国立ユイナーダ学園高等部⑥ どうやらお仕置きされたいらしいですね!

砂月ちゃん

前編


皆さんお久しぶりですね。

国立ユイナーダ学園高等部淑女科のキイナです。

私は最近ある男の事で、相談を受けている。

それも1人2人ではなく、35人もである。



今日はこれから私が協力を頼んだ仲間と、落ち合う約束をしている。


待ち合わせ場所に向かっていると、前方で女性の叫び声が聞こえた‼︎

慌てて駆けつけると、なんと大男が嫌がる女性の手首を掴んでいたのだ!


しかも襲われている女性は私と同じ淑女科の、スーズ嬢ではないか‼︎


「いいじゃねーか♪

俺と付き合おうぜ♪♪」


「辞めてください!

私には、婚約者がいるんです‼︎」


「どうせ学園にいないんだろ?

学園にいる間は、遊んだってバレやしないって♪♪」


マズイ‼︎


「そこまでだ‼︎」


「ん⁈誰だお前?

騎士科じゃ見かけねーな⁇」


そういえば先程まで部活で稽古してたから、衣装のままだった!

(キイナ様男装中!)


クッ仕方ない!

ここは役に、成りきるしかない‼︎


「私は隣国からの留学生のキースだ‼︎」

(稽古中の舞台のキイナ様の設定)


「嫌がる相手にしつこく付き纏うなど騎士道精神に劣る男だな!

騎士として恥ずかしいとは、思わないのか?」


「何だと⁈優男が生意気な‼︎」


そう言いながら、腰に穿いた剣に手をかける大男!

マズイな…私が穿いている剣は、舞台の小道具だから、実戦は無理だ‼︎


ピピー‼︎


「お前達‼︎ここで何をしている⁈」


「!!」


「黒い腕章‼︎風紀委員会か⁈

チッ‼︎命拾いしたな⁈」


そう言ってあっという間に、大男は走り去って行った。


「やれやれ……。」


「キイナ様ありがとうございます。」


駆けつけて来た風紀委員は待ち合わせていた、錬金科のターク嬢だった。


「大丈夫?2人共‼︎

危ないところだったね。」


「もしかしてさっきのが?」


「そうアイツがクズナンパ騎士、騎士科のサンソンだよ。」


「そう、アイツが……。」


******************


学園街喫茶店【ユウリン館】個室


(エリー合流)


「うわぁ~危ないところだったね⁈

大丈夫スーズ先輩⁇」


「キイナ様が助けてくれましたから。」


「今回は、無事だったけどアイツ、しつこいからねー。」


確かに、いつも私が側にいられる訳ではないからな。


「提案がある。スーズ嬢は確か、既に必要な単位は取り終えていたな?」


「後は卒業試験さえ合格すれば、大丈夫ですわ。」


「それならハーム女史に許可を得て、暫く『花嫁修業』という名目で、王都にある婚約者の屋敷に滞在するのは、どうだろうか?」


「それ、良いかもしれませんね……。

先輩の婚約者様って王太子様の側近でしたよね?」


そうエリー嬢が尋ねると、スーズ嬢はとても嬉しそうに

「はい、侯爵家次男のミハイル様ですわ。」

と答えた。


「侯爵家なら、流石にアイツも手出しできないだろう。」


「そうですわね。

では、さっそく実家と侯爵家に連絡をして相談してみますわ。」


「なるべく早く迎えに来てもらった方が良いな。」


「じゃあお迎えが来るまでは、風紀委員会で護衛するよ。

僕1人じゃ安心できないだろうから、助っ人を呼んで来る。

ちょっと待ってて下さいね。」


そう言ってターク嬢は、急いで部屋を出て行った。


注文したケーキを食べながら待っていると、ターク嬢が2人の人物を連れて戻って来た。


「お待たせしました。

風紀委員会のメンバーで、騎士科のケント君とシノンちゃんだよ。」


「「はじめまして。警護は、僕等(ボク等)に任せてください!」」


??


何故セリフがかぶる?

しかも睨みあっているんだが……


この2人に警護を頼んで、大丈夫なのだろうか?


「淑女科三年のスーズです。ご迷惑でしょうが宜しくお願いします。」


そう言いながら、綺麗なカーテシーをしてみせた。


そしてスーズ嬢…この状況で何故普通に挨拶できる?




