第3話

 翌日はアルフォードの周辺の森を歩きながら魔獣を倒して身体を動かした2人。街の周辺はせいぜいランクBまでなので本当に軽く身体を動かしただけになった。


 夕刻には少し早い時間にギルドに顔を出して倒した魔石の買取りを終えた時に隣の酒場から2人を呼ぶ声がしてそちらを見ると以前会ったこの街の所属のランクAのパーティだ。


「よう。久しぶり」


 かけられた声に手をあげて応え、挨拶を交わしながら彼らが座っているテーブルの隣に座るレスリーとアイリーン。


「有名な風水術士とその奥さんの登場だ」


 2人が座るとレスリーに声をかけたAランクパーティの戦士のアランが冷やかして言うとレスリーとアイリーンの2人がやめてくれよと言う。


「2人とも有名だぜ。レスリー街道にアイリーン村。ちょっとやそっとじゃ名前なんて付かない。自慢できるじゃないの」


 アランの隣に座っているナイトのピートも続けて言う。


「勘弁してくれってのが本音だよ。大したことしてるという意識はないしな」


「そりゃ違うぜ、レスリー」


 そう言ってアランが話をするにはレスリー街道が復活してから商人や木工ギルドの動きが増えてそれに伴ってここアルフォードとホロのギルドにはひっきりなしに護衛クエストの依頼があるらしい。あのレスリー街道はほとんど魔獣が出ないのでランクBの連中に取ってはここからホロまでの護衛クエストは美味しいらしい。


「そもそも氾濫して以来長い間通行止めになっていた街道を完璧に復旧させたっていう時点で普通じゃない。大したことをやってるんだよ」


 アランが言うと同じパーティの僧侶のスミスも


「それに聞いた話だがあんた達2人はドーソンからホロまで3ヶ月かけて森の中を踏破したらしいじゃないか。地元の連中がやばすぎると言って誰も踏み込めない森の中で3ヶ月、そしてホロまで抜けてきたと聞いてぶったまげたぜ」


 2人のやってきた事の数々は冒険者の中では広まっていてあの2人は半端ないという評価になっているということを聞いたレスリーとアイリーン。周りにひとしきり感心されてから、


「それで今回はまたここをベースに辺境領内のあちこちに出向く予定なのかい?」


「そうするつもりだよ」


 アランの言葉に頷くレスリー。そのご少し彼らと雑談をしてから2人は立ち上がるとまたなとギルドから出ていった。


 2人が出ていくと酒場にいてやりとりを聞いていた他の冒険者、彼らは他の街からやってきた冒険者でレスリーとアイリーンとは初めてで、


「今のが風水術士のレスリーとその奥さんの戦士のアイリーンか。噂は聞こえてきてたよ。2人とも半端なく強いってな。実際見たのは今日が初めてだが2人ともなんと言うか落ち着いているな」


 その言葉に頷く周囲の冒険者達。


「強いってもんじゃない。俺達はレスリーの風水術を鍛錬場で見せて貰ったが何もなかった地面からいきなり土の槍が何本も飛び出て人形を突き刺した。あっという間の出来事だったよ。あの術以外にも色々持ってるんだろう。どっちにしても奴らにとったらランクSだって脅威にならない。レスリーだけじゃない、あのアイリーンも桁違いに強い」


 ピートがそう言ってから続けて間違ってもあの2人にちょっかいだすなよ。再起不能にさせられるぞと言う。それが誇張でもなんでもない証拠にレスリーを知っている酒場にいた冒険者達がその通りだと頷きながら声を出していた。


 そんな話をしていると1人の冒険者が酒場に飛び込んできて


「レスリーとアイリーンが鍛錬場にいるぞ」


 その言葉を聞いて酒場にいた全員がギルドの鍛錬場に移動するとそこには鍛錬の準備をしているレスリーとアイリーンの姿があった。


 夕食までまだ時間があるから少し身体を動かすかと鍛錬場に来た2人。ギルドを出た時に街の近くのランクB程度じゃ全然鍛錬にならないわねと言ったアイリーンの言葉にレスリーが応えてやってきた。


 鍛錬場の周囲に人が集まってきたのを気にせずにいつもの通り魔法袋から木片を多数取り出すレスリーと同じ様に魔法袋から模擬刀を取り出すアイリーン。


 アイリーンが準備できたわよと言うとレスリーが杖を持っている手を前に突き出すと足元にある木片が全て宙に浮いてレスリーの周辺で浮遊する。


 実際に風水術を見ている冒険者達にはこれは以前に見たのと同じ光景だが初めて風水術を見る連中にとっては目の前の事態は信じられない。浮き上がった多数の木片がレスリーの周囲で浮遊したまま止まっているのだ。


 そしてびっくりして見ている彼らの前で更に信じられないことが起こる。レスリーが杖を突き出すと浮いていた木片が一斉に凄いスピードでアイリーンに向かって飛んでいった。


 驚異的な身体能力で次々と襲いかかってくる木片を交わし、模擬刀で叩き落としていくアイリーン。落とされた木片は一旦レスリーが立っている場所に戻ると再びアイリーンに襲いかかっていくがアイリーンはそれら全てを叩き落としていく。


 2人の鍛錬を見ている他の冒険者達は声が出ない。しばらくして鍛錬が終わって木片を回収するレスリーと汗を拭いているアイリーンを見ていた1人が驚愕した声で。


「こりゃ俺の想像以上だ」


「これはアイリーンの鍛錬だからレスリーはまだ本気モードじゃない。それでもあの脅威だ。俺達はレスリーの本気モードを見たことがあるがこんなもんじゃないぞ」


 ピートが言うと他の冒険者が


「レスリーは凄いがアイリーンもありゃ半端ない強さだぜ。普通ならあのスピードで飛んでくる木片を全て交わしながら叩き落とすなんてできない。あの外見からは想像が付かない強さだ」


 そう言うと確かに。あのスピードで飛んでくる木片を見事に交わして叩き落としていたな、まるで蝶みたいだった、並の反射神経じゃないぞという声がする。


「どっちにしてもあの2人はランクAだが実際はそれ以上なのは間違いない。俺はあの2人と1対1で対戦して勝てる自信が全くない」


 アランが言うと他の冒険者達も大きく頷いていた。

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