第62話 お見送り(1)
そんな感じで西沢さんの家に招かれてご両親と晩ご飯を食べるという、超特大の場外ホームランな突発イベントは。
緊張しながらもつつがなく進み。
僕にしてはかなり話も弾んで、大きな失敗もすることなく無事に終了した。
食後のデザートにケーキまでご馳走になった後、僕は家の前で西沢さんにお見送りをしてもらっていた。
「ごめんね佐々木くん、お父さんとお母さんが自分たちの昔話ばっかりしちゃって。いつもはこんなんじゃないんだけど、娘が彼氏を連れてきたってことで、2人ともはしゃいじゃったみたい」
「あはは、全然気にしないで。西沢さんのご両親が明るくて話しやすい人で僕も楽しかったし」
「そう? だったら良かったんだけど」
ちょっとホッとしたような顔をする西沢さん。
そんなに心配しなくても大丈夫なのに。
結構心配性なのかな?
「雰囲気が西沢さんにすごく似てるなって感じて、まるで西沢さんが3人いたみたいだったから」
「……それって褒めてるの?」
「もちろんだよ?」
「ならいいんだけど」
あれ?
僕としては最大限に褒めたつもりだったんだけど。
「それにステーキもすごく美味しかったしね。僕、松坂牛なんて初めて食べたよ。噛まなくても飲み込めそうなくらい柔らかくて、本気でびっくりした」
「えへへ、実を言うとわたしも今日初めて食べたんだけど、すっご~~~く柔らかかったよね。もうなにこれ!って感じ。お肉が口の中で『ふわぁ~』ってとろけるんだもん」
「『ふわぁ~』だよね、わかる! あ、あとは西沢さんが小さい頃の秘蔵の話も聞けたのも良かったかな」
「うう~っ! お父さんもお母さんもわたしが中学校の遠足でお弁当忘れた話とか、ビアノの発表会でつまづいてこけた話とか、失敗した話ばっかりするんだもん。わたし恥ずかしくて泣きそうだったんだから……」
「子供の頃の話でしょ? もう時効だし、笑い話だと思うけど」
「笑い話じゃないもん、わたしの尊厳の問題だもん。アホの子だって思われて佐々木くんに嫌われたくないんだもん」
「だからそんなことで西沢さんを嫌いになったりしないってば」
「ほんと……?」
「ほんとほんと。むしろ僕が知らなかった西沢さんを知ることができて、今日はすごく嬉しかったんだから」
「えへへ……やっぱり佐々木くんは優しいね」
「また昔の話を聞かせてね、小学校の頃とかさ。あ、そうだ。6年生の修学旅行って西沢さんはどこ行ったの?」
「え、わたし? あの、わたしは……えっと、その……さ、佐々木くんは?」
「僕? 僕は伊勢神宮だったんだ。
「そ、そうなんだ」
「もうすごかったんだよ? 僕が鹿煎餅を取り出した途端に、鹿がいっせいに集まってきてさ。しかもあいつらってばガンガン頭突きをしてくるんだよ。それで僕が鹿煎餅を落としたら、もう僕なんかに見向きもせずに落ちたのを一斉に食べ出すんだもん」
「ええっ、それで怪我とかしなかったの?」
「びっくりしてすぐに落としちゃったからね。そういう意味では下手に抵抗するよりも良かったのかな? それで、西沢さんは修学旅行はどこに行ったの?」
「え、あ、う、うん……わたしは……どこだったかな?」
「……え?」
(あれ? 修学旅行でどこに行ったか、西沢さんは覚えてないのかな? 修学旅行って小学校で最大のビッグイベントだよね? いや別にいいっちゃいいんだけど。そりゃそういう人もいるかもだよね)
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