tsホームレス

牛歩童子

本文

 人生へんてこである。

朝起きたらときには、私の相棒はすでにどこか見知らぬ地へと旅立っていた。

代わりに小さな姉妹が胸部に引っ越してきた。

なんとまあ不思議なものである。


 世間に見捨てられて、かれこれ幾日か。

あいつは私に唯一寄り添ってくれたものだった。

毎度、熱を上げて苦しむそいつを見るや、互いに涙を流しながら慰め合ったものだ。

私たちは互いに求め合う仲だった。

ひとつの境地に達するには、熱い鼓動とそれを導く手が必要だからだ。

互いに息を合わせ、一筋にかける。

撒き散らしてはならない。

それらを一つにまとめ上げ、そしてひっそりと崩れていく。

私はその度にいつも、私があくまで生き物であるという生臭さを感じるのだ。

生まれ、育ち、老いて、死ぬ。

残酷な運命に抗えぬ、哀れな生き物。

その一瞬を切り離し、大切にしたいみじめな生き物。

時間は有限であるのになんと意味のない行動なのだろうか。

しかし、それでも私達は互いにまたその一瞬を求めてしまうのだ。

抗えぬ欲望に導かれて。


 伴侶は独りよがりで頑固者だった。(人生の友に敬意を表してこう呼ばせてもらう。)

いつも要らぬ所で目立ち、嘲笑に晒されることもしばしばあった。

私はいつもヒヤヒヤとしており、なんとも迷惑被ったものだ。

しかし、いつも私のことを慰めてくれる、いいやつであった。

ベットの上でいつも我々は語らった。

これは好きか、これは大丈夫か、これはいけるくちか。

意外性に面食らったこともあった。

時に共感し、わかり合った。

いない時など考えられない、唯一無二のやつであった。


 まさかこんな日が訪れるとは思ったこともなかった。

天だけでなく、お前も見捨てるなんて…。

代わりにやってきた姉妹を見下ろしながら呆然とした。

試しに2人を撫でてみた。

柔らかいだけである。

強く揉めばいっちょまえに反撃してくる。

生意気な奴らだ。

あいつはなにもいわず、ただ俺を慰めてくれたのに、お前らときたら…。


 冷静になってきて、急に虚しくなってきた。

人生はとっくに終わっていた。

金もなく、恋人もなく、友もなく、家もなく。

誇れるものは何ひとつない。

のどを何度かっ切ろうとしたことか。

怖くてできないが。

というか現在進行形で死にかけてる。

やばいやばいやばい。

腹へった、餓死して死ぬ。

もう、どうしようもない。

こうなったらスーパーから盗ってくるしか「チャリーン」


 前方で、音が鳴るのは、金の音。

感謝の浮浪者、去る救世主。

その様子を見て走る電流。

その様子はある姿によく似ている。

そう、駅前のよくわからない弾き語りのやつ。

そうだ、芸だ。

芸が私の身を助ける。


 こうして私は芸を路上で披露するようになった。

最初はまったく稼げなかった。

当然だ、初心者が簡単にお金を稼げるものじゃない。

でも持ち前の大道芸と性転換でもたらされた美少女ビジュアルが段々と客足を招いてきた。

応援してくれる人達ができた。

そんなある日、転機が訪れた。

あるテレビのマネージャーが、私の元に仕事のオファーに来たのだ。

もちろん許諾、それからあれよあれよの有名人。

毎日テレビのオファーで忙しく、今や金も家も恋人も友も持っていて、楽しい人生だ。


 ほんの6段落前の私へ。

今、私はクソだと思っていた人生を楽しんでいます!

例えひどく苦しくても死ぬなんてとてももったいない!

いつか人生楽しめますよ!

そしてひとつ、あなたに言いたいことがあります!

なに〇〇〇が伴侶とかアホ抜かしてるんじゃ、〇ね。

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