第42話 「またやっちゃった……」

「ごめん佐々木くん、ちょっと待っててくれる?」


 ゲーセンを出てウインドウショッピングを再開した僕と西沢さん。

 するとちょっとしてから西沢さんが急にそんなことを言ってきたのだ。


 ずっとつないでいた手もパッと離されてしまう。


 もうすっかり手を繋ぐのが当たり前みたいになっていて、西沢さんの温もりを失った空っぽの手がなんともいえない寂寥感を伝えてくる。

 

「なにか用事でも思い出したの? 買い物なら僕もついていくけど。一緒に行こうよ、どこだってついていくから」


 西沢さんともっと一緒にいたいと強く思った僕は、だからそう提案したんだけれど、


「そ、それはダメだもん……」


 西沢さんはふっと僕から視線を逸らすと、蚊の鳴くような小さな声でそう言ったのだ。


「遠慮なんてしなくていいってば。服を選ぶのにいろいろとアドバイスもらったお礼、に今日はどこにだって付き合うからさ」


「ううん、ほんとそういうのじゃなくて……」


「西沢さんがいて僕、本当に助かったんだもん。僕だけじゃこんないい買い物するのは絶対に無理だったから」


 だからそれくらいしないと感謝にもお礼にもならないよね。


 さっきゲーセンで対戦に熱中しすぎて西沢さんをほったらかしにしてしまった負い目もある。


 今日はとことん西沢さんに付き合うよっていう並々ならぬ決意を、だから僕は西沢さんにこれでもかと伝えたんだけど、


「だって、その、付き合われたら逆に困るんだもん……」


 西沢さんは遠慮しっばなしなのだ。


「ほんと遠慮はいらないから、ね?」


「佐々木くんの気持ちはすごく嬉しいんだけど、今はそういうことじゃなくて……」


 西沢さんは週刊誌にすっぱ抜かれて国会で野党から疑惑を追及される閣僚みたいなあいまいな答弁に終始するのだ。


「と言うと? どういうこと? ほんと全然気にしなくていいんだよ?」


「ィレだし……」


 西沢さんがものすごい小声でぼそっと言った。


 あまりに小さい声だったから、西沢さんの口元を見ていなかったらしゃべったと認識できなかったと思う。


 でも僕は感謝の気持ちを伝えたい気持ちもあってしっかりと西沢さんの顔を見ていたから、何かしゃべったんだということを見逃すことはなかったのだ。


「ごめん、ちょっと周りがうるさくてよく聞こえなかったからもう一回言ってもらっていい?」


「だからトイレなの! わたしはトイレに行きたいの! 恥ずかしいから佐々木くんはついてこないで~」


 目をつぶった真っ赤な顔で、えいや!って感じで叫ぶように言う西沢さん。


「ご、ごめん! ついていかないから! ちゃんと前で待ってるから!」


 ようやっと全てを察した僕は、慌ててそう言ったのだった。

 周りを見渡すと、すぐ目の前に女子トイレの表示があることに気付く。

 

「こんな話しちゃったら、前で待たれてると思うとそれだけで恥ずかしいから、できれば離れたところで待っててほしいかな……」


「何から何までまったく配慮が足りなくてごめんなさい! エスカレーター前のミニ広場で待ってるから!」


 ほとんど涙目になってしまっていた西沢さんに僕は全力でごめんなさいをすると、すぐに背中を向けてエスカレーター前の広場へと急いだ。


「またやっちゃった……」


 デート初心者丸出し、いろいろと察してないだけでなく、乙女心がまったくわかっていないダメンズな僕だった。

 ゲーセンでの失態をなんとか取り返そうと、気合いが変に空回りしたのも痛かった。


 それにしたって女の子にトイレについていこうとするだなんて、ダメすぎるでしょ僕……。

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