幼馴染四人組の勇者パーティーで、ただの戦士なんて必要ないと追放されました。~え、聖女も賢者も必要ない!?俺は一人で魔王を倒しに行く!?ちょっと待て、お前は何を言っているんだ~

@YA07

第1話 追放

「ケイン、お前はクビだ」


 幼馴染でもあり勇者とも呼ばれているザックに唐突にそう告げられたのは、魔王軍の幹部に勝利を挙げた後の打ち上げでのことだった。

 戦士である俺と勇者のザック、そして聖女のリリアと賢者のローザの四人は勇者パーティーと呼ばれており、実力はさながら全員が幼馴染という連携力も相まって魔王軍の幹部を次々と撃破することに成功していた。

 そろそろ魔王も倒せるんじゃないか、などと囁かれ始めた頃でもあったので、俺の内心は怒りや悲しみといったものよりも驚きが勝っていた。


「クビって……何の冗談だよ」

「冗談じゃねえよ。俺は勇者で、お前は何だ?ただの戦士だろうが。……邪魔なんだよ、大したスキルもでもねえくせに」


 スキル。それは、十歳を迎える子供に神から与えられるものだ。

 そのスキルによって人は人生の道が決まる。例えば勇者のスキルを得たザックは、魔王を倒す使命を神から与えられたということだ。

 それに対して、俺のスキルは戦士だった。確かに勇者十比べれば見劣りはするが、それでも戦うためのスキルに他ならない。


「でも、俺だって頑張ってザックに見合うくらいの力をつけてるじゃないか!さっき倒した幹部だって、俺も───」

「うるせえ!」


 俺の言葉を遮って、ザックが大声を上げた。


「うざいんだよ!そうやって必死になって、戦士が勇者に勝てるわけねえだろうが!」

「勝てるってなんだよ!別にザックに勝とうとしてるわけじゃない!俺たちは仲間だろ!」

「仲間?ハッ!勇者のスキルを見て、よくそんなことが言えるな」

「……」


 勇者のスキル。確かにその力は、ただの戦士じゃどう足掻いたって届くようなものではなかった。

 でも、勇者の力に見劣りしたってかまわない。ザックのサポートが少しでもできればと、そのために全てをかけてここまでやってきたのだ。

 そんな僕の目を見て、ザックは手に持っていたジョッキを叩きつけた。


「……じゃあハッキリ言ってやる。足手まといなんだよ。邪魔なだけだ」

「……」


 俺はザックのその言葉に今までの自分が全否定されたような気がして、何も言い返すことができなかった。

 そんな俺たちの様子を見て、なだめるようにリリアが口を挟んできた。


「ちょ、ちょっと待ってよ。落ち着こう?ザックもケインも。一旦冷静になって──」

「お前もだ。リリア」

「──えっ?」


 しかし、ザックはそんなリリアの声も遮った。


「聖女がなんだ?どんな傷でも一瞬で癒せる?失った部位をも再生させられる?どんな呪いでも治せる?──その力を、俺に使ったことがあるのか?」

「それは……」

「所詮お前なんて、ケインのおつむだろうが」

「そんなことっ……!」


 ない、ということはリリアにはできなかった。

 実際、ザックは一度たりともリリアの治療を必要とするような傷を受けてこなかったのだ。リリアが聖女の力を使う時は、決まってケインに対してだった。


「それとローザ。お前もクビだ」

「……そう」


 ローザは、ぽつりとそうつぶやくだけだった。

 ザックはそれにもイラついたようで、大量の金貨が入った袋をテーブルに叩きつけると、無言でその場を去っていこうとした。

 それを見たリリアが、慌ててザックに声を掛ける。


「ちょっとザック!どういうつもりなのよ!」


 ザックはその言葉に立ち止まると、こちらも振り向かずに返事をした。


「……どうもこうもねえよ。魔王は俺一人で倒す。お前らは全員クビだ。じゃあな」

「ちょっ、ザック!」


 それからザックが呼びかけに応えることはなく、ザックの背中は夜の街へと消えていった。





 酒場の個室に取り残された俺たち三人は、かつてないほど重い空気に晒されていた。

 その沈黙を破ったのは、リリアだった。


「えっと、どうしよう?」

「どうしようって……」


 答えは出ない。

 まさかこんなことになるなんて、誰も想像していなかった。

 普段の陽気なザックの様子からは、あんなことを思っていたなんて到底考えられなかったのだ。

 そんな中、ローザが再びぽつりとつぶやいた。


「……予言者『マーダ』」

「予言者……そうか」


 予言者『マーダ』というのは、勇者や魔王の動きを予言する能力を持った人のことだ。

 例えば俺たちの村で勇者が誕生するということや、先程戦った魔王軍幹部との戦いなんかもマーダの予言によるものだった。


「……マーダさんのところで、勇者の予言を聞くべき」


 ローザの意見に俺が頷き返すと、リリアが勢いよく席を立った。


「よしっ!そうと決まれば、こうしてる場合じゃないよね。明日には出発できるように、準備しなくちゃ!」


 俺とローザもその言葉に従うようにして、急いで酒場を後にした。

 宿に帰ってみるとやはりザックがいた形跡は跡形もなくなくなっており、俺たちもそれを追うように荷物をまとめたのだった。


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