3人が部屋を出て行った後、エリー嬢の進行で本来の目的である【ナンパ騎士対策会議】を開いた。


「只今より、第1回【ナンパ騎士(クズ)対策会議】を開催しま~す。

ハイ、拍手~♪」


し~ん


「エリー嬢ふざけてないで早くしてくれるか……。」


「ごめんなさい!

まずナンパ騎士(クズ)の、詳しい説明からです。

ナンパ騎士(クズ)こと騎士科三年3クラスのサンソン(18歳)身長205㎝。

得意武器は、バスターソード。

出身は、リバーファスト。

郷士の三男。

ヤツの被害ですが、学園内で手当たり次第に女性に手を出しては、浮気を繰り返しています。

中にはヤツと付き合っているのがバレて、婚約者ともめている者が数人確認されています。」


「そこは自業自得、じゃないかなぁ。」


確かに貴族女性が、婚約者がいるのに学園内とはいえ他の男性と深く付き合うのは良くない。

皆んな顔を見合わせて頷く。


「実家の方は、どうなってる?」


「領内でも同じような事を繰り返していたので、学園卒業後は縁を切られる事になっていますね。」


まぁ当然だろう。


そんな問題ばかり起こす人間を、領地に置いておいて領民に逃げられたら、領地経営が成り立たないからな。


「それで学園内での、現在の被害者数は、どうなってる?」


私の質問にターク嬢が答えた。


「今日の放課後の時点で、確認が取れているのが99人。

実際には、それ以上いると思うんだよね。

まぁ、とっくに別れた人や、卒業した人もいますけど。」


いくらなんでも、多すぎるだろう。


「よくそんなに浮気する暇と体力があるな。」


「けっこうまめにプレゼントしたり、デートしたりしているそうですよ。

その代わり成績は、ギリギリですが。」


体力はあの体格を見ればわかるが、プレゼント代は、どこから出ているのだろう?


「キイナ様、プレゼント代がどこから出てるのか、気になりますよね?

それについてはタークちゃんが、突き止めてくれました。」

と、エリー嬢。


おゝ!流石名探偵だけの事はある!


「僕が突き止めたというか、たまたまバーン先生から『奥さんの実家に、大量の同じアクセサリーを持ち込んだ学生がいるから調べてくれ。』って依頼を受けたんだよね。」


「バーン先生の奥さんの実家、というのは?」


「王都の質屋ですよ。けっこう老舗の。

もしかしてと思って、写真を見せたら持ち込んでたのは、サンソンとキヨミナでした。」


キ、キヨミナ‼︎

レオルを騙したあの女か!?


あの女の名前が出たとたん、顔色が悪くなった私に2人がが慌てて


「「あっ⁈すみません!

あの女の名前は、禁句でしたね。」」

と謝ってくれる。


私は、良い仲間を持ったものだ。


「い、いや大丈夫だ……。」


私は顔を引きつらせながらも、なんとか冷静さを取り戻して、ターク嬢に話しの続きをそくす。


「いろいろ理由を付けて、プレゼントを貰う時は同じ物を指定し、1つだけ手元に置いて、後は売り払ってたんだよ。」


どこのホストだ‼︎


「サンソンはわかるけど、あのお花畑女がよくそんな事思いついたわね?」


確かに…エミール殿下の小説を丸パクリする馬鹿だからな。


「あ~それね~。

サンソンがやってるの見て、真似したみたいだよ。」


「どうせそんな事だと思ったわ……。」


呆れてモノも言えないな。


「あのお花畑女が真似したせいで、宝石店で売れなくなって、最近は質屋に持ち込んでるみたいだよ。

まぁその質屋も、そろそろ換金できなくなるけどね♪」


「ターク嬢何かしたのか?」


「バーン先生に頼んで『質屋ギルド』に情報を流してもらったから、正規のお店じゃ引き取って貰えなくなるよ。

裏で流しても、足元見られて儲けはなくなるのがオチ。」


とりあえず資金源を潰したというわけか……

やはりこの2人に協力を求めたのは、正解だったな。

エリー嬢の学園情報収集力と、ターク嬢の調査力は学園の中では最強だ。



話している間に、紅茶が無くなったので店員を呼んで追加注文をする。


「この後は、どうします?

アイツを野放しにするわけにはいきませんし……。」


「これ以上被害者を出すわけにはいかないから、学園の女子達にもこの情報を流してくれ。」


情報共有して、これ以上被害を広げないようにしないといけない。


「それだけじゃアイツをぎゃふんと、言わせられないですよね。」


3人で顔を見合わせ対策を考えていると、店員が紅茶を運んで来た。


エリー嬢がドアを開けると、紅茶を持って来たのは店員ではなく、特進科のサーラ嬢だった。


「陣中見舞いに参りましたわ。

どうやらお悩みのようですわね?

