第248話 敵として
目の前に現れたのはアプフェル=シュトゥルーデル。
俺の友であり仲間。
しかし、それはヤツハであった頃の俺。
今の彼女と俺は赤の他人。
だから、駆け寄り、声を掛けるなんて真似はできない。
ただ、じっと彼女を見つめるだけ……。
彼女の身長は俺の知るアプフェルよりも少し伸びている。
俺の居ない七、八か月ほどの間に背が伸びたようだ。
胸の方は…………残念賞。
胸はあれだが、装いは以前とは全く違っていた。
彼女は白いフードを被り、それには専用の穴でもあるのか、ちゃんと猫耳が飛び出している。
服は白を基調としたローブで、生地には様々な属性を現す朱色の紋様が彩られていた。それらはまるで、四季折々の花の模様のように見える。
そして、その装いには不似合いな、黒いグローブ。
それは武闘家としてのアプフェルが身に着けていたもの。
彼女は一歩前に出て、バーグへ問いかける。
その声は、とても冷たい……。
「バーグ=リエージュだな。皇帝ザルツブルガーを
この言葉に対し、バーグは大粒の唾を飛ばした。
「アプフェルさんよっ。これのどこが匿ってるように見えんのかよ? 親父どこに居るかなんて、俺はしらねえっての!」
「それを判断するのはあなたじゃない。それに、あなたにはこのシュラク村での行いに対する罪もある!」
「そいつぁ、まぁ、反論できねぇが……だからとって、はいそうですかって捕まってたまるもんかいっ」
「抵抗を試みると? わかりました。それならば、仕方ありません」
アプフェルは右手を真っ直ぐと伸ばす。
すると、ローブに隠れていた右手首が露わとなり、そこには腕輪がはまっていた。
彼女がその腕輪に向かい何かの呪文を唱えると、腕輪から光が飛び出して、白銀の杖の姿をかたどった。
杖の先端は槍のように鋭く、黒の光を見せ、その刃には木の蔦のようなものが絡みついている。
その様子を見て、俺は声を小さく漏らす。
「マフープも魔力も感じない。マヨマヨの技術か?」
この声にアプフェルは反応した。
「ん、あなたは?」
「え? えっと、俺は通りすがりのものです。関係ありませんので、じゃっ」
ほいっと片手を上げながら、頭をへこへこ下げつつ、ここから立ち去ろうとした。
バーグのおっさんの身がどうなろうと、今ここでアプフェルと戦いたくない。
そもそも、戦いにすらならないだろうが……。
彼女から感じ取れる魔力は以前のアプフェルのものとは比べ物にならない。
さらには彼女が手にする杖が、女神の装具と同じように魔力を大きく補助していた。
今のアプフェルは以前の六龍を遥かに超え、黒騎士の背中に及んでいる。
そんなわけでスタコラとこの場から逃げることにした。
だが、その足を掴む奴が……。
「そんなぁ、つれないぜ、相棒」
「誰が相棒だっ! シャレにならん冗談はやめろやっ。巻き込むな!」
俺はおっさんの言葉をブッ飛ばし、両手を挙げて、アプフェルに抵抗の意志はないとアピールをした。
彼女は軽く首を捻り、声を出す。
「あなたが無関係かどうかはこちらで取り調べを行ってからです。ですので、そこから動かないようにっ」
彼女は言葉の最後に針を飛ばして、俺の足を縫い止めた。
そして、疑いの眼差しを乗せた眼光を飛ばし続ける。
そこから何故か、耳や尾っぽの毛を逆立てながら大きく目を開いた。
「っ!? あなたは!?」
その驚きが何なのかはわからない。
彼女は薄く笑い、何かを呟き、後ろに控える魔導兵に命令を走らせた。
「ふ、ふふ、そう、ついに……全員、その場で待機! ここは私が処分します!」
「処分? アプフェル将軍、よろしいので?」
「彼らはザルツブルガーの情報など持ってはいない。生かしていても無意味。あなたたちも無用な取り調べに時間を取られるのはうんざりでしょう」
「まぁ、それは……」
「あのバーグはこのシュラク村を灰燼に帰した大罪人。甘い取り調べなど不要。この場での処刑こそがふさわしい。皆、下がりなさい!」
そう指示を飛ばすと、魔導兵は命令に従い後ろへと下がった。
アプフェルは彼らに魔法の結界を張る。
その行為に魔導兵たちは疑問の声を上げた。
「将軍、これは?」
「私が全力をもって、彼らを消し飛ばします。その被害を受けないための処置です。あなたたちも後学のためによく見ておきなさい」
「まさか、アプフェル将軍!?」
アプフェルは魔導兵の声を無視して、杖に魔力を充填する。
その姿を見て、俺は怒鳴りつけるようにバーグのおっさんへ声を荒げた。
「どういうことだよっ!? だいたい、なんでキシトルとの国境沿いにアプフェルが!? あいつはヤツハ直属なんだろ? それにいきなり殺しにかかってんじゃん! そんなことしてないんだろ、あいつらはっ!?」
「知らねぇよ! 噂は所詮噂ってことだろっ。くそ、いつから補足されてたんだっ?」
理由はどうあれ、アプフェルは俺たちを本気で殺そうとしている…………あの、アプフェルが。
嫉妬深いけど、明るくて、元気で、とても優しかった女の子が……。
(俺がいない間に何がどう変わってしまったんだよっ、ちきしょうっ!!)
彼女の持つ杖に魔力が電流のように
その力は、神の魔法と称される魔法。
クラス6の雷撃の魔法が、容易く俺たちの目の前で形成された。
ドッジボールほどの大きさの真っ黒な雷球には魔力が凝縮され、触れたものを一瞬にして塵も残さず、焦がし尽くす。
もし、あれが放たれれば、この辺りは全て、焦げ消える……。
俺はアプフェルに呼びかける!
「アプフェルっ! やめろっ! お前はそんな奴じゃないだろっ!」
この問いかけに、一瞬だけ彼女は眉を折った。
しかし、魔力を消すことなく、それどころかさらに力を上げる。
「くそぉ、本気で俺たちを……だけど、何故だ?」
アプフェルの唱える呪文に触れれば、俺たちは消えてなくなる。
そんな大呪文を行使しているのに、殺気は感じない。
それは一体どういうことだろうか?
俺は零れ落とすように言葉を漏らす
「まさか、殺気も産む必要がなくなるくらい、これが今のお前の日常ってわけじゃないよな、アプフェル……?」
こんな問いかけが届くはずもなく、アプフェルは俺たちへ神の名を冠する魔法を解き放った。
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