第6話 ラブレター(1)
職員室に向かったボクと西沢さんは、
「佐々木が手伝ってくれるのか。悪いけど2人で頼んだぞ」
すぐに大量のプリントを手渡された。
両手でプリントを抱えながら西沢さんと一緒に視聴覚室に運ぶ途中、なんとなく2人で会話をする。
「ごめんね佐々木くん、急に手伝ってもらって」
「ううん、そもそも西沢さんだって先生に頼まれたんだし。それに僕の方こそ男なのにあまりたくさん持てなくて申し訳ないっていうか……」
「全然そんなことないし。わたしよりいっぱい持ってるし」
「まぁ、ちょっとだけね」
悲しいかな、中学からずっと帰宅部で貧弱極まりない僕は、腕力も同年代男子の平均に大きく劣っている。
そのため西沢さんより気持ち多めに持つくらいしかできなかったのだ。
(西沢さんと二人きりっていう滅多にない機会に、少しはいいところを見せたかったんだけどなぁ)
いかんせん視聴覚室は別棟の3階にあって職員室から結構遠かったので、無理はできなかった。
ほんと自分で自分が情けない。
(でもこの前スイカを無理して持って大変だったからなぁ……経験は生かさないと……)
内心そんなことを考えていた僕に、西沢さんは相変わらずの柔らかそうな笑顔で会話を続けてくる。
心なし、並んで歩く距離がさっきより近いような?
「そう言えばこうやって佐々木くんと話すのって初めてだよね」
「あ、うん。そうだね」
「佐々木くんって物静かで一人でいることが多いもんね、孤高って言うのかな。でも話してみたら結構普通で安心したかも。えへへ」
「そ、そう?」
物は言いようってやつだね。
ぼっちも裏を返せば孤高ってことになるのかな?
って、なるわけないよね、うん。
さすが天使と呼ばれる西沢さんだ、僕を傷つけないための優しい配慮が随所に感じられるよ。
「あ、そうだ。なにか困ったことがあったら言ってね。今日のお礼に今度はわたしが佐々木くんのお手伝いするから」
「ありがとう西沢さん、なにかあったらその時は西沢さんに頼みに行くね」
もちろんそうは言っても僕ももう高校生なので、西沢さんの社交辞令を真に受けたりはしない。
そもそもの話、西沢さんだって先生にお手伝いを頼まれただけなのだ。
先生に頼まれたことをクラスメイトの僕が手伝っただけなのに、それでお礼もなにもないだろう。
というかもし真に受けて下手に西沢さんになにか手伝わせようものなら、僕は間違いなくクラス中のヘイトを一身に集めることになる。
底辺男子が何様のつもりだ、身の程を知れってね。
僕にそんな無謀な勇気があるはずもなかった。
そうして、なんとなく西沢さんに認知されてきた感がある日々が1週間ほど続いたお昼休み。
今日のお昼は学食でわかめうどんを食べた僕が教室に戻ってくると、
(あれ? なんだろ? 手紙?)
僕は自分の机の中に一通の手紙が入っていることに気が付いた。
なにげなく手紙を取り出しかけて、だけど僕は即座に机の中に突っ込み返した。
だって、だって――!
ピンク色の可愛らしい封筒は、どこからどう見ても女の子からのラ、ラ、ラ、ラブレターだったんだもん!!
(だ、誰にも見られてないよね!?)
僕はそれとなく周囲に視線を送ったんだけど、そもそも好んで僕を見ている人間はいないということにすぐに思い至る。
あ、でもなぜか西沢さんと目が合ったような?
しかもにこっと微笑まれたような?
えっ!?
まさか西沢さんが僕にラブレターを!?
うん、ないね。
100%ないね。
ありえない妄想はやめよう。
さすがにこの妄想は痛々しいを通り越して、もはや西沢さんに失礼まである。
僕と西沢さんに挨拶以外の接点はほぼない。
しいて言うならこの前の移動教室の時にプリントを運ぶ手伝いをしたくらいだ。
ってことはだ。
僕が挙動不審だったのをたまたま偶然見てしまった西沢さんが、なんとなく視線を向けてきたのだろう。
あ、もしかしてラブレターを取り出しかけた瞬間を西沢さんに見られてたのかな?
僕がラブレターを貰ってたことをイチイチ言いふらしはしないだろうけど、ちょっと恥ずかしいかも。
すぐに確認したかったんだけど、そろそろチャイムが鳴る時間だった。
教室は人の目があるのでラブレター――かもしれない手紙はひとまずこのまま机の中に隠しておいて。5時間目の後の休み時間に、誰もいない場所でこっそり確認することにする。
(お、落ち着け、落ち着くんだ僕……とりあえず今は考えても仕方がない。授業に集中しよう)
そう思ったものの。
差出人が誰なのかとか、本当にラブレターなのかとか、なんで僕なんだろうとか。
そういったことをあれこれ考えてしまったせいで、5時間目の古文の授業で何をやったかは全く覚えていなかった。
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