3人でダメなら4人で考えましょう。」

と言ってニッコリと微笑んだ。



これまでの話をサーラ嬢に説明すると、彼女は少し考えて、何処からか一冊のノートを取り出した。


そのノートを見た途端エリー嬢がビックリして声をあげた。


「そのノートはもしかして⁈」


「まさか、それが例のノートなのか?」


「よく貸して貰えましたね?」


そう尋ねると、サーラ嬢は

「ちょっと“黙って”借りてきましたの♪」


一瞬の沈黙……


いやそれは、勝手に持って来たというのでは、ないか?


******************


その頃のエミール様……



自室の机の上を見る。


「アレ?おかしいなぁノートがない。」


その代わりに私の好きな『ユウリン館』のクッキーと茶葉が置いてある。


ああ、なるほどサーラが持って行ったのか。

あのノートを持って行った…と言う事は、何か企んでいるのだろう。


それに最近エリー嬢を中心に、女子が何かコソコソしていましたし。

私にバレていないと思っているのでしょうが、この前の騒動で父上や母上達…沢山いる兄姉に叱られて、私は反省したのですよ。


いくら継承権が低くても、『身の回りの事に関心を持たないと危ない』と今更ながら気づいたのです。

サーラ達が何をするつもりかわかりませんが、大事な婚約者が危ない目にあってはいけませんからね。

王太子(兄上)に頼んで調べてもらいましょう。



******************


その頃のケント&シノン



「何でアンタはいっつもボクのセリフに、態と被せてくるわけ?

チビのくせに生意気よ!」


「……。」


チビって、それは入学当初の話しだろ。


「今はそれほど、変わらないだろう。

むしろ僕の方が、若干高いと思うけど?」 


僕が冷静に答えると益々彼女は激昂して、怒鳴る。


「煩い!スーズ先輩の護衛は終わったんだから、コレで解散!着いて来ないでよ!」

そう言って、彼女は店の方に戻って行った。


やれやれ騒がしい女だな。


この様子じゃあのクズの件に、首を突っ込むつもりだろう。


とりあえず、あの人達に連絡入れておくか。

ポケットから支給されたばかりの携帯型魔道通信機、通称『ポケテル君』を取り出し、まずあの人の直通番号を押す。


「あ、もしもしケントですが、例の件で動きがありました。」



******************


(その頃の【ユウリン館】個室)



「逆ハニトラを仕掛けて、嵌めるのはどうかな?」

というエリー嬢の意見に、サーラ嬢が残念そうに反論する。


「無理ですわね。

このノートによると、ああいったタイプの人間に、ハニトラは効かないそうですわ。」


その意見には、私も賛成だな。


「お花畑女が、やらかしたばかりだしねー。

だいたいそのハニトラ、誰が仕掛けるの?」


確かにそんな危険な役を、か弱い女性にやらせるわけにはいかない。


するとそこへ、先ほどスーズ嬢を送って行った騎士科のシノン嬢が、戻って来てドアを開けるなり


「だったらボクが!」


そう胸を張って、真剣な表情で私達の前に立った彼女の姿を見て、思った事は皆んな同じだったようだ。


「「「「無理だな。(無理ですわね。)」」」」


し~ん


「な、何でだよ⁈

ボクなら騎士だし、けっこう強いんだからな!」


そう悔しそうに、シノン嬢は叫ぶ。


う~ん強いのはわかるが、シノン嬢では無理がある。


「何というかその…非常に言いにくいんだが……。」


私が言いよどんでいると、空気を読まずにエリー嬢がはっきり言ってしまった。


「魅力(胸)が無い!」


それを聞いて、シノン嬢が固まってしまった。


続いてサーラ嬢までも……


「そうですわね。

あの男の好みは、Cカップ以上ですし。

せめてBカップは、欲しいですわね。

あ、もちろん私(わたくし)はダメですわよ。

エミール様と婚約してますから。」


せっかく協力を名乗り出てくれたのに、彼女達の言葉に傷ついてしまったようだ。


更にエリー嬢が言い募る。


「学年は違っても同じ騎士科だし、女性騎士は少ないから、すぐに身バレすると思うよ。

それに騎士科の女子で、声かけられてないのシノンちゃんと一年2クラスの双子ちゃんと三年1クラスのランナ先輩くらいじゃないかな?」


騎士科一年の双子というと、あの猛牛姉妹か。


以前、学園街で暴れ牛が出た時に、2人で連係して警備兵が来る前に、捕まえていたな。

三年のランナ嬢は騎士科といっても、素手ででの格闘を得意とする、空手(くうしゅ)部の主将で、毎年開催されている、『ユイナーダ王国武闘大会女子の部』の三年連続優勝者だ。


