014 冒険者ギルドの誘致

 昼、我が家には町長が来ていた。


 他にも政府から派遣された役人が二人同席している。


「それで、どうして俺がこの場に呼ばれたんですか? ここが俺の家だからかな?」


 役人共と向かい合うようにしてソファに座り、隣にいる町長へ尋ねる。


「クリフさんはこの町の顔ですからな。事実上の町長といっても過言ではない。重大なことに関する決定は一緒に決めていただきたい」


 この町で生活を始めて1ヶ月も経っていないのだがなぁ、と心の中で苦笑い。


 それはさておき、役人共の本題だ。


「この町に冒険者ギルドと商業ギルドを設置しようと考えています」


 向かって左側の役人が言った。


「いいんじゃないか。冒険者が来てくれたら、俺は土の兵士に魔力を割かなくて済む」


「クリフさんがそう言うのであればワシも賛成じゃ」


「わざわざ俺達にお伺いを立てるってことは、何か問題があるのか?」


「問題という程のことではありませんが、ギルドを設置した場合、ギルドの運営管理費が町の税に加算されます」


「税金の負担額が増えてしまうわけか」


「ですから、ギルドの設置は町長の許可が必要ということに決まっています」


「そうは言われてもなぁ……」


 町長が「どうしたらいいですか?」と俺を見る。


「冒険者ギルドだけ設置しましょう。商業ギルドはウチのレディ・ポーターズがメモリアスまで運べばいいだけなので。そういうことは可能かな?」


「可能でございます。冒険者ギルドは税負担に大した影響を及ぼさないので、そちらの面でも気にされる必要はないかと思います。ですが、冒険者ギルドを設置したからといって、冒険者がこの町に来るかは分かりません」


「冒険者は国に雇われているわけじゃないもんな」


「さようでございます」


 商業ギルドの人間は国に雇われている公務員だが、冒険者は個人だ。功労金などの制度があるせいで、しばしば公務員と誤解されていた。


「我々の調査ですと、冒険者ギルドを設置しても冒険者は来ないと思います」


「ならなんでこんな話をもってきたんじゃい!」


 町長が役人を睨む。


 俺は「まぁまぁ」となだめた。


「今回は、ギルドの誘致が可能になった、ということだけ伝えたいのでしょう」


「クリフ様の仰る通りです」


「そうか……じゃが、なんだかいい気分はせんなぁ。まるでこの町に魅力がないと言われているみたいじゃ」


「言われているみたいというか、堂々とそう言われていますよ」


 町長は「ぐぬぬ」と唸った。


「では、今回はどちらのギルドも設置しない、ということでよろしいですか?」


「そうじゃのう」と町長が頷く。


 しかし――。


「いや、冒険者ギルドは設置してもらおう。そろそろ土の兵士を維持するのが辛くなってきていたところなんだ。俺としては一刻も早く冒険者に来てもらいたい」


 役人が「何言ってるんだお前」という顔をする。


「ですから、設置はできますが、設置しても冒険者が来る見込みは……」


「なら冒険者が来たくなるような町にすればいい」


「クリフさん、それはどういうことですか?」


「簡単ですよ町長。冒険者っては活気のあるところを好む。この場合の活気ってのは、若い奴らがたくさんいて賑やかって意味です。だから、そういう町にすればいい」


「ワシが言うのもなんじゃが、ここは田舎ですぞ。若者が自分から来るとは……」


「甘いな町長、若者は田舎や都会なんて気にしませんよ」


「そうなんですか? ウチのリリアも20になったらメモリアスへ行きたいと常々言っておりましたぞ」


「それはメモリアスが都会だからではありません。メモリアスの方が面白そうに思えるからなんです」


「面白そう……?」


「俺もそうだが、若い奴らは面白そうな所を好む。だから、この町を面白そうに見えるようにする。そうすれば若者が集まり、活気づいて冒険者も来ます」


「そ、そんなことができるのですか……?」


「普通なら厳しいが、俺のコネを使えばできると思います。元Sランカーなので」


「なんと!」


 俺は「そんなわけだから」と役人に顔を向ける。


「冒険者ギルドだけ設置してもらう」


「クリフ様はこう仰っていますが、よろしいですか? 町長」


「もちろん。クリフさんに従うぞ、ワシは!」


「かしこまりました」


 こうして、レクエルドに冒険者ギルドが設置されることとなった。


「それでは、我々は失礼いたします」


 話が済むと、役人は足早に退散していった。


「ふんふんふーん♪ ついついお風呂で寝ちゃったぁ! お仕事のあとのお風呂は最高だなぁ! うっふふふーん♪」


 脱衣室からリリアが出てきた。バスタオルを体に巻いた状態で。


 そして、俺達と目が合った。


「クリフしゃん!? それにおじいちゃんまで!」


「リリア! なんじゃそのはしたない格好は!」


「ひぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


 リリアは脱衣室へ逃げていった。


「……クリフさん、孫娘はいつもあんな感じなのですか?」


「ええ、まぁ」


「けしからんですな。今度、しっかり叱っておきます」


「いやいや、気にしないで下さい。リリアのおかげで毎日楽しいので」


 俺は「それより」と話題を変えた。


「冒険者を呼び込む為に、まずは若者を呼び込む。ここまで決まったわけですが」


「はい。我々にできることならなんだって協力いたしますぞ」


「我々というか、町長に同行をお願いしたいです。ある人のところへ交渉に行くので」


「ある人?」


 俺はニヤリと笑い、頷いた。


「相手は国王陛下――この世界の最高権力者です」

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