第4話 佐々木くんと西沢さん(1)

 とまぁ朝一でそんなことがあり。

 それから朝のホームルームが終わって、授業が始まったんだけど――。


(な、なんとなく西沢さんが僕を見ている気がする……)


 休み時間とか特にそうで、目が合ったりまでしちゃった気がするのだ。


 もちろん気がするだけだ。

 僕ももう高校生になって自分の容姿や人付き合いの下手さ、学校内での立ち位置やらをそれなりに理解できてしまっている。


 なので西沢さんが僕のことを見ているなどと考えるほど、自意識過剰ではなかった。


 さっきも目が合ってふんわり優しく微笑まれた気がしたけど、多分僕の斜め後ろのあたりで集まって昨日のドラマについて「エモい」「ヤバイ」「勝たん」ととても楽しそうに盛り上がっている、カースト1軍のイケメン君でも見ていたんだろう。


 抜群のイケメンっぷりに加えて入部早々いきなりサッカー部のレギュラーを獲ってみせた彼は有無を言わさぬカースト1軍のリーダーであり、なので女子からの人気も極めて高い。


 だから男子が苦手という西沢さんであっても、そんな彼にはついつい視線を向けてしまうのも納得できる話だった。


 逆にここで僕がにっこり微笑み返しちゃったりすると、「勘違い君」として卒業まで延々とネタにされて笑われかねない。

 実際には心優しい天使のような西沢さんはそんなことはしないんだろうけど、だからこそそんな西沢さんに勘違い系のイタイ男子と思われるのは遠慮したい僕だった。


 せめて普通の底辺男子として認識してもらいたい。


 あと目が合うってことは僕が西沢さんを時々チラ見していることが西沢さん本人にバレてしまっているわけで、これは大変よろしくないことだよね。


 時々チラ見するくらいとはいえ、僕なんかに見られているとわかったら西沢さんもいい気はしないだろう。

 女子は視線に敏感だって深夜アニメのヒロインもよく言ってるし。


 しばらくは西沢さんを見ないように気を付けるようにしよう。


 僕は同じクラスということもあって自然と目が向いてしまう時以外は、極力西沢さんを見ないように心がけることにした。


 そして今日の授業を全部終えた帰り際。


「佐々木くん、また明日ね。バイバイ」


 僕は朝と同じように、西沢さんから声をかけられたのだ。


 そして軽く手まで振りながらふんわり優しい笑顔で言ってくれた西沢さんに、僕は緊張で完全にテンパってしまって、


「ば、バイバイ西沢さん」


 とぼそぼそ情けなく答えたのだった。


(なんかもう死んじゃいそう……声をかけてもらえて嬉しくて死にそうなのと、せっかくの機会にボソボソとしか返せない陰キャな自分が辛すぎて死んじゃいそう……)


 それにしても、だ。

 まさか朝だけでなく帰りまで西沢さんから挨拶してもらえるだなんて、今日の僕は人生の運気というものを全部費やしてしまってるんじゃないだろうか?


 明日から一気に反動が来そうでちょっと怖いかも。

 事件や事故に巻き込まれないように少し注意をしておこう。


「でもどうして西沢さんが僕なんかに挨拶してくれたんだろう?」


 帰り道やお風呂の中でずっとその理由を考えていたんだけれど。

 残念ながら全く思い当たる節があるどころか、あの時偶然すれ違った以外に僕と西沢さんにはまともな接点すらなく。


 いくら考えてもこの問いに答えが出ることはなかった。

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