第2話

「15層までクリアしたのかい。しかも2人で。流石にレスリーとアイリーンだよ」


 アルフォードに戻ると一旦家に戻って身体を洗ってから冒険着を着てオズの雑貨屋に顔を出した2人。アイリーンがこの前5人で挑んだダンジョンを再挑戦していて今日15層までクリアしてきたという話をする。


 オズが掴んでいる情報では2人がアタックしているダンジョンは難易度が高いという理由で攻略する冒険者が少なく攻略してもせいぜい10層くらいまでで戻ってくる冒険者が多いという。


「なのであのダンジョンは2人が下に行けばいくほど記録を更新してるって訳さ」


 そうして14層、15層の宝箱から出たアイテムの鑑定をお願いしたいとアイリーンがテーブルの上に置いた指輪と腕輪2つを1つずつ手に取ってじっくりと見るオズ。


 しばらくじっと見てから全てをテーブルに戻すとまず1つの腕輪を手に持って


「これは素早さが上がる腕輪だね。アイリーンが今持っているのよりこっちの方が効果が大きい。これを持つといいよ」


 ありがとうとアイリーンは今までの腕輪を抜いて新しい腕輪をする。


「そしてこの腕輪は精霊魔法のスキルが上がる腕輪だ」


「精霊魔法かぁ、2人とも魔法は使わないわね」


 アイリーンの言葉にそうだねと言ってから


「精霊士には良い腕輪だよ。精霊魔法のスキルが上がれば格上との戦闘で魔法がレジストされる確率が減るからね」


「どうしようか。マイヤーへのお土産にする?」


「そうしようか」


 そうしてその精霊魔法のスキルが上がる腕輪は2人は装備しないが王都のマイヤーにあげることにする。


「最後にこの指輪だけどね」


 とそこで間を開けてもったいつけるオズ。指輪に視線を落としてそれから顔をあげて2人をみると、


「これは体力を回復する指輪だよ」


「体力を回復?」


 アイリーンがどう言うこと?という顔をしておうむ返しの様にオズに聞く。


「この指輪をしていると何もしていなくても少しずつ体力が回復していくのさ」


「それは凄いな」


 レスリーが声を出すと、そうなんだよとオズが言う。


「時間で回復する量が決まっている様だね。ただ回復量はそれほど多くはないんだよ」


「それでも凄いじゃない。少しずつの積み重ねが大きいんでしょ?」


「アイリーンの様な考え方をする冒険者は少ないね。いや正にアイリーンが言った通りさ。少しずつでも確実に回復していく。戦闘と戦闘の合間に歩いている時も、もちろん戦闘中も。指輪をつけているだけで確実に少しずつ回復するね。ある意味すごい指輪だよ」


 そう言って指輪をアイリーンに渡す。レスリーはアイリーンが付ければいいと言ったのでそのまま指輪をはめるアイリーン。


「ランクSが闊歩しているフロアだっけ?流石に良い物が出るね」


「もうちょっと潜ってみるつもりなの。また何か出たら持ってくるので鑑定をお願いします」

 

 お安い御用だと言ったオズ。レスリーとアイリーンは交換した素早さの上がる腕輪の使わなくなった方をオズに渡す。オズはお金を払おうとしたが2人は頑として受け取らず、これは鑑定代の代わりだと無理やりオズに押し付けた。


「じゃあ鑑定代として貰っておくよ。それにしてもアイリーンもレスリーも会うたびに強くなってるのがわかるよ」


 オズには見えていた。目の前の2人の実力が会う度に上がっているのを。アイリーンは戦士としてはそこらのランクAなら束になってかかってきても勝てないだろう。そしてレスリー。風水術士としてまた1段、いや2段か3段上がっている。一体この2人はどこまで高みに登っていくんだろうかと目の前でお礼を言う2人を見ていた。


「あんた達ならランクSでも問題はないだろう。でも油断は禁物だよ。気をつけるんだよ」


 オズの言葉に礼を言った2人は店を出てそのままギルドに顔を出した。夕刻のギルドは多くの冒険者達で賑やかで、そこに2人が入っていくと知り合いから声が掛かる。2人ともこのアルフォードではすっかり有名だ。


「ダンジョン攻略してるんだろう?」


 ここで知り合った冒険者が声をかけてきた。


「なんで知ってるの?」


「そこの掲示板見て見ろよ。ダンジョンの攻略状況が日々更新されるんだよ」


 言われて2人が掲示板の方に顔を向けるとクエストの掲示板の隣にもう1つ掲示板がありそこにはアルフォード周辺のダンジョンの攻略状況が一覧表になっている。


「その上から2番目のダンジョン、難易度が高くてランクAでも潜っていけないここらで最も厳しいと言われているダンジョンだよ。しばらく更新されて無かったのが今日15層まで攻略された。それでここに挑戦してるのは誰だって話になってレスリーとアイリーン位じゃないと攻略できないだろうって話てたのさ」


「そうなんだ。確かにレスリーと2人で今日から攻略をしているの。14層からランクSしかいないフロアになってる」


 アイリーンの言葉を聞いてびっくりする周囲の冒険者達。


「2人でランクSのフロアを攻略してるのか。やっぱり半端ないな」


 その声にすげぇなと声を出す周囲の冒険者。ギルドに併設している酒場に移動してそんな話をしているとそこにランクAのアランのパーティメンバーがやってきた。


「俺達が11層まで何とか攻略したダンジョンを今は2人で15層まで潜ってるのか。まぁレスリーとアイリーンなら別段難しいダンジョンではないか」


 アランが言うと


「ドーソンの南の森の方がいやらしいかな」


 アイリーンがそう言ったあとレスリーが続けて、


「ダンジョンってのはフロアをクリアすると階段が安全地帯になってるからそこで休むことができる。しっかりと回復できる分こっちの方が楽かもしれない」


 これはレスリーの本音だ。森の中では魔素が薄い所を見つけて野営をするが厳密には100%安全とは言えない。まぁレスリーの場合はほぼ100%安全なのだが。


 それに比べてダンジョンはフロアとフロアの間に必ず階段という安全地帯が存在する。そこは100%安全、そう全く攻撃を受けることがない聖域だ。疲れていればそこでしっかりと休めるし万が一負傷していてもそこで傷を治すことができる。しかもどう言う理屈か石板に触れるとそこから入り口までワープできる。森の中じゃあそうはいかない。


 アイリーンに言わせるとこういう安全地帯やワープがないと誰もダンジョン攻略なんてしないわよということらしい。


「いくら回復できるったってそれでも相手はランクSばかりだろ?」


 レスリーの言葉にピートが聞いてくるが、


「足止めするのは風水術でできるからな。この先はどうなるかはわからないが今の所は俺が足止めしてアイリーンが個別に倒していくという戦法で問題なくいけてるよ」


 レスリーとアイリーンも普段の口調で話をしているが聞いている周囲の冒険者から見れば目の前にいる2人は異次元の強さだと見ている。ランクSをランクAが2人で倒すなんて普通では絶対にありえないからだ。


 アランも他のメンバーも目の前の2人の実力を知っているのでこれ以上突っ込むことはせずにダンジョンの中の様子を聞いていく。自分たちが攻略するときに参考にするためだ。それに対してレスリーもアイリーンも隠しもせずに自分たちが攻略してきたフロアについて詳細に話をする。


「参考になるな。いずれ俺たちも12層以降に潜って挑戦してみるよ」


 アランが代表して2人にお礼を言うとアイリーンが


「そうしてよ。でも言っておくけど宝箱はもう開けちゃってるからね」


 と悪戯っぽく言う。

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