それに彼女は既に卒業後、『女性王族の警護』を担当する事が決まっている。


そんな事を考えている間に、シノン嬢は更に落ち込み、ついに座り込んで角で『のの字』を書き始めてしまった。

更にターク嬢がトドメを刺す。


「だ、大丈夫!実は、僕も錬金科で1人だけ声をかけられてないんだ。」


その言葉に一瞬シノン嬢はターク嬢の方を見たが、すぐにまた落ち込んでしまった。

「えっ?何で⁇」


「たぶんタークちゃんの体型を見ても慰めにならなかったんじゃない?」


「だから何でだよ⁈」


『2人共見事な幼児体型ですものね。』(byサーラ)


このままでは話しが進まないので、私が仕切り直す事にしよう。


「とにかく皆んな、一旦席に着いてくれないか?」


「そうですわね。時間も押してますし……。」


皆んなが席に着いた後、顔を見回しながら


「他に良い方法は、ないのか?」


と尋ねると、エリ ー嬢がある疑問を口にした。


「そういえばアイツって何であんなにモテるの?」


その言葉に、私達はハッとした。 


「確かにあの男は、たいして顔がいいわけでは…ないな。」


「口は上手いけど、騎士としての能力も中程度だと聞いてますわ。」

「ボクはあんなムキムキな男は、好きじゃない!」


「むしろ顔ならキイナ様の方がいいと思う。」 


!!


「「「「それだ(それですわ)!!」」」」


えっ?何?


突然皆んな立ち上がって、私を取り囲み

「アイツより先にキイナ様がナンパしちゃへば良いのよ!」


「僕もその案に賛成だよ。

男子がやったら、対外的にマズイけどキイナ様が女子を誘うのは問題にならないよ!」


「アイツがしたら、ナンパだけどキイナ様ならただ女子同士でお茶に誘ってるだけですもの♪」


た…確かにその通りだが。


この後、全員で知恵を振り絞って考え

決まったのが次の作戦だ。



①アイツに関する情報を女子生徒全員で共有する。


②協力者を募りアイツの行動を見張り、

なるべく集団行動をして、近づいて来たら逃げる。

(女性しか入れない場所の確保)


③アイツがしつこくナンパして来たら、キイナ様が駆けつけて『お茶に誘う』。


④アイツのイライラが溜まって来た頃、邪魔が入らない場所に呼び出して、皆んなでアイツをギャフンと言わせる。



「完璧ですわね!」


とサーラ嬢が例のノートを握りしめながら、興奮気味に話す。


「今こそ女子の団結力を、発揮する時だね!」


エリー嬢も乗り気だ。


「キイナ様だけに、負担はかけられない。

ボクも皆んなに声をかけるよ。」

シノン嬢は騎士科以外でも、『後輩に慕われている。』と聞いているから彼女の協力は期待できる。


「ヤツの出没スポットは把握してるから、任せて。」


ターク嬢も頼りになる。



そしてコレが一番の決め事。



「「「「「絶対男共には秘密‼︎」」」」」


アイツはアレで、一部の男子にアニキとして人気があるのだという。


どこにアイツの仲間がいるかわからない為、我々女子だけで行動しなければならない!


「!!」


何かに気づいたシノン嬢が、突然ドアを開けると、そこに居たのはウェイターだった。


「何か用?」


ビックリさせないでくれ。


「あ…あの、お時間なので、お知らせに来ました。

まだお時間がかかるようでしたら、延長もできますが、如何いたしましょか?」


シノン嬢に怯えながら、答える気の弱そうな太めの少年ウェイター。


「いや、もう話しは終わった。

ちょうど帰ろうとしていたところだ。

驚かして悪かったな少年。」


「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした。」


この後我々は計画を進めるべく、各自行動を起こした。




この時は気がつかなかったが、我々の【ナンパ騎士(クズ)ざまぁ計画】は既に、何人かの知るところとなっていたのである。


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