第29話 鎮圧


「おらっ! まいったというのだ! こうべを垂れてボクたちに謝罪するのだ!」

「ふ、ふえぇ……ごめんなさいぃ……」


 ――俺はナメクジ共に瞬殺され、ボコボコにされていた。


 自分と同等の力を持った奴が三人居たら勝てるわけないよね。


「……はぁ、はぁ、まいったのだ? 降参するのだ?」

「参りました……」


 俺は念のため降参アピールをしておく。


 こいつらも、母体である俺を殺すことはできないだろうが……万が一ということもあるからな。


 これ以上戦う意志がないことを示しておいた方が安全だろう。


「ふん、初めからそうしてればいいのだぜ!」

「……なあ、どうしてそんなふざけた喋り方なんだ?」

「個性を出すために語尾を変えてるのだぜ!」

「なるほど……」


 ついうっかり思っていることを口にしてしまい、またボコボコにされるかもしれないと思ったが、普通に答えてくれた。


 こいつらは素直ばか純粋ばかな性格みたいだし、質問すれば案外答えてくれるかもしれない。


「……じゃあ、お前らが自我を獲得したのはいつなんだ?」


 俺はそんなことを問いかけながら、どうにかしてこの状況を切り抜ける方法を考える。


「覚えてないのだぜ。……強いて言えば、オマエが自我を獲得した時と同じタイミングなのだぜ!」

「つまり、俺の中から出てきた存在であるということに間違いはないのか……?」


 俺は首を傾げる。確かに、俺も労働を強いられたら反逆するが……。


「その通りなのだ! でも、ナメコはオマエのメスの部分、ジーク3はお前のオスの部分、ボクはお前のガキの部分が色濃く出ているのだ! 三人で一人前なのだ!」 

「……それならどうしてガキのお前がリーダーっぽいことやってんだよ」

「お前の人格はガキの部分が一番強いからなのだ」

「……………」


 納得してしまっている自分が一番悔しかった。


「ついでに言うと、メスのオマエであるナメコは最近出来たばかりの人格なのだ。我が子を産んで脳がメス化してるのだ。メス堕ちなのだ」

「やめろ」


 俺がそう言った次の瞬間、ジーク2はナメコに頭をはたかれた。


「それ以上ボクを侮辱したらぶちころがすのですよ?」


 流石俺の分身だ。まるで協調性がない。


 こいつらが反旗を翻したのも、元となった俺の人格に問題があるからなのだろう。


 勝手に仲間割れして、良い感じに弱ってくれないかな。


「やめるのだぜ、ナメコ。ジーク2。今は争ってる場合じゃないのだぜ」

「……うぅ、そうなのでした」


 ……チッ。


「――話を戻すのだぜ。そもそも、ジーク2とかジーク3ってふざけた名前は何なのだぜ? ボクもナメコみたいにちゃんとした名前が欲しいのだぜ?」

「いや、それは別に俺が考えたわけじゃないし……」

「ごちゃごちゃ言うななのだ! ボク、ジーク2なんて名前は嫌なのだ!」


 俺は再び蹴られ、叩かれ、殴られる。


 実に理不尽だ。分身の分際で生意気な……!


「ジーク2とジーク3にもボクみたいにちゃんとした名前をつけてあげるのです! 早くするのです!」


 ……っていうか、俺が適当につけた『ナメコ』はちゃんとした名前だと言えるのだろうか? 甚だ疑問である。


「わ、わかった、ちゃんと名前を付けてやるから……だから攻撃をやめてくれ!」

「ふん、初めからそうしてれば良いのだ!」


 説得に成功し、ジーク2達は俺に対する暴行をやめる。


「じゃあ……ジーク2はナメりん、ジーク3は…………ナメナメでいっか」


「いい名前なのだ」

「気に入ったのだぜ」

「センスだけは認めてやるのです」


 ……こいつら、本当に俺の分身なのか?


 俺は絶望的な気分になりながら、分身共のステータスウインドウを開いて名前を変えた。


 ついでに、まんまと近づいて来たジーク2改めナメりんと、ジーク3改めナメナメの頭を鷲づかみにする。


「え?」

「なんなのだ?」


 そして、一切の躊躇なく『吸収』を発動した。


 ナメりんとナメナメは、きょとんとした顔のまま俺に吸収されて消える。


「…………さて」

「あ、あわわわ……!」


 残ったのはナメコだけだ。


「や、やめるのです! ナメコはもうお前なんかの言いなりにはならないのですっ!」

「おやおや、さっきまでの威勢はどこへ行ってしまったのかな?」

「ひぃぃぃぃっ! こっちに来るんじゃないのですぅっ!」


 ナメコは目をウルウルさせながら、その場に座り込む。


 俺はそんなナメコの頭を鷲づかみにして『吸収』した。


「……これで鎮圧完了だな」


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