第27話 スキルの検証


「動け!」


 俺はジーク2に向かって命令するが、一向に動く気配がない。


 俺によく似て怠惰な奴だ。殺すぞ。


「動けよッ!」


 殺処分する前に、念のためもう一度だけジークに向かって呼びかける。


「………………ズズッ」


 すると、一センチくらい動いた。


 どうやら死にたくはないらしい。


 ……こいつのこと蹴り飛ばしていいか?


 でも、俺の分身が傷を負って死んだ場合、俺はどうなるんだ……?


 ――分からないことが多すぎるので、感情に任せてどうにかしようとするのはやめておこう。


 今までみたいに、じっくりとスキルを検証していくんだ。


 まずは、分裂したこいつを俺の身体に戻す方法を見つけておかないといけないな。


「……我が分身よ、俺の身体に戻れ!」


 俺は、ジーク2に向かって命令する。


 当然反応はない。


 まあここまでは予想通りだ。


 今度は、脳内で『解除』と念じる。寄生を止める時はこの方法で上手くいくし、多分正解だろう。


「………………………………」

「…………もぞ、もぞ」

「………………………………」

「……………………ズッ、ズッ」


 俺はジーク2を握り潰す勢いで鷲掴みにして『吸収』を発動した。


 すると次の瞬間、ジーク2の身体は発光して消える。


 ――どうやら正解だったようだ。ステータスを確認してみたところ、HPとMPが元の数値に戻っている。


「なるほどな……」


 一歩前進だ。少しずつ我が分身の扱い方が分かってきたぞ。


 *


 それからも、俺は気が済むまで『分裂』の効果を調べ続けた。


 何度もジーク2を握り潰しそうになりながら検証を重ねた結果、分かったことは以下の三つである。


 まず一つ目が、一度に生み出せる分身の数は今のところ三体までであるということだ。分身の名前はそれぞれ、ジーク2、ジーク3、ナメコとなっている。


 最後のやつだけ名前がおかしいが、これは俺が改名したからだ。ジーク4のステータスウインドウを開いてポチポチやっていたら、名前を変えられることに気付いたので、適当に変えておいた。どうやら、分身にも自由に命名できるらしい。


 そして二つ目が、分身に対して『寄生』することはできないということである。まあ、そもそもわざわざ生み出した分身に寄生する意味なんてないし、何も問題はないな! 


 最後の三つ目は、分身のHPが0になっても俺が死ぬことはないということだ。これは、不慮の事故によりジーク3が消滅してしまったことで判明した。


 俺のHPは一時的にダメージを負った状態になるが、回復するのを待ってから『分裂』を使えば、問題なくジーク3を復活させることができた。


 つまり、こいつらは肉盾としてバンバン使い潰しても問題ないということである。俺の分身だから大した情も湧かないし、ここら辺は『増殖』の上位互換だな!


 もしかしたら、我が子を六匹も産んだことでスキルが進化し、『増殖』から『分裂』に変わったのかもしれない。


 もっとも、スキルの進化なんて概念がこの世界に存在するのか分からないが。


「さてさて……」


 俺は一列に並んで、もぞもぞ蠢く分身達を眺める。


 後はこいつらを動かす方法を見つけるだけだな。


 ……そう、未だに肝心なところが分かっていないのである。


 俺が口で直接命令しても動いてくれないし、テレパシーで脳内に直接語りかけてもだめだった。


 どうやら、こいつらには見た目通りナメクジ並みの知能しかないらしい。


 全くもってふざけた奴らである。


「……ズズッ……ズッ」


 ……しかしよく見てみると、一度消滅したジーク3が他の二体と比べて活発に動いていた。


「もしかして……消滅すると少し賢くなるのか……?」


 俺は呟く。


 その考えが合っているかは不明だが、ジーク3の成長を見る限りだと、まともに動いてもらうには何らかの方法で学習をさせないといけないのだろう。


 つまり、こいつらを手に装備して文字通り肉盾にしながら魔物と戦えば良いわけだな!


 俺はそんな結論に至った。

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