迎えに行くって言ったのに、全然来ないから心配してたけど無事会えたようで良かった。


妹が私の部屋に来て、びっくりする事を言った。

何故か、エルクくんは自分がどれだけスゴイのか自覚が無いみたいだ。

それで、エルクくんを王都に連れてきた人が、エルクくんが自分で気づくまでは周りが騒ぎ立てるのはやめて欲しいと言っていると。


あと、エルクくんの部屋には何故か妹の像があったって。

獣人が珍しくて買ったって言われたって聞いた。


部屋を出ると母さんがエルクくんと思う子供と話していた。母さんが言うには妹はエルクくんに気があるみたいだ。

かわいい妹の為に、私に出来る事があったら応援しよう。


妹の部屋でエルクくんに改めてお礼をする。


妹から聞いてた通り、エルクくんは誰でも出来るような事をやった程度にしか思っていないようだ。


私は妹からの忠告を忘れて、エルクくんを神のように言ってしまう。

そしたら妹に廊下に出されて説教された


その後は他愛もない話をした。

エルクくんには2つ上に姉がいるらしい。姉の方が回復魔法を上手く使えるらしいけど……流石に信じられない。

エルクくんの思い出補正でも掛かっているのだろう


エルクくんが帰る時にケーキとジュースをくれた。

ケーキなんて食べた事ない。快復祝いだって言ってたけど、もらってばかりでは流石に悪いと思う。


何か返せるものが無いか考えていると、妹から聞いた話を思い出した。

私は自分の部屋の引き出しから、以前作ってもらった自分の像を持ってきて、エルクくんにあげることにした。


お返しに自分の像を渡すって冷静になってから考えるとかなり恥ずかしい。

まぁ、喜んでくれたように見えたからいいか。


翌日、学院から呼び出しを受けた。

何故か高等部では無く、中等部にいる学院長からだった。


「お久しぶりです。学院長」


「リーナくん、元気になったようで本当に良かったよ」


「ありがとうございます。これも妹の友達のお陰です」


「今日、呼び出した理由は君の編入の件なんだけど、条件次第では許可しても良いと思っている。君は優秀な成績だったからね」

耳を疑う事を言われた。一度正式に退学しているのだ。お願いしといてなんだけど、無理だと思っていた。


「……条件というのはなんですか?」


「いくつかあるが、一つは高等部の1年からやり直してもらう。1年の後半は出席していないからね、留年した形になる。二つ目は痕が消えた件については他言しないで欲しい。」


「なぜ、言ってはいけないんですか?」


「君がエルク君に火傷痕を治してもらったのは、私の知人から聞いたよ。その彼からの頼みだ」


「もしかして、エルクくんを王都に連れてきた人ですか?」


「そうだが、知っているのかね?」


「いえ、妹から似たような話をされたので……。元からエルクくんの為ならば話す気はありません」


「話が早くて助かるよ。最後の条件だけど、編入する予定のクラスにはエルクくんの姉がいるんだよ。去年飛び級した子を知ってるよね?」


「噂だけは聞いてます。聖女様だとか…」

エルクくんが姉の方が回復魔法をうまく使えると言っていた事に真実味を帯びてきた。


「そう、その子。エレナちゃんね。彼女にもエルク君の事は秘密にしておいて欲しい。その上で彼女をサポートしてあげて欲しい。エレナちゃんの実力はすでに十分だけど、まだ子供だからね。周りは遠慮して近付きにくいみたいだから、手助けしてあげて欲しいんだよ」


「サポートするのは構いません。エルクくんの姉を手助けする事はエルク君への恩返しにも繋がる気がしますのでこちらからお願いしたいくらいです。でも、2人を会わせてあげない理由がわかりません。エルクくんは姉を探していましたよ」


「エルク君は自分の異常性に気づいていないだろう?多分、村での比較対象がエレナちゃんしかいなかったからだと思うんだ。だからエレナちゃんに会ってしまったら、さらにこじらせてしまうのではと危惧しているんだよ。それに……どうせなら劇的に会わせたほうが感動的だろ?」

本音は後者だと思う。

この人はそういう人だったよ。


「わかりました。その条件を飲みます」


「うむ。では手続きを進めておくから、もうしばらく待っててくれ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


私はまた学院に通うことが出来る事になった。

巡り巡って、これもエルク君のおかげだと思う。


何が出来るかわからないけど、私に出来る形で少しづつでも恩を返していこう

私は改めて心に誓った

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