Case 3 ~アマチュアデート商法男子④~
「はぁぁぁ!? 今度は三島をハメるってか!! 最近攻めてるねぇ、羽島っち」
三島と邂逅した翌日。
俺は米原に次のターゲットとして、三島を予定していることを話してみた。
今回、傍観者であるとは言え、俺はこれまで彼女の人生を歪めてきた張本人だ。
彼女から言い出したこととは言え、俺が何もしないワケにもいかない。
彼女へのヒントとして、三島に関する最低限の情報を入手しておく必要がある。
とは言っても、所詮は俺だ。
この男以外に伝手などないし、使えるものは猫の手でも米原の顔でも何でも使おうと思い、こうして協力を要請している。
例え、この男が放つ無神経な一言によって、心が揺さぶられようとも……。
「……その呼び方はやめろ」
「わ、悪いっ! 今さらだけど、良いアダ名だなって思ってさ! 何か、こうキャッチーでフランクな感じするだろ? な? な?」
『しまった!』とばかりに慌てて弁明に走る米原だが、別に悪気がないことくらいは分かる。
むしろ、未だにこんなことで精神が乱れてしまう俺の方が、迷惑この上ない人間だろう。
「別にしねぇだろ……。それでだな、三島について色々と教えて欲しい」
「情報つってもねぇ……、具体的に何が聞きたいんだよ?」
俺は豊橋さんが三島を攻略する上で、必要に成り得る情報を要求した。
「うーん、アイツの好きな服装と髪型にメイクねぇ……」
「まぁ、髪型は時間がないにしても、服装とかは何とかなるだろ? だからさ……」
「いや、まぁそれは分かるんだけどさ……。ホントにソレだけでいいのか?」
「……どういう意味だ?」
「だってさ、そもそも豊橋さんを誘ってきたのはアイツだぜ? まぁ豊橋さんがアイツの好みかどうかは知らんけどさ。少なくとも悪いようには思ってねぇだろ。だから別に、見た目云々は今さらそこまで気にすることじゃねぇんじゃねぇの? 第一、それだけ聞いたところで豊橋さんの成長もクソもねぇだろ」
分かっている……、そんなことくらい。
もっと聞くべきことなど、山ほどある。
「お前さ……、ホントはあんまり知りたくねぇんじゃねぇの? 知らんけど」
決定的な一言を言われてしまった。
そして、米原はなおも俺の図星をついてくる。
「まぁ別にデート商法なんだから、『その程度で構わん』って言われたらそれまでなんだけどさ。お前が知りたい情報で、三島の何が分かるってんだよ」
「そりゃあ……、アイツのタイプとかだろ」
「タイプねぇ……。そもそもさ、ソレ知ったところで、ぶっちゃけしょうがなくね? 豊橋さんは豊橋さんだろ? だから、こうなんつぅか、もっとこう……、アイツの人間性とかバックグラウンド的な?」
米原の言う通り、所詮はデート商法だ。
相手が求めているのは、その場限りの心地の良い嘘なのだから。
だから、肝心なのはそんな表層的な話じゃない。
俺は知るべきだ。
俺が三島を過剰に恐れ、豊橋さんを近づけさせたくない理由を。
「俺さ。たぶんこのままだと言い過ぎちまう……。だからもうお前から聞かれても何も言わねぇよ。でも、これだけは言っておくぞ」
米原はひと呼吸を置き、再びその口を開く。
「お前はもう逃げられないところまで来てるよ。豊橋さんからも。彼女からも」
それだけ言うと、米原はいつもの喫煙ブースへ向かっていった